足掻いて渡って 6
白希は自分が倒すべき敵を倒して商店街にテレポートで戻ってきた。彼は菜乃花の実力を知っていて、さすがに二体を相手にすぐに決着することが出来るとは思っていなかった。だからこそ、急いで加勢に来たのだ。
加勢にきた彼は目の前の光景に驚き、硬直してしまった。敵は目の前にいる。タコ型のエイリアンだ。だが、その敵は二体まとめて、いたぶられていた。二体をいたぶっているのは菜乃花だ。彼女はマントを身に着けて、宙にいる。彼女はそこから、赤い刃を操って、タコ型のエイリアンをある程度刻んで、切り傷からは緑の液体がhきだしていた。その液体を彼女が操る赤い液体が吸収して、緑の液体が赤に染まって彼女の支配下になっているようだった。相手を倒しきらず、タコ型は超再生によって、体が修復される。だが、その矢先に体が再び刻まれて、タコ型が彼女に攻撃する隙は全くなかった。
「あははははっ、うふふふっ! 渇きが、渇きが満たされる! もっと、もっと私のために血を出してっ!」
彼女は狂ったように笑い、相手をボロボロにしている。その光景は明らかにやりすぎだ。しかし、今の彼女を止めることはおそらくできないだろう。前に彼女の暴走を止めるために戦った時よりも明らかにその攻撃性を増しているのだ。
彼がぼうっとしている間に、彼の隣に二人の女子が移動してくる。蓮花と竜花だ。竜花が蓮花に捕まって移動してきたようだ。竜花が先に地面に足を付け、そのあとに蓮花が地面に音も立てずに降り立つ。
「白希、君の方が速かった見たいだね」
「あー、うん。まぁ、竜花たちは三体だったし」
彼は目の前に繰り広げられていた惨状のせいで、彼女たちにもいつものように会話してしまっていた。地面に降りた蓮花が彼に視線を向けていた。
「今江さんもご無事でしたか。私が心配する必要もなかったでしょうけど」
「蓮花たちも無事なようで良かったよ」
「その、それであの姉さんはまた暴走しているということなのでしょうか」
「あ、そう見えるね。僕が来た時には既にこうなってたから、事情とかは全く分からないけど。多分、血がどうとか言ってたから、超能力を制御しきれてないってことだと思う」
暢気にそう言っているのは、再び彼女を倒すことでしか正気に戻せないと考えていたからである。猩花を探す前に彼女を正気に戻したいところだが、今の彼女を正気に戻すために戦うと、おそらく猩花を探すための体力と言うのはほとんど残らないだろう。今の彼女は超能力に操られている状態であるせいか、ヴァンパイアの力を使いこなしているように見えた。
「あら、もう終わりかしら」
菜乃花がタコたちに向かってそう言った。いくら超再生を持っていても、何度も何度も死に際から体力全快まで再生し続けていれば、いつかはその力も限界が来るというものだ。菜乃花は相手の能力の限界までいたぶりつくしたのだ。タコ型は細切れにされて、地面に落ちる。相手の体の色も相まって、大量のゼリーが地面に落ちているようにも見える。宙にいた菜乃花がタコの肉片を血の中に取りこんでいく。その場所にあったエイリアンの肉片は全て、彼女に取り込まれた。
「ああ、満たされましたぁ」
彼女は恍惚の表情で、空を見上げる。満たされたという快楽はすぐに落ち着く。彼女の視界の端には白希たちが映った。彼女の赤い瞳が、彼らを正面に捕らえている。蓮花と竜花は、菜乃花の赤く光る目に体が強張る。白希は戦闘態勢になり、彼女と戦うことを覚悟する。三人の視線が菜乃花に注がれる中、菜乃花は地面に降りた。
「うふふ、そんなに警戒しなくても大丈夫。私は正気ですから」
白希に近づきながら、ヴァンパイア状態の菜乃花はそう言った。今の今までやっていたことや、少し色っぽい口調からして、元の菜乃花と同じ人物とは思えない。彼女の言葉を信用して、後ろから血を吸われて死ぬなんて結末はバカバカしすぎる。
「……信用ないですねぇ。……っと」
彼女はその場で超能力を解除した。マントはどこかに消えて、彼女が纏っていた色っぽい雰囲気は消失した。
「ほら、大丈夫。私は正気です」
超能力を自らの意志で解除して、いつもの落ち着いた雰囲気に戻った彼女はいつもの菜乃花だった。だが、それでもあの光景を見てしまったせいで信用しきれない。しかし、蓮花と竜花は元の彼女を信用しているようで、彼女に近づいていく。
「では、琥珀の元に戻りましょう。猩花のいる場所に案内してもらわないといけませんから」
菜乃花の暗に竜花と蓮花も賛成して、彼女たちが作り出した空間を解除する。すると、商店街に喧騒が溢れ、いつも見ている光景になった。周りに人が多くなっても菜乃花が暴走するような素振りは全くない。白希は一旦は彼女への疑惑を置いておくことにした。それから、菜乃花たちは琥珀の元に移動した。