広大な草原 5
猩花に向かって飛びかかる小型の恐竜の魔獣は、ハチの牙によって止められていた。相手の手に器用に噛み付き、相手を飛んできた方向へと投げ飛ばす。
「ショウカ。ぼうっとしてる場合じゃない! 戦わないとダメだ!」
フレイズは彼女が未だに深いうつ状態の中にいるのではないかと考えていた。だから、大声で彼女を鼓舞しようしていた。だが、既に彼女のうつ症状は収まりつつある。彼女の心にも元気が戻ってきていた。
「うん! わかってる! フレイズも力を貸して!」
猩花が前のように元気な言葉を返したことで、猩花がうつ状態から抜け出したなんだとわかった。フレイズは大きく頷いた。
「フレイズ! れっどどらごんぶれす!」
三度目の使用。彼女の中にあるレッドドランブレスは白希のものとは多少は違う物ではあるが、その魔法にも慣れてきていた。火炎が放射され、彼女の正面にいた二体を炎で焼く。しかし、魔獣は火炎放射の中から出てきた。火の魔法が効果がないのだとしても、火の魔法以外は彼女には使えない。
だが、彼女もすぐに襲われるというわけでもなかった。小太郎たちが彼女に近づこうとする魔獣を押し返しているからだ。小太郎たちが持っている間に一体を仕留めたい。
「フレイズ! 火のやり!」
猩花は自身と戦っている魔獣の内の一体に向けて、魔法を使用する。レッドドラゴンブレスではない魔法だ。魔法を使うための手順を理解している彼女はすぐに他の魔法も使うことが出来るのだ。彼女の正面にレッドドラゴンブレスと同じように、火の球が出現した。それは形を変えて、槍の形になる。火の槍は相手に向かって飛んでいく。しかし、魔獣の目でも追うことが出来てしまう魔法であるため、魔獣は炎の槍を簡単に回避してしまう。槍は魔獣の後ろにあった木に突き刺さり消滅する。
「フレイズ、もう一回! 火のやり!」
再び彼女の正面に槍が出現する。今度の槍は一本だけではなく、何本ものやりが 出現していた。そして、それらの槍が魔獣に向かって飛んでいく。その速度は先ほどのよりも速い。しかし、その魔獣はその槍の軌道を見切っていた。だが、魔獣にはその全ての魔法を躱すことは出来なかった。ただ単純に真っ直ぐ飛んでいくわけではなく、火の槍を相手の逃げ道を防ぐように飛ばして攻撃していたのだ。その結果、逃げ切れなくなり、火の槍が直撃した。それも彼女は胴体を狙ったわけではなく、足の付け根の辺りに火の槍を当てていた。彼女は一撃で沈めることよりもまずは相手の素早い動きを封じたのだ。速度が無くなった小型の恐竜の魔獣は大して脅威ではなくなり、彼女は再び火の槍を出現させて、相手の胴を狙って飛ばした。速度を失った魔獣は回避を心見るも先ほどよりも遅い速度では槍を回避しきることは出来ない。先ほどよりも多く槍に当たり、更にダメージを与えることに成功していた。
「よし! すごいすごい、さすがショウカ!」
フレイズも猩花の戦い方を褒めていた。しかし、五体の内の一体を倒しただけだ。猩花は一体を倒しただけでは喜ばなかった。彼女は既に次のターゲットに向けて行動を開始する。まずはウサギのイナバが戦っているところに加勢に行く。
「イナバっ! もうちょっとだけ一緒に頑張ってくれる?」
猩花の言葉にイナバは鼻をぴくぴくと動かして返事をした。その動作は彼女の言葉に賛同しているものだ。イナバは魔獣と互角に戦っていたのだ。彼女は来れば勝てない道理はない。猩花はイナバのドロップキックと同時に魔法を使う。彼女の火の槍は彼女のぬいぐるみたちを燃やすことはない。レッドドラゴンブレスは火力が高すぎて、物理にも干渉してしまう。だが、火の槍の火力ではぬいぐるみや他のものに火がついてしまうことがないことは先ほど、回避された火の槍が気に突き刺さったときに確認できていた。
イナバのドロップキックと猩花の火の槍の同時攻撃に二体目の魔獣はよろめいていた。そもそもイナバの攻撃を受けていたのだ。二人同時の攻撃を回避できるはずもなく、ダメージも蓄積されていた。最後の止めはイナバの体当たり。小さな体ではあるが、強力な足腰があれば、ただの体当たりでもダメージが与えられる。二体目の魔獣もそれで終わりだ。
続けて、にゃむは既に魔獣を追いつめていて、魔獣をギリギリ倒さないダメージを蓄積させているようだった。魔獣の動きは既に弱弱しく、攻撃できる状態ではなかった。体表面にはにゃむの爪の跡が大量についていた。みゃむは自身の前足を舐めて、毛並みを整えている。猩花が近づいていくと、彼女に気が付いて、視線を向けた。その視線には、止めはどうぞと言っているような風だ。猩花は火の槍を使って止めを刺した。
そして、最後に二体を相手にしてくれていた小太郎の近くに移動することにした。