広大な草原 1
「な、何とかやっつけた……」
猩花は草原の腕にしりもちをついて、そう呟いた。目の前には黒い液体のような体を持つ魔獣がいたはずだが、その場所には何もいなくなっていた。それは猩花とフレイズが魔法を駆使して倒したからだ。
「ショウカ、やっぱりショウカは凄いよ!」
フレイズが彼女の周りを飛び回りながら彼女を賞賛する。褒められた猩花はまんざらでもないように後頭部を手で撫でながら、照れた様子だ。彼女たちが遭難している状態で鳴ければ、微笑ましいと素直に感じることが出来るだろうが、そんなことを考えている状況でもない。
「でも、今回は勝てたけど、次出てきた魔獣には勝てないかもしれない。だから、またフレイズの力かしてね」
フレイズは大きく頷いていた。二人はお互いに、お互いがいれば、みんなのいる場所に戻ることが出来ると思っている。互いにこの戦闘でただの友達と言うような感覚から、生死を共にする仲間のような感覚がお互いに芽生えていた。お互いを信頼しているのが、お互いで理解しているというわけだ。だからこそ、こんな状況でも二人とも明るく振舞うことが出来ている。
だが、魔獣と戦ったこともあり、彼女たちがスタートした場所からは遠く離れた場所にいた。二人はそのことについては意識の外にあるようで、自らの力で元の世界に戻ろうということしか見えていない以上、そこから動かないという選択肢が生まれなかった。もちろん、姉妹や白希たちが自分たちを探してこの世界まで来ているということも知らないため、その場所でとどまり、迎えを待つという選択肢は生まれるはずもない。
「困りました。どっちに行けば、出口があるのかわかりませんね」
猩花は小学生らしい小さな腕で腕組をして辺りを見回していた。何度も辺りを見回しているが、その景色が変わることはない。わかったことと言えば、ほとんど何もないということくらいだ。それがわかったところで、何ができるというわけではない。幸いなのは先ほどの魔獣が平原に溢れいているなんてことがないということだろうか。
困り果てた二人はとりあえず歩くという選択をした。真っ直ぐ歩いていれば、いずれ、この平原の端に着くだろうと考えていた。
「もう一度、空から探してみます」
菜乃花と蓮花は何度か空に移動して、上から猩花を探そうとしていたのだが、空から人一人の影を見つけるのは難しい。この空から探すというのも何度も草木の揺れを人の動きと勘違いして、何度も移動しては落胆していた。
「駄目ですね。空から見ても、全く何も見えない」
彼女が空から見て、わかったことと言えば、自分たちがいる場所の四方が森に囲まれていると言ことだろうか、そして、四方を囲んでいる森の外にはさらに草原が広がっている場所がいくつかある。自分たちと同じエリアに猩花がいる可能性はあまり高くはない可能性があった。
「他の草原に向かって方が良いのかしら……」
「そうですね。テレポートを何度か使えば、森の上を超えて、移動でき素ですが」
「でも、そうしてしまったら、蓮花ちゃんが消耗しちゃうでしょ。それで元の位置に帰れないってなったら、竜花ちゃんたちが心配してしまう。……空を飛ぶなら私の超能力にした方が良いわね」
「それは最後の手段でお願いします。どちらにしろ、消耗しきると不測の事態に他所出来なくなりそうです」
菜乃花と蓮花は慎重だった。白希のように長時間戦闘できるわけではない。菜乃花に関しては、自身の超能力を制御することが出来なくなる可能性もある。むやみに超能力を使わない方が良いというのは二人の共有の認識。だが、自分たちの慎重さのせいで焦燥感が募っているのも自覚していた。それでも二人は超能力も使わずに、自らの足で歩き続ける。
白希たちは、草原を歩いていた。三度ほど、菜乃花のように空から周りを確認するということをしていたが、それは自分たちの位置を定期的に調べるためだ。草原は広いが、少し宙に浮くだけで近くの草原は見渡すことが出来ていた。周りは森で囲まれていることも確認している。
「猩花は無事だよね」
「大丈夫。猩花だってただの人間じゃないよね。それに、フレイズと一緒にいるかもしれないから」
彼らには猩花がフレイズと一緒にいるという確証はなかった。白希の言葉は自分にも言い聞かせているのだ。フレイズの体調の多少の変化はあったようだが、瀕死や動けない状態と言うわけではなさそうだ。必要以上に心配することはない。そう自分に言い聞かせて、冷静さを保つ。頭の片隅には、フレイズが無事ではないかもしれにと言う最悪な状況を想像する自分がいるが、それを押さえつけて、二人を捜索し続ける。