足掻いて渡って 4
竜花は蓮花が必殺技なんて物を持っているとは思えなかった。竜花はいくつも超能力を使った必殺技はいくつかある。それは彼女が格好いいからと言う理由で、使っているもので、蓮花には戦闘中に技名を叫びながら、攻撃するなんて相手に隙を与えるだけだと言っていたこともある。竜花としては、蓮花は蓮花が必殺技を持つことすら、反対していると思っていた。だが、その彼女から必殺技なんて言葉が口から出たのだ。竜花はその言葉に驚いていた。
「必殺技? 姉ちゃんが? ほんとに?」
驚きすぎて、キャラも忘れて、素で聞き返すほどには驚いていた。しかし、蓮花の顔を見れば、それが冗談ではないとわかるだろう。蓮花とずっと過ごしてきた彼女だからこそ、それが冗談でも嘘でもないことがわかる。彼女は本気で必殺技を使うつもりなのだ。
「じゃあ、ちょっと見ててください!」
彼女はそう言うと、再びテレポートで相手の近くに移動する。先ほどと同じようにエイリアンの頭上に出現した。彼女はトンカチとカッターを両手に持っているが、彼女の位置からでは、どうあがてもその武器が当たるとは思えない位置。
「私だって、少しは良いところを見せたいのです。昔のように竜花に凄いと言われtないのです。そのために、少しばかり、いえ、物凄い痛い目を見てもらいます」
彼女はカッターの刃先を天に向けた。タコ型のエイリアンたちも、既にそれに気が付いて、彼女に触手を伸ばしていた。
「テレポーションカッターッ!」
彼女がカッターを持つ手を振り下ろすだけで、彼女に近づく全ての触手が切り刻まれた、肉片と共に緑の血液が地面に落ちていく。自己再生で治ると言っても、一瞬でそれだけ切り刻まれてしまうとすぐには修復は出来ない。続けて、彼女はトンカチを持ち上げた。
「テレポーションハンマーッ!」
彼女がトンカチを振り下ろすと、タコ型の一体が頭の上から何か振ってきたかのように、平らになるような潰れ方をする。超再生があるとはいえ、一瞬で体の全て平らになってしまえば、そんなものは関係なくなる。平らになったタコはそれ以上は動かず、死んでいた。
「もう一撃ッ!」
再び彼女はカッターを天に掲げた。
「テレポーションビッグカッターッ!」
彼女がカッターを振り下ろすと、タコ型の一体の体が中心から真っ二つになった。見事に二つになったエイリアンはその胴体を左右に分けて地面に横たわった。
「はぁ、はぁ、はぁ。どうです」
テレポートと言う空間に干渉する超能力を応用して、連続してテレポートさせて巨大にして現実にする。ただ瞬間移動するだけの力ではないと気が付いたのはつい最近のことだ。彼女が白希に助けられたときに何もできなかった悔しさと、畑夕来との一瞬の共闘で彼女が見せた強さ。それらは彼女に自らの弱さと覚悟の足りなさを自覚させた。そして、彼女は今のままでは駄目だと思い、まずは自身の超能力が本当にテレポートしかできないのかと思い、色々検証した結果だ。彼女は自身の放つ攻撃をテレポートして、出現するときに対象に対して似たような場所に連続でテレポートさせることで、最終的にはその衝撃や斬撃が一つになり、結果的には巨大に見えるという物だ。カッターやトンカチでなくとも、攻撃を巨大化できる。しかし、ある程度持ち運びやすいものとなると、真面目な彼女にはそれくらいしか思い浮かばなかったのだ。
「凄い、さすが、ボクの姉だっ! 最後の一体くらいはボクにやらせてもらうよ!」
蓮花の連撃に感動した彼女のやる気は天井知らずだ。幼い頃から何度も優秀で追いつけない人だと思っていたが、ついに自分の得意分野だと思っていた、超能力の使い方まで魅せてきた。
竜花が蓮花に闘争心があるのは、彼女が優秀だからである。優秀な姉に追いつくためには仲良しなだけでは駄目で、彼女と同じでは駄目で。その結果、彼女は蓮花とは正反対の人にならざるを得なかった。そうしないと、彼女と同じやり方になってしまうからだ。優秀であるがゆえ、自分は違うやり方で彼女と肩を並べられるまでになりたいという欲が彼女を掻き立てる。
「最後に一体、覚悟してもらうよ。ボクの力で壊してあげるッ!」
彼女の影が、人一人分から、何十倍にも膨れ上がる。もはや、空から見下ろさなければ、人型だとはわからない程に大きくなる。既に彼女の影がタコ型エイリアンの影を飲み込んでいた。
「影縛陣……」
彼女がそう呟くと、タコ型のエイリアンの動きが完全に停止した。
「歪ッ!」
彼女の叫びに呼応するように、タコ型の体の頭から触手の先まで、捻り潰された。びちびちと言う音がして、タコの体が捻られ、ちぎれる音が聞こえる。蓮花の攻撃に比べ、かなりむごい攻撃だ。彼女が捻る力を駆け終わっても、タコは体を捻られたままの形で、地面に落ちた。そして、全てのタコの死体は影の中に吸い込まれていく。
「討伐、完了」
竜花は格好つけて、影を手の中に集めるような動作をして、影を収縮させた。