人の残滓の集まるトコロ 3
夕来は屋上に到着して、王子様こと今江白希がいる部室棟の方を見下ろしていた。外からでは中で何をしているのかわからないが、それでも中から出てくれば、追跡できると考えていた。
(朝野蓮花。私が感じていた以上に弱い人だった。彼女は王子様に相応しくない)
先ほどの出来事を思い出す。まさか、彼女はあの場所に来るとは思っていなかった。今、考えれば化け物やオカルト的なものを相手にしているのだから、あの助教氏の前にも来るのは当然なのかもしれない。どうやって知ったかは知らないが、そういったものを察知する能力や道具があるのかもしれない。だが、そういったものを彼女が持っていても宝の持ち腐れだ。たとえ、それを察知できたとしても、彼女の力では太刀打ちできないだろう。せいぜい、偵察して、他の姉妹に情報を渡す程度だろうか。そして、彼女の力ではオカルトを相手にしてもせいぜい仲間をテレポートさせて、攻撃を回避させる程度だろう。人を救うには最適だが、戦うのには向いていない。それは超能力が、ではなく、蓮花の性格が、だ。もし、蓮花ではなく、夕来がその超能力を持っていたなら、蓮花どころか、菜乃花や竜花を凌ぐほどの強さになるだろう。白希と肩を並べて、背中を預けるにふさわしい力を手に入れるはずだ。超能力を持ちながらも、あれだけ戦闘に向いていない性格。だというのに、戦いに首を突っ込みたがる。
(弱いくせに、でしゃばる。だから、ああやって王子様の手を煩わせる。まぁ、あの時は王子様が進んで手を貸していたけど)
彼女が屋上で白希を監視しているとき、蓮花は保健室から出てきていた。あの女教師は心肺停止なんてことになっておらず、電撃が走っていたはずなのに、その体には傷一つ付いていなかった。この頑丈さはもしかすると、あの男子生徒の力の一端なのかもしれない。おそらく、蓮花では耐えることは出来ないだろう。死なずとも、大きなダメージになるほどの電流だったはずだ。それを食らっても、火傷の後ない。
(乱暴な人。だけど、あれだけの力を持っている人。一般人のはずなのだけど、あの強さはそこらの、いや、私より強いはず)
彼女は女子生徒のことを自分勝手だと思い、彼女は蓮花の信念からは逸脱している人物だった。一瞬しか見ていないが、おそらく、自分と戦えば、負けるのは自分だと予想できた。テレポート程度では彼女には到底及ばないだろう。その力量だけは、認めざるを得ない生徒だった。あれだけのことをするのに、どれだけの努力をしたのか、彼女は見当もつかない。だが、そこらにいる超能力者や一般人と比べる必要もなく、圧倒的に彼女の研鑽が上だと言えるだろう。その周りの人には自分も含まれていた。
(だけど、強くとも、負けることはある。超能力を持っていても、勝てない相手もいる。絶対的な壁があるとき、彼女はどうする?)
オカルトを相手にしていると、絶対的な壁を感じる時がある。それは白希の存在だったり、今まで戦ったことのあるオカルトだったり、超能力者だったり。彼女一人では到底勝てないと思った相手は数えられない程いる。その度に、姉妹に助けられて、こうやって活動出来ているのだ。だが、彼女は味方はいないように見えた。一人でなんでもできるのかもしれない。
(でも、一人じゃ、寂しい)
姉妹に支えられて、最近一人ぼっちで活動していたからこそわかる、孤独の寂しさ。彼女には味方が必要だ。
蓮花は夕来のことを考えながら、保健室をでた。既にそこには男子生徒の姿はなく、廊下は静まり帰っている。既に授業は始まっているのだろう。チャイムは聞こえなかったが、それは保健室が空間事隔離されているような状態だったからだろう。彼女は自身の教室を目指して移動する。
その背中を男子生徒が、天井を足場にして逆さまになって観察していた。彼は既に女教師へのとりつきを止めている。そもそも、既に彼女に憑りつくことは出来なくなっていた。一度憑りついた相手でも憑りつくことは可能だ。だが、今回憑りついた相手は、あまりに心が近くなりすぎた。その反動か、彼女は憑りつきに体勢がついているようだった。それも強力な悪霊が憑りついていたのだ。ついた耐性も生半可な物ではなかった。
「くそ。何だったんだ、あの女は。テレポートの女は大したことはなかった。だが、あの電撃女は別だ。超能力者じゃなかったはずだ。一般人。そのはずだ。……いや、そうだな。一般人だ。なら、話は速い。あの力があれば、好き放題できるな」
悪霊の男子生徒がろくでもないことを話しているが、その言葉を耳にしているものは一人もいない。廊下に人がいないというのもそうだが、いたとしてもほとんどの人がそれに気が付くことは無いだろう。