足掻いて渡って 2
白希たちはタコ型に対して戦闘態勢になり、それぞれがタコ型のエイリアンを相手しようとしていた。しかし、相手の数は七体。対して白希たちは四人分の力量しかない。妖精たちが一体を相手に戦うことが出来たのなら、数は同じ七人と言うことになる。妖精たちには一人で戦うこと能力はあるが、白希がそれを許すはずもない。菜乃花たちも妖精たちに一人で戦わせるという提案はしない。
「僕が四体を引き受けるよ。みんなは一人一体、相手をしてほしいかな」
「私はもう一体くらいは倒せます。白希さんの一体を私が請け負います」
「それならボクももう一体、倒してみせるよ。ボクならできるだろうからね」
「そうですね。竜花一人では心配ですから、私たちは二人で三体を相手にします。それ以上はおそらく無理かと思います」
菜乃花たちにふざけている様子はなかった。白希と妖精たちの力量であれば、四体くらいは倒せるほどの実力を持っているが、それでも数が多くなると不測の事態が起こる可能性が高くなる。全てに気配りして、無傷で勝利することが出来るほど強いわけではないのだ。そのため、誰かがその負担を軽くしてくれるというのなら、その方が良いと思った。だから、彼は彼女たちの申し出を断ることはせずに、頷いて肯定した。結局は菜乃花が二体、蓮花と竜花が協力して三体、白希たちが二体を相手にすることになった。白希が速く戦闘を終わらせることが出来れば、それだけ他の場所に手を貸すこともできるだろう。引きつけてくれているだけで、戦いやすくなるというのは間違いないことだった。
菜乃花が戦闘を飛び、タコ型二体に血の弾丸をぶつけた。タコ型二体だけではなく、他のタコ型も敵に気が付いて、戦闘態勢になる。宙にいる彼女に向かって、七体全部が触手を伸ばそうとしていたのだが、その触手が彼女に届く前に五体はその場所から喪失した。
「貴方たちは私に付き合ってもらいます」
「お前たちはこっちだ」
テレポートを使用できる二人が、それぞれの担当分のタコ型を移動させた。全員が商店街で戦ってしまうと、どうしても他一人が集中攻撃を受けるかもしれないと考えたため、菜乃花はそのまま商店街に残し、他チームは別の場所に移動した。蓮花と竜花の二人は学校の校庭に商店街に施した結界のような物を張り、そこにテレポートした。白希はそういったことは出来ないため、町から離れた森の中へ。その森は初めて、蓮花に会った場所よりもさらに森の方へと移動した場所だ。もはや、その場所からは町の明かりくらいしか見えないだろう。森の中から見れば、その明かりすらも見えない場所だ。
「さて、二体も相手にすると言ったけど、本当に倒せるかどうかはわからない。でも、他のみんなが戻ってくるまでは正気でいられるようにしたいところです」
菜乃花は自身の渇きを気にしながら、タコ型を宙にいながら見ていた。相手の大きさは商店街の二体建ての建物と同じくらいの大きさだが、ほんの少しだけ大きさが違うようだ。だが、それは些細な違いで、自身の何倍かの大きさの化け物に体を相手にすると考えると、不安と恐怖が生まれる。だが、その感情は自身の渇きによって上書きされる。戦えると、そう思うとヴァンパイアの血が騒ぐ。彼女の理性はエイリアンの血まで吸いたくないと思っているのだが、ヴァンパイアの血はどんな血でもいいから欲しいらしい。
「我慢は最後までしたいけれど……。でも、我慢できなくなったらごめんなさいねっ!」
彼女の相貌が赤く淡く光る。タコ型はそれを見ても怯むこともなく、触手を伸ばして彼女の体を掴もうとしている。二体のいくつかの触手が彼女の体に向かって勢いよく伸びていく。しかし、その触手が彼女に届くことはなかった。彼女は血を刃のように細く、切れ味のよい刃にしていた。その刃に自ら触手を突っ込むように仕向けたため、相手の触手が綺麗に真っ二つに裂かれた。鞘腫からは緑色の液体が出ていた。その匂いは人間のような鉄の匂いではないものの、それがエイリアンの血だと理解しているせいか、彼女の喉がゴクリとなった。
(ダメ、ダメ。あんなの体に入れたら、お腹壊しちゃうから)
その程度で済むはずもないと、少し考えれば、その可能性を考えるはずだが、既に彼女の渇きはその程度の思考すらも奪おうとしている。彼女がその血による思考に抵抗しなければ、緑の血ですらも飲み込むだろう。
しかし、エイリアンとは血は血だ。その血は渇きを加速させる。彼女は無自覚に、自身の頬が色っぽく頬が赤く染めていた。体の内側から熱が生まれている。彼女はそれにすら気が付いていない。