異界に呑まれる 1
針がカタリ、カタリと時計の針が、規則正しく音を立てて、針を進めている。猩花はその音で目が覚めた。彼女は自分が芝生のような場所で眠っていることに驚き、体を起き上がらせた。その場所から辺りを見回しても、周りには人はいない。彼女の周りにあるのは、草木ばかりだ。少し進めば森のような場所があるのが見えた。
彼女はなぜこんなところにいるのか、思い出そうとしたのだが、意識が無くなる前の記憶を思い出せずにいた。彼女は立ち上がり、再び辺りを見回した。彼女が起き上がると、体の上に何かあったようで、それが落下したようだった。彼女は落下したそれを見て、すぐに拾い上げた。いつも彼女は守り戦う熊のぬいぐるみの小太郎だ。小太郎を見たことで、他のぬいぐるみは持っているかどうかを調べる。ポケットや辺りを細かく見回して、人形やぬいぐるみを探した。
結局、ポケットの中に犬のハチと猫のにゃむが入っているのを見つけた。少し離れたところにシロウサギのぬいぐるみのイナバが落ちていた。彼女はイナバも慌てて広い上げる。サイズは小太郎が一番大きく、彼女は両手を使って抱きしめるようにして持っている。ハチとにゃむはキーホルダーの先についている手の平に乗るような小さなサイズで、イナバは彼女の両手よりも二回りほど小さいサイズだ。
ハチとにゃむはポケットに入れて、小太郎とイナバは両腕で抱いた。彼女は三度、辺りを見回したが、それ以上は何も見つけられない。姉たちも見えず、お兄ちゃんは近くにはいない。
「ショウカ?」
彼女は自分の名前を呼ばれて、肩をびくつかせた。恐る恐る声のした方を見ると、そこにはフレイズがいた。猩花はフレイズがいるなら、お兄ちゃんも近くにいるかもしれないと思い、彼女はフレイズに駆け寄った。
「やっぱり、ショウカだ。シラキは一緒じゃないかな」
「え」
それは彼女自身が訊こうとしていた質問だ。彼女はそれを先に質問するということは、フレイズの近くにもお兄ちゃんはいないのだと、猩花は理解してしまった。しかし、彼はおらずともひとりぼっちと言うわけでもなくなった状況に多少は安堵した。それに妖精と言うのなら、妖精たちの中で一番仲の良いフレイズだ。それは彼女にとっても幸運と言えるだろう。
「ショウカは、どうやってここに来たか覚えてる?」
「いや、覚えてないです。お姉ちゃんたちと一緒に商店街を歩いてたんです。そして、気がついたらここにいたんです」
「そっか、ショウカも覚えてないか。近くには白希も、猩花の姉妹もいない。探すにしてもどうしようか」
妖精と言う種族は人間のように想像力や思考力は高くはない。フレイズだけでなく、一番頭の良さそうなプロイアでさえ、白希がいなければ、敵を倒す際には辺りに被害が出るほどの魔法を使って敵を倒すような種族だ。こんな状況になれば、フレイズでなくとも近くに仲の良い他種族がいれば、それに頼るのは不自然なことではないだろう。さらに、白希の恋人の四人の妖精は思考力を必要とすることは全て白希にやってもらっていた。そのため、他の妖精に輪をかけて、他人の力を当てにするようになってしまっている。猩花と同じ、人間であるならば、幼い子供に何のヒントもないこの状況で助けを求めるなんてことはしないが、他種族ゆえに、そんな常識はなかった。
それでも頼られた猩花は考える。知恵や経験は足らずとも、頭の回転は速い彼女は素早く思考する。この場所がどこかと言うことより、なぜこの場所にいたのか。眠らされた記憶はない。もし、誰かに眠らされていたとすれば、自分も犯人がいたことすら気が付かないということはまずないだろう。そもそも、自分を抜いても四人の超能力者がいるあの状況でこんな簡単に負けるとは思えない。
だとすると、犯人は少なくとも人ではないだろう。これまで戦ってきたのはオカルト。相手がそのオカルトだとすれば、他の超能力者が気がつかない間に、自分をこういった場所に移動させるのは難しいことではないかもしれないと予想した。その現象の名前は小学生でも知っている。その名前は神隠し、だ。
現象の名前がわかったところで、それをどうにかする手段を彼女は持っていない。蓮花寝差お姉ちゃんだったらと考えるが、自分にはテレポートは使えない。考えるだけ無駄だと悟り、今の自分に出来ることを考えることにした。だが、彼女の超能力はこういったことを直接的には解決できない。
猩花は一人頭を悩ませる。経験も知識もたりないこの状況で自分は何を出来るのだろうか。辺りを見回しても、その状況はかわらない。