人の残滓の集まるトコロ 2
保健室にテレポートしてきた彼女は、そこにいる女教師が外にいた男子生徒の影響により、様子がおかしいことに気が付いていた。あの男子生徒がどんな影響力を持っているのかはわからないが、目の前の女教師をおかしくする程度には力のある者なのだろう。そして、もう一人の前髪で目の辺りが隠れている女子生徒は女教師と戦っていたように見える。だが、彼女からはオカルトや超能力者のような雰囲気を感じない。蓮花の勘だが、その女性とはおそらく一般人だ。その一般人が、オカルトの影響下にある彼女と相対して、超能力者のように戦っているというのだ。いくら戦える力があるとはいえ、一般人を助けるのが優先すべきことだと彼女は考えていた。幸いにも彼女はテレポートを使用できる。蓮花は女生徒に手を伸ばして、彼女の手を取ろうとした。だが、女生徒は彼女の腕を躱してしまった。
「すみません。私は貴女を助けたいのです。私は、貴女の味方ですから。手を取ってください!」
彼女は避けた彼女にそういった。だが、彼女はその手を取ろうとはしなかった。それどころか、彼女の存在を無視して、女教師の方に視線を向けていた。何かを持っている手を女教師の方へと向けた。そこでようやく、彼女が持っている物がスタンガンだと気が付いた。それだけで、オカルトと戦っていたとは思わなかった。スタンガン程度ではオカルトと渡りあえるはずがない。彼女を逃がさなければ、おそらく彼女はここで負けてしまうだろう。彼女は女生徒を連れ出す算段を考え始めた。
(朝野蓮花。なんでここにいるの?)
蓮花に手を差し伸べられた夕来は内心、驚いていた。だが、彼女は蓮花の助けを借りようとは思っていなかった。
(王子様に守られて、迷惑をかけてた。そんな人の手なんて借りたくない)
白希と共に戦っていたが、その実力の差のせいで、彼女が明らかに足を引っ張っていたのを彼女は見ていた。彼の助けをするのなら、彼と同等以上には強くなくてはいけない。蓮花は白希に見合った実力がないのにも関わらず、彼の近くにいることに彼女は納得できなかったのだ。そして、そんなもやもやの残る相手の手を取り、自ら助けを乞うなど、彼女の白希への好意ゆえにできるはずもない。
彼女は女教師の方へと走り出す。相手は視界にいる二人の敵がどういう動きをするのか理解できない。そもそも、助けに来たはずの味方らしきに人の手を避けているのだ。相手は多少戸惑っていた。そのせいか、女教師は夕来の行動に対して、とっさに動くことができなかった。彼女の持つ改造スタンガンが濡れた包帯に軽く触れる。濡れた包帯は女教師の足元に落ちていた。包帯は投げられて地面に叩きつけられたときに、地面に小さな水溜まりを作っていた。電気が濡れた包帯を走り、相手の足元まで伸びていく。
「ああああぁぁぁぁっ!」
女教師の体を電気が駆ける。オカルトの力を持っていても、先ほどより強くなった電流に相手は耐えることは出来ずに、叫び声をあげていた。全身が痙攣している。夕来はすぐに女教師から離れて、電撃が自分の方へと来ないように移動する。蓮花は何が起きているのか理解できていない。ただのスタンガンでここまでの威力が出るはずがないとか、そういうことすらも考えられず、ただ単純にいきなり女教師が叫び声をあげたようにしか感じられなかったのだ。
「……ふふ、あははは。お前は絶対に殺す」
女教師が重低音の、彼女の声とは思えない音で、そう告げた。その音が保健室内にひび危機渡る。次の瞬間には女教師が前のめりに倒れこんだ。倒れた女教師に蓮花がとっさに駆け寄る。夕来は保健室の扉を開けて外に出た。
「そこの貴女。介抱くらいはしていきなさい! 貴女がこの結果を生んだのでしょう!」
蓮花は、倒してしまった女教師にひとつも視線を向けずに、外に出ようとしていた彼女に怒鳴りつける。夕来はドアに手を掛けたまま、顔女に視線を送る。蓮花には、彼女の視線が自分に向いている物かどうかも分からなかったが、彼女の視線には冷たいものが籠っていた。
「その程度でよかったと思った方が良いよ。私はその人がどうなっても関係ないから。王子様がいれば、それでいい。それ以外はいらない。……朝野蓮花こそ、助けに来たようなポーズをしたまま固まっていただけ。何もできないくらい弱いなら、戦うべきじゃない」
夕来は言い終わると、保健室の外にでた。保健室の外は無人の廊下で、既に授業は始まっているようだった。だが、彼女は授業を受けるつもりなど無く、当初の目的通り屋上に向かうことにした。
保健室から去る彼女を蓮花は睨みつけていた。自身の弱さは何度も突き付けられて、思い知っている。そこではなく、王子様とかいうのだけがいればいいという思想が気に食わない。それ以外をないがしろにすることが許せないのだ。
蓮花は女教師が息をしていることを確認してとりあえず、保健室のベッドに寝かせた。多少散らかってしまった保健室を整えて、彼女も保健室をでた。