人を攫う空間 4
蓮花が戦闘を始めたときには既に、夕来はその場を離れていた。彼女には妖精を探すという目的がある。彼女は草原の中には妖精はいないと考えて、森の中に入った。普通の人間ならやらない行動だが、彼女は躊躇もなく森の中に入っていく。ほとんど光が入りこまない森で、森の木の下は夜とあまり変わらない。森の外が明るかったということもあって、森の中に入ってすぐには目が慣れずにあまり見えなかったが、しばらく森の中を歩いていると、その目も慣れていき、少しずつ見えるようになった。さすがに彼女の目では、暗い森の中では遠くまで見渡すことは出来なかったが、それでも全く見えない状態と少しでも見える状態では咄嗟のことでも対応の差が出るだろう。
森の中を進んでも、自分以外の人は見当たらない。そもそも、森の中に進んで入ろうとする人はいないだろう。光の差し込む森のではなく、光が入らず、外彼見ても、森の奥までは見えない程の暗さなのだ。この世界にいきなり飛ばされて、不安な中、恐怖心を増すような場所に自ら飛び込む人はほとんどいないだろう。彼女には目的があるからこそ、物おじせずに入っているが、何の目的もなければ、彼女がって進んで森の中に入ろうとは思わない。
周りを警戒しながら、森の中を歩いていると、暗闇の先に明るくなっている場所が見えた。夕来はその場所が次の平原だと思い、少しだけ急ぎ足で進んでいく。
(ここは、周りは暗い……)
白希の肩の上にいたはずの彼女はいつの間にか森の近くの平原に飛ばされいた。ほぼ森の中にいるようなもので、彼女には森の木々が作った影の中に座り込んでいた。辺りを見回しても、近くには白希も朝野姉妹もいない。心細いとは思うものの、白希のことを考えれば、ここでじっとしているわけにもいかない。おそらく、彼も必死になって自分とフレイズを探していることだろう。フレイズに関しては、ショウカが近くにいるかもしれないと考えているため、まだ冷静さを保っていたが、自分は彼の肩の上にいたのにも関わらず、いきなり攫われてしまった。それを彼は自分のせいだと考えているだろう。そして、それ以上に、いきなりいなくなったことも加えて、朝野姉妹たちのことも考えずに、捜索しているはずだ。
(未来視でも、まだ何も見えない)
彼女の超能力の副作用でも未来を視るための情報が少なすぎるようで、未来を視てから、白希を探すことは出来なかった。
ミストはあまり動ける方ではない。それに他人との会話、同族の妖精たちともあまり上手く話すことが出来ない性格だ。未来が見えてしまうという副作用のせいで、彼女は自身の言葉や行動に対して、かなり敏感になっていた。しかし、白希はそう言ったことも考えていたようで、ミストが視た未来が悪いものでも彼が何とかしてくれると約束してくれたのだ。だから、ミストは白希のためにしか未来を視ることはしなくなった。彼が自分のために行動してくれるというのなら、それを手助けしたいと思うのは当然のことだろう。だから、彼女は臆病で慎重でありながらも、彼女自身も白希を探すことにした。座っていた彼女はふわりと空に浮く。運動神経が無くとも妖精にとって、飛ぶことは人間にとっての歩くことと同じ。さすがに彼女も普通に前後左右に飛ぶだけなら難なくこなせるのだ。彼女は空を飛び、森の木々の影から抜け出した。
しばらく、草原を飛ぶ。遠くには白希ではない人間が見えた。それは朝野姉妹でもないようだった。
(白希の世界の人……? この世界に攫われているのは、二人だけじゃなかったってこと? 白希なら助けるけど、今のボクじゃ助ける方法もわからない)
それに彼女は自身の姿を思い出す。白希の世界の人間は妖精は架空の生き物として定着しているのだ。いきなり本物の妖精が出ていっても、自分の目を疑うだろう。フレイズが話していたことだが、初めて白希に会った時も驚いて興奮していたらしい。この状況でそんなことになったら、彼女は自分の手に負える事態ではなくなるだろうと思った。
(場所だけ覚えておいて、白希と合流したら、ここに来よう)
ミストの記憶力はかなりいい方だ。未来を引き寄せる超能力を使うにしても、見た未来を覚えておく必要がある。その未来ではな荷をすれば、その未来を引き寄せられるかと言うことを覚えていなければ、その超能力を使いこなすことは出来なかっただろう。
彼女は更に草原を進む。高い場所を飛んで、空から探すことが出来れば、いいのだが、彼女はそう言ったことは出来ない。高く飛んでも、周りを見るような余裕はなく、下に戻るときも勢いあまって地面にぶつかるなんてことを想像してしまい、うまく飛べないのだ。彼女にはとにかく、草原を移動することしかできなかった。