足掻いて渡って 7
琥珀の元に来ると、琥珀も全員に気が付く。彼の周りにみんなが集まると、彼は口を開く。
「扉を開く準備は完了しているが、どうする?」
そんなことは聞かれるまでもなく、全員が目を合わせて、頷いた。皆の代表として菜乃花が彼の言葉に返事をした。
「すぐに行きます。猩花のいるところまでの扉を開いてください」
「……わかった。一応言っておくが、わしはついてはいけない。こちらに戻ってくるには、わしはここにいなければいけないからな。……では、扉を開くとしよう」
彼の隣に黒い縦長の楕円が出現した。それが扉を言うことなのだろう。しかし、移動する先のことはこちらからは何も見えないというのは不安がある。しかし、その不安よりも猩花への心配の心の方が勝つ。菜乃花が最初に飛び込んで、それに続いて皆が飛び込んでいく。琥珀はそのゲートを維持するために、この世界に残ることになる。しかし、四人は誰も彼を戦力として考えていなかった。そもそも、彼がこういうことに力を貸している理由も菜乃花が助けた恩義と言うことになっているが、彼が助けてくれるとは考えていないのだ。
「さて、わしはここでじっと待つしかない。しばらく待っていれば戻ってくるだろうな」
彼は暢気に商店街を歩く人々を見ながらそう言った。
黒いゲートを通る。真っ暗でも道は真っ直ぐだと直感的に理解させられているような感覚を持ちながら、ゲートの終わりであろう白く光る縦長の楕円を目指して歩く。皆が歩いているはずなのに、その足音は聞こえない。白希の近くにいる妖精たちは大人しく肩や頭に乗り、移動している。視界にも楕円の白い出口しか見えず、本当に他の人がついてきているかもわからない。感触だけは残っているというわけだ。歩く速度に比べて、その光が近づいてくる速度は速い。ゲート側が自分の方に移動しているように感じるが、その場所では距離すら曖昧になるのだろうと勝手に解釈した。
そして、ついに光のゲートをくぐり、移動先に足を踏み入れる。
菜乃花の足に触れるのは土を踏む感触。緩く風が吹き、自然の気持ちのいい香りを運ぶ。こういう自体でもなければ、深呼吸でもしたいところだが、暢気なことをしている場合ではない。菜乃花の後ろから、蓮花と竜花も出てくる。最後尾には白希が出てきて、全員がそろう。彼らの後ろには、入り口の時に見た黒いゲートをとは反対に白いゲートがそこにあった。帰りはその場所を通らないと帰ることが出来ないということを覚えておくことにして、彼らは辺りを見回した。
そこにあるのは草原と森。森の方へは歩いていけるだろうが、猩花が危険がありそうな方に先に行くとは思えない。彼女が歩くとすれば草原の方だろう。だが、その草原は広大だ。地面の凹凸はあるものの、見える限りの場所には猩花は見当たらない。
「猩花、どうか無事でいてください」
菜乃花が自分の手を強く握り、焦燥感が募っているのがわかる。だが、むやみやたらと探す方が時間がかかるかもしれないため、彼女は一人で先行することはない。
「皆さん、二人一組になりましょう。蓮花ちゃんと白希さんは別になってください。この場所にテレポートで戻ってくるためにそれぞれのチームに必要ですから」
菜乃花のその一言で、すぐにチームわけが決まる。竜花がそう言われた瞬間に白希と組むと言ったため、チームは決まった。蓮花は菜乃花と組むことになる。蓮花は少しだけ不服そうな表情をしていたが、彼女は白希と組むことは出来ない。それにこんな状況では自分の感情を優先することは彼女にはできない。やるべきことしっかりをやってから、やりたいことをやる性格だ。猩花を助けるのが最優先事項だ。
「皆さん、時間のわかるものはありますね。これからまずは一時間経つまで相即しましょう。一時間経ったら、この場所に戻ってくること。そして、情報を共有して再び、捜索しましょう。幸いにも、テレポートを使えるわけですから、ここに戻ってきても、元の場所の近くから捜索できますから、それでは行きましょう!」
菜乃花が最年長らしく、皆をまとめている。彼女の言葉に異を唱える者はその場にはおらず、それぞれその場所から捜索を始める。当たり前だが、それぞれが違う方向へと移動する。ゲートをスタート地点とすれば、そこから左右に分かれるようにして捜索を開始する。
二組ともに十分程歩いていたが、特に何かを見つけることはできなかった。辺りには森と草原が広がるだけで、人も動物も何もいない。むしろ、猩花がいれば、すぐにわかることだろう。
「……!」
白希が体をびくりといきなり動かした。
「シラキさん? まさか」
「いや、契約は解かれていない。フレイズはまだ生きてるはずだ」
竜花はその言葉で理解する。フレイズの状態に変化があったということだ。猩花が共にいれば、彼女にも危険が迫っているかもしれない。そう思うと、いつもの中二病なクールな顔は崩れ、焦りが募る。