広大な草原 3
猩花の前に向けられた丸い球体から何かが噴き出た。フレイズはそれに気が付いたが、彼女の前に入ることは出来ない。その代わりに、彼女は火の魔法を使って、彼女に火の魔法が当たりないように、青い霧状の何かを吹き飛ばそうとした。結果的に、青い粒子はその量を少なくすることが出来たのだが、全てを吹き飛ばすことは出来なかった。青い粒子を吸ってしまった彼女はその場に膝を付いて、頭を抱えてしまった。
「わたしは、やっぱり役立たずなんです。どうせ元の世界にも戻れないかもしれない。ならこの場所で死にたい」
「ショウカ! 勝機に戻って! 敵を倒して、元の世界に戻らないといけないよっ」
フレイズが声を掛けるも、彼女の耳にはその言葉は入っていないようだ。うずくまったまま、動こうとはしなかった。そんな彼女に敵の蔦が彼女に迫る。小太郎がその蔦を抑えたように見えたのだが、蔦の力に負けて吹っ飛んだ。足で地面を抉りながら、後ろに移動させられる。その途中で、小太郎の体が縮んでいく。最終的には小太郎は元の、猩花が両手で抱ける程度の大きさのぬいぐるみに戻ってしまった。他の仲間もぬいぐるみに戻ってしまっていた。彼女の戦意が喪失してしまったために、超能力が解除されたのだ。今、この場所で戦えるのはフレイズだけだ。だが、フレイズ一人で奮闘したところで、猩花が使うことが出来るような魔法は使えない。物量だけの力任せの魔法しか使えない。しかし、ここで一人逃げ出すわけにはいかない。どうにかして、猩花に被害が及ばないように、戦わなければいけない。そして、彼女を正気に戻さないと、この状況を切り抜けることもできない。
「ショウカ……。私が守らないと、シラキがやってくれてたみたいに、私もやるんだ」
フレイズが火の魔気を自身の体から放出した。彼女の周りの温度はかなり上昇している。人間が触れれば、熱さに手を反射的に退くような温度。それは妖精特有の魔気の使い方。他の種族に比べて、圧倒的に魔気を保有できるからこその能力だ。彼女の周りに熱が、彼女の体に沿って張り付く。それらは、青く光る鎧となる。左肩に肩当て、彼女の胴を包む胸当て、右手には青い籠手が装着される。そして、顔女の赤い髪の毛先が淡く青く光っていた。そこからは微かに光る粒子が毛先から放たれている。
「ブルーフレイム」
彼女がそう呟くと、彼女の正面に青い火の球が出現した。その炎は彼女の手のひらほどの小さな炎だったが、徐々にその炎は大きくなっていく。彼女の体よりも大きくなり、その炎は成長を続ける。その間にも蔦の魔獣が攻撃してきていたが、相手の蔦は熱によって、近づけない。彼女の攻撃を防ぐこともできない。地面から自身の根っこを進ませて、攻撃しようとしていたが、地面すらその熱を吸収しきれず、根っこが耐えられない程の熱を持っていた。本当に何もできない。魔獣の行動には逃げるという選択肢は存在しない。それは蔦の魔獣だけに限ったことではなかった。
「青き炎に焼かれて、死ね」
フレイズの何十倍かの大きさの青い炎の球は相手に向かって飛んでいく。相手はその炎を躱すために地面に体を潜らせようとした。だが、青い炎がそれを許さない。ブルーフレイムが近づいていくにつれて、地面にある植物が熱に焦がされ、その舌にある土が抉れて、魔獣は土に潜りきることが出来ない。蔦の頭の部分がどうしても土の中に隠せないのだ。やがて、青い火の球が持つ熱によって、蔦が熱くなっていく。そして、ついに蔦のに火が付いた。青い炎が蔦の前肢を焼いていく。緑の蔦だけではなく、根っこも焼け尽きて、魔獣は跡形もなく燃焼した。
「これで、大丈夫だよね」
魔獣が焼け尽きたのを見届けると、フレイズの体から青い鎧が粒子となって消滅した。青い毛先も元の綺麗な赤色の戻った。そして、彼女は弱弱しく飛び、うずくまっている猩花の元に移動する。彼女の傍らに降り、彼女に寄り掛かっていた。火の魔気を司る妖精で熱には強いが、完全な耐性があるわけではない。青い炎の熱を浴びながら、火の魔気を放出して、更に火の魔法を使っていたのだ。体力と魔気が消耗したのだ。疲れてしまうのも無理はない。
猩花の足に寄り掛かり、疲れた様子でも彼女は意識を保っていた。本当ならすぐにでも眠りたいところだが、もし眠ってしまえば、次の魔獣が襲撃してきたときに対応できないと考えていたのだ。そんな彼女を猩花の視界の端に移った。体力がギリギリでも、彼女が戦ってくれたのだ。
(……わたしのため。わたしは、こんなことしてる場合なの?)
お姉ちゃんたちとお兄ちゃんと並んで戦えるくらいにしっかりした大人になりたいと願う心を彼女は思い出す。その心が彼女の体を動かした。未だにうつ状態で、死にたいと願う心も消えてはいない。だが、それ以上にフレイズを助けたいと思ったのだ。彼女はフレイズの体をそっと持ち上げる。
「ショウカ……?」
「大丈夫。あとは、わたしがやるよ。フレイズが頑張ってくれたから、次はわたしの番。だから、休んでて」
猩花のしっかりとした言葉にフレイズは頷いて、目を閉じた。