異界に呑まれる 3
白希たちが、フレイズと猩花を取り戻そうと考えている間に、猩花とフレイズは草原を歩いていた。フレイズが森の中に入らない方が良いと言ったため、猩花はそれに従った。ずっとぬいぐるみを大きくして行動できるならいいのだが、それでは猩花の体力が持たなくなる。もし、この状態で猩花が動けないということになれば、もし何か害を与えてくるものが出てきたときに対、フレイズ一人では処することが出来ないだろう。
「ショウカ、もしかしたらここは私のいた世界かもしれない。シラキが異世界と呼んでいる場所だ。この草原とか森とかが凄く似てる気がする。それに魔気の濃度が、白希たちの世界より高いんだ。少なくとも、シラキたちの世界じゃないと思う」
「うん。早く、みんなのところに戻らないと」
口ではそう言っているが、解決策の糸口すら掴んでいないのだ。草原ばかりが続くその場所でどうやって情報を集めることが出来るだろうか。猩花が思考していると、草原のど真ん中に黒い球体が出現した。固いようにも柔らかいようにも見えるそれは、表面を微かに振るわせていた。猩花の二倍のほどの大きさで、猩花はそれの不気味さに少し気圧される。だが、フレイズはそれが何か知っていた。卵から成長する、魔獣の中でも珍しい種だ。本来ならその卵を見た時点で卵を壊すべきだが、卵が震えているなら破壊してはいけないというおかしな魔獣だ。そして、卵が震えている時点で、逃げきることは出来ない。既に、相手は外を認識しているのだ。
逃げることもできずに、適度に距離を取っていて、その卵から何かが生まれるのを待っていた。ここから逃げても追いかけてくる魔獣だ。逃げても逃げ切れない。やがて、卵の中心にひびが入った。そのひびから黒い液体が、漏れ出てくる。真っ黒なその液体は猩花には石油に見えた。ニュースで油田から海に直接漏れ出てしまった時の映像で石油が黒いことを知った。その時に見た石油と同じようなものに見えるが、違うのはそれが地面に流れるわけではなく、卵の前の一点に集まっているというところだろう。卵の中から出てきたそれはその一点に集まっていく。光すらも飲み込むほどの黒で、黒いそれが集まる場所はまるで何もないようにも見える。
「ショウカ、いつでも動けるようにしておいて! 来るよ!」
黒い卵の中身が全て出たのか、集まった黒いものの球体は猩花より少し大きいほどの直径を持っていた。その球体の彼女たちの方に向いている面に、白い丸が顔のような配置で出現した。その顔らしきものが出現した次の瞬間には完璧な球体は内部が軽るはじけたように、黒い液体が飛び散る。球体は既に球体ではなくなり、その体は宙に広がる水溜まりのような形をしていた。そして、液体のように常に形を変えている。そして、体から飛び散った黒い液体は空中で停止して、小さな球体になる。その数はすぐに数えられるような数ではなかった。そして、その小さな黒い球が彼女たちに向かって飛んでいく。
「猩花、黒いのに当たらないで! 体を梳かされるから!」
フレイズがそう叫んでいるが、彼女の言うことをすぐに理解はできない。何しろ、黒い卵が出て着ていこうのことを脳みそが理解していないのだ。黒い卵に気圧されて、それ以降、起こっていることを認識してはいるが、それに対処できるほどの思考が動いていない。フレイズはそれに気が付いていない。彼女が子供であることを彼女だけは理解していないのだ。それは猩花だけが特別な子供だと思っているからだ。猩花がフレイズが会ってきた子供とは違い、まるで大人のような思考をしているときがあるのと主混んでいた。実際にそれは間違いではないものの、この状況で彼女にいつもと同じようにしてくれと言うのは酷なことだろう。
「ショウカ!」
ついに黒い小さな球体が彼女に向かって飛んでいく。それらはフレイズには向かっていかず、猩花を狙う。妖精よりも人間の方が認識しやすいのだろう。大きい方がターゲットにされやすいということなのだろう。猩花は自分が狙われていることに気が付いて、逃げようとした。彼女の思考の中には超能力に頼るという選択肢がなく、人形を抱いたまま、黒い球体を回避しようとしていた。だが、その黒い球体は真っ直ぐ飛ぶわけではなく、彼女が動くのと同時に軌道を変えて彼女を狙う。猩花は最後まで逃げようとしていたが、それでも彼女の走る速度より、黒い球体の方が速く回避しきるのは難しい。彼女は逃げるのに必死でそのことに気が付いていない。フレイズはそれを見ながら、とにかく猩花を守らなくてはいけないと思い、彼女の後を最大速度で空を飛ぶ。