足掻いて渡って 1
猩花たちが、異世界で戦っている中、白希たちは唐突に消えた彼女を探していた。姉妹たちも猩花がこの町のオカルトによってどこかに連れ去れたと理解している。だが、どうやって彼女を見つけたらいいのかと模索していた。白希のフレイズとの最上級の契約のお陰で、フレイズが生きていることは感じることが出来た。それも死にかけているということもなく、少なくとも普段通りに行動できるほどには元気だということはわかっていた。彼らは彼女の近くに猩花がいることを願っていた。
「そうだ、琥珀、いますか?」
「ああ、ここにいる」
琥珀はいつの間にか、皆の前に出現していた。最初からそこにいたかのように、彼女の近くにいるのが当たり前のようにそこにいた。しかし、そのことには誰も突っ込むことはない。
「おそらく、神隠しに近いものだと思うのだけど、琥珀には猩花を見つけることは出来るかしら」
「神隠しではないが、末っ子を見つけることは出来るが、すぐにその場所には行けない。空間と空間を繋ぐというのがすぐには出来ないという話だが」
「わかりました。じゃあ、すぐに移動できるようにしてください。準備が出来たら、連れて行ってください」
菜乃花はまるで、脅迫するかのように彼を睨みつけるような目で彼に命令する。琥珀は少しもそれに怖気づくことも、怯むこともなく彼女の言うことを聞くことにしたらしい。だが、事は簡単には進まない。
「わしは手助けできないが、お前たちを狙っているかは知らんが、何かが来てるぞ。すまないが、わしを守りながら戦ってくれ」
彼がそう言い終わると、空から何かが落ちてきた。それはタコ型の宇宙人だった。グレイ型は一緒にはいないように見えるが、タコ型が大きく、その姿が隠れている可能性はあるだろう。タコ型の宇宙人は全部で七体ほど。それらが地面に落ちると同時に地面が揺れる。いつの間にか周りには人はいなくなっていて、更に大きな音を振動を起こすほどの物が空から落下してきたというのに、建物や道路には一つも被害が無かった。
それを起こしたのは竜花と蓮花だ。部室に使っている超能力と同じ原理で、商店街そのものと敵を空間の中に閉じ込めたのだ。彼女たちのいる空間自体が、元の空間とは繋がっていない。同じ位置にあるが、別の空間を作り出したのだ。しかし、頭が良くないタコ型とは言え、四人でたこ七体を相手にするのは中々大変かもしれないと白希は思いながらも、彼は戦闘態勢になる。フレイズがいないため、いつものようにレッドドラゴンブレスのような火の魔法を使うことが出来ないことを頭に入れる。火の魔法は大きな相手にはかなり効果のある魔法が多かった。そもそも火がつけば、それだけで継続的にダメージを与えられる。だが、今回はそれを使うことが出来ない。さらに、奥の手であるフレイズの超能力、崩壊も使用できないだろう。いつもよりハンデのある戦闘だが、それでもミストにプロイアにファスがいるのだ。全ての力が使えないというわけではない。それにフレイズも猩花と共に戦っているかもしれない。少なくとも猩花と共にこの場所に戻ろうとしているはずだ。自分だけが、弱気になって戦えないなんてことは言えない。
「みんな、また力を貸してほしい。フレイズも飛ばされた先で、この場所に戻ってこようとしてるはずだ。僕はフレイズが戻ってくる場所を守りたいんだ」
「当たり前です。私たちはいつでも一緒ですから」
「ボクも力を貸す。フレイズには戻ってきてほしいから」
「ファスだってっ! シラキが困ってたら助けるんだから!」
プロイアもミストもファスも、既に戦う準備は出来ていたらしい。むしろ、彼の方が戦う準備が出来ていなかったのだと自覚させられた。彼は気合を入れ直すなんてことはしないが、こんなところで負けるような経験をしてきてはいない。異世界でものうのうと過ごしていたわけではないのだ。それに仲間もいるのだ。
(負ける気はしないね……!)
彼の心に勢いがつく。こんな場所で負けることは絶対にないのだ。
白希が妖精たちと話している間に、菜乃花は夕方だというのに、超能力を使用してヴァンパイアへと変身した。太陽に当たっているはずなのに、その体にはダメージはなく、体がだるくなるというような症状もない。体の感覚で言えば、夜に戦っているときと変わらない。違う点と言えば、喉と言うか、体が乾いているような感覚が常に付きまとっているということだろう。暴走するほどではなく、彼女はその渇きを制御しているが、いつ暴走するかは彼女自身もわからない。それでも、変身してその力を使わなければ、その状況を切り抜けるのは困難だろう。
竜花は袖からヘビのようにうねる包帯を何本も伸ばして、蓮花は鞄からカッターナイフとトンカチを出して、戦闘態勢を取った。