足掻いて渡って 5
「二体か。素早く片付けて、菜乃花のいる場所まで戻ろうか。一人で二体はきついかもしれないからね」
「そうね。ファスもそう思うわ。いくらヴァンパイアの力を使えても、戦闘経験が少な過ぎるわ」
「でも、それでシラキに無茶されたくはない」
ミストとファスの意見がぶつかっているが、それはそれぞれが思っていることでもあるため、どちらもその意見に文句はなかった。
「でしたら、私たちが頑張りましょう! シラキさんにあまり負担をかけないように、私たちが戦うんです」
プロイアが、彼らの前を飛び、彼らに振り返りそう言った。彼女は確かに妖精たちのまとめ役になることが多いが、それは彼女が進んでやっていることではなく、他に彼女たちの騒ぎを収拾できる人が他にいないからだ。白希の言うことは聞くだろうが、彼は妖精たちが楽しそうにしているのを止めることは出来ない。彼は妖精たちが危険に晒されるようなことが泣ければ、彼女たちの行動を止めることはない。そんな時にプロイアが状況を見て、皆をまとめているのだ。皆と言っても基本的にはフレイズがふらふらとどこかに行かないように見守ったり、ファスが誰かと騒いでいるのをエスカレートしすぎないようにしたりする。ミストは白希から離れることがほとんどないため、プロイアが彼女にそう言った言葉をかけることはない。だからと言って、仲が悪いというわけではなかった。
プロイアの言葉にファスはやる気を出していたが、ミストはあまり乗り気ではないようだった。プロイアも自分の思っていることを提案しただけなので、彼女にそれを強要しようとは思っていない。
「みんなだけに頑張らせるなんてことはしないよ。僕らが協力すれば、もっと早く勝てるはずだからね」
彼にそう言われると、妖精たちはそれに賛同するしかない。それは脅迫と言う意味ではなく、大好きな人が一緒に頑張ってくれると言っているのだ。その言葉に堪えたいと思うのも当然だろう。
「じゃあ、みんな、やろうか!」
彼は言葉と共に、テレポートを使用する。相手の上に移動すると、敵もすぐに彼を見つけて、触手を伸ばそうとしていた。
「ミスト。アクアジャベリンッ!」
彼の周りに水の流れが出来て、それらが彼の左右に水の槍を作り出す。その槍は、彼の背丈を優に超えるほどの大きさだ。その先端は相手に向けられていて、それらがは真っ直ぐに相手に向かって飛び出す。
「プロイア。カッティングウィンドッ!」
水の次には彼の周りには風の流れが出来、それらは風のままアクアジャベリンを追いかけていく。風は水の槍に追いつき、それが絡みつくように槍を風で包む。その風は、槍に纏わりつきながら槍の先端に刃を形成した。そして、風の魔法の勢いに引っ張られて、水の槍が加速した。強化された二つの槍は一体のタコに向かって飛んでいく。そして、タコの頭を貫通して、穴を開けた。水の槍は穴を開けた時点で消失したが、風の刃はタコの体内に残されていた。アクアジャベリンが空けた穴の中で風の魔法が暴れまわる。一体のタコは体内をボロボロに切り刻まれて、その場に倒れた。開けた二つの穴から緑の液体が噴き出ていた。
もう一体のエイリアンはそんなことはお構いなしに、彼に触手の伸ばして攻撃しようとしていた。その触手の速さは、最初に見た時よりも速い気がしたが、彼のまでの距離はかなり開いている。すぐに到達するほどの速度はなく、彼が魔法を放った後も、未だに攻撃は彼には届いていなかった。
「ファス、ロックジョーゥッ」
彼の周りに岩が出現して、それらは向かってくる触手にぶつかって地面に落ちていく。見た目には触手に負ける程度の威力の岩に見えただろう。相手が馬鹿なタコ型でなければ、油断を誘うことが出来たかもしれない。その岩が地面に落ちると、その落下地点から、地面がせりあがる。やがて、地面には亀裂が入り、そこから岩でできた顎が姿を現した。その顎は大きくゆっくりと口を開けると、彼に向かって伸びていた触手を口の中に入れてそれ以上は伸ばせないようにして、更にその口の中、二タコを納めた。岩の顎はその内側に生えている大量の棘のような歯によって体を貫かれる。しかし、タコの超再生があれば、一、二度咬まれた程度では傷は修復されてしまう。だが、その修復も完璧ではなく、徐々に体に傷が増えていく。やがて、歯によって食いちぎられた触手が口の中で踊り、相手はその修復も間に合わなくなる。そして、徐々に触手も噛み砕かれていく。それから、十回ほど咀嚼すると、岩の顎は消滅した。顎が消失するとそこに残っていたのは、もはや原型も留めていない、見るに堪えない姿になったタコ型のエイリアンの姿だった。