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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
27 異界に呑まれる
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異界に呑まれる 4

 黒い液体状の魔獣に襲われながら、猩花は逃げ続ける。小さな黒い球体が彼女を近づいているのと同時に、フレイズが彼女を全速力で追いかけていた。やがて、彼女は黒い球体と猩花の間に入った。猩花はフレイズが自身の後ろにいることに気が付いた。彼女が自分を守ろうとしていることにも気が付く。フレイズは自身の周りに火の玉を出現させた。それらは何かを狙って放たれているわけではなく、黒い球体を撃ち落としてはいるものの、それは相当の数の火の玉があるからこそ、撃ち落とすことが出来ているだけだった。


 妖精には火、水、風、土のいずれかの魔気を司る妖精の末裔である。最初に生まれた妖精よりもその力はかなり衰えているとはいえ、他の種族に比べれば、魔気を操作するという能力に関してはずば抜けて高い種族だ。だが、その才能とは裏腹に、妖精たちには人間のような、様々な魔法を形作るという想像力は備わっていない。そのため、妖精の使う魔法は基本的には大雑把で力任せな魔法ばかりだ。魔法名を唱えたとしても、そのイメージの共有ができないため、細かい操作はできない。だが、それを補うのが、他種族との契約だ。魔気の操作を妖精側がして、魔法を形作る想像力は契約した相手が行う。そうすることで、妖精たちは器用に魔法を使うことが出来るようになる。


 フレイズは大雑把に魔法を使っているだけだという自覚があった。白希と最上級の契約を行い、彼の想像通りに魔法を使っている彼女には自分がその器用さで魔法を使えないことを知っていた。彼の想像力を共有していたとしても、同じように想像して、同じように魔法を使うことは難しかった。このまま、力だけで大雑把に魔法を使っていても、猩花を逃がすことも、目の前の魔獣を倒すこともできないことは誰にだって理解できる。いつもは好奇心優先の彼女だってそれを理解している。生きているからこそ、追いかけたいものを追いかけて愉しむことが出来るのだ。それに既に猩花は他人だからと割り切りれるような、薄い絆でもない。少なくともフレイズは彼女のことを友達だとは思っているのだ。毎日、顔を合わせて彼女と共に絵を描いたり、工作をしたりする。既に興味だけで繋がっているわけではないと言い切れるほどには彼女のことを知っているはずだ。


(そうだ。だったら)


 フレイズは大量の火球を放ちながら、ある結論に至る。それは猩花と契約することだ。契約にはお互いの絆というか、信頼感が必要だが、フレイズは猩花との絆があると思っているのだ。後は猩花がどう思っているかだが、おそらく大丈夫だと思った。


「フレイズッ!」


 猩花も彼女がこのまま攻撃を続けることは出来ないと思っていた。ようやく、彼女は自分が抱いている物に気が付いた。熊のぬいぐるみ、小太郎。それを見て、ようやく彼女は超能力を使用するという選択肢が浮かんできた。彼女は持っている人形の全てに超能力を使用した。熊の小太郎、ねこのにゃむ、いぬのハチ、うさぎのイナバ。それぞれが巨大化して彼女の周りに出現した。熊の小太郎は、デフォルメした熊だが、その大きさは四メートルほど。にゃむとハチ、イナバは二メートルほどだ。小太郎だけは二本足で立っているが、それ以外は四本愛で地面に立っている。にゃむが彼女にほおずりしていた。ハチがワンと鳴いて、彼女を器用に顔を使って背中に乗せる。イナバは花をひくひくさせながら、首をせわしなく動かして周りを見ていた。


「みんな、あの黒いのやっつけたいの。力をかして!」


 小太郎は両手を上げて、自身の戦意を示す。にゃむは一つ鳴いて、体を伸ばす。ハチは再びワンと鳴いて、イナバは彼女の話を聞いているのか、様子は先ほどと変わらないように見えた。だが、猩花はイナバがそう言う性格だと知っているし、今は周りから攻撃するための情報を集めているというのも理解していた。


「ショウカ、直接触れちゃだめだ。黒い液体に触れた瞬間に溶かされるって。それに一度本体に触れれば、そこから抜け出すのは無理なんだ。人形たちも取り込まれれば、溶かされて二度と触れることも出来なくなるよ」


 フレイズにそう言われて、猩花は突撃しそうだったのを止めた。だが、遠距離攻撃しかないとなると、もはやぬいぐるみたちには土を飛ばすくらいの攻撃しかできない。土を飛ばしたところで、それが攻撃になるとも思えない。それこそ、白希お兄ちゃんのような魔法を使っての攻撃くらいしかないだろう。彼女はライターや水鉄砲なんてものは持ち歩いていないのだ。持っている物は人形のみ。


「フレイズ。わたしにも魔法を使えるようにできないかな?」


「ショウカが私のことを友達だって思ってるなら、契約を結べる。契約を結べば、火の魔法が使えるけど、どうする?」


 猩花の答えはもはや決まっていた。猩花もフレイズと同じように、彼女といる時間を楽しいと感じていて、それが友達だと言えるほどの信頼感を持っていたのだ。


「大丈夫。わたしはフレイズを信じてる!」

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