不気味な教師 5
蓮花はいつものように高校の校舎の中に入った。妖精たちとは違い、特に嫌な予感はせず、他の生徒と同じように玄関で靴を上靴に履き替えて中に入る。忠告は受けた物の、その内容は彼らも全く分からないというのだから、不必要に警戒する必要はないと彼女は考えていた。何かあればわかるだろうと、その程度に考えていたのだ。
そのまま彼女は教室に着いた。特に異変はなく、廊下ですれ違う人たちもいつも酔うのに挨拶を返してくれていた。教室に入って、彼女はクラスメートに挨拶をすると、それもいつものように挨拶が返ってきた。彼女の周りに人が集まり、口々に話をする。彼女はそれに相槌を打つだけで、彼女が何か言う隙は全くなかった。そうやって会話している間に、彼女は校舎の一部に違和感があることに気が付いた。一階の一部だ。生徒が常にいる教室側ではない。食寝室などの教師がいるような場所だ。
「すみません。少し席を外しますね」
彼女は人に好かれるような笑みを浮かべながら、自分の周りにいた人たちに断りを入れて、教室を出た。わざわざ彼女についてくものはおらず、彼女が再びその席に戻ってくるとの自分の席で待つことにして一旦はその集まりが解散した。
「そう言えば、何か今日は少し空気が重い気がする」
「それ、私も思ったー。でも、曇りだし、そんなもんじゃない?」
解散した生徒の一部はそんなことを言っていた。その会話をしている人たちだけではなく、他の生徒も学校の中の空気が重いと感じている人は少なくはなかった。そして、妖精たちと同じように嫌な予感がすると言って、学校を仮病で休んだものは白希だけではなかったのだ。その情報をどうやっても知ることは出来ないだろうが、もしそれを知っていたのなら、蓮花ももっと警戒していたかもしれない。
蓮花は校舎の一階に移動していた。彼女はすれ違う人たちに挨拶をされて、それを返しなが、他の生徒が進む方向とは反対方向に進んでいく。彼女とすれ違う人の中には少し調子の悪そうな人もいた。本当ならそう言った人に寄り添って保健室まで行きたいが、その人達よりも優先しなくてはいけないことが起きている可能性があった。この違和感が、既に一般人を襲っているからではないことを祈りながら、彼女は職員室などの教師たちがいるエリアに来た。さらに先ほど感じていた違和感が強くなる。やはり、そのエリアの中に違和感を感じる部屋があるはずだ。彼女は超能力を応用して、自信が簡単に跳べない場所を探す。空間に違和感を感じているということは、テレポートと言う超能力に干渉しているのは間違いない。テレポートがしにくいのか、しやすいのかはわからないが、他の場所と比べて何かが違うというのは間違いないだろう。
(ここらへんのはず)
彼女は職員室の近くを歩いていた。もちろん、無人と言うわけではなく、教師や少数の生徒とはすれ違う。その度に挨拶を返す。彼女のことを不審がる人はいない。そして、彼女はようやく、その場所を突き止めた。その場所は保健室だ。だが、その前に人がいる。教師ではない。男性生徒だ。ブレザーを着ている黒い髪がボサボサで手入れもされていない様子だ。その生徒の視線だけが、彼女の方へと向いた。同じ人間とは思えない程、不気味な視線だ。彼女は直感的に、その男子生徒がこの学園内の生徒ではないと感じた。そもそも彼は一般人というか、超能力者でもないだろう。その男子生徒から感じるのはオカルトと相対した時に受ける印象と同じだった。彼女はその視線に怖気づくこともなく、近づいていく。彼女が近づくにつれて男子生徒は体も彼女に向けていく。相手の警戒が高まっていくのを感じる。それでも、彼女は退くことはなかった。
「貴方はここで何をしているのですか。私は保健室に用が会ってきたのですが」
彼女は威圧的にそう言ったのだが、男子生徒はそれに驚いた反応を返していた。ただでさえ強い眼力が更に目を大きく開けている。
「お前には僕が見えるのか?」
「何を言っているのですか。見えないわけがないでしょう」
「そうなんだ。はは、僕が見えるって、それどういうことかわかってるの?」
彼女は油断していた。保健室の中に怪異の原因がいると思い込んでいたのだ。だから、保健室の外にいるそれが怪異の原因だとは思わなかった。怪異に寄せられてきた保健室にいるそれより優先するべきことではないと頭の中でそれの存在を見くびっていた。もし、彼女は怪異の力の大きさの機微を感じることが出来ていたのなら、彼女はそれが弱い相手ではないとすぐに分かっただろう。
「じゃあ、こんなのはどうかな」
彼がそう呟いのは彼女には聞こえていない。次の瞬間、彼女は廊下の壁に叩きつけられていた。