不気味な教師 2
夕来が保健室に着いて、中に入る。中には白衣を着た保健室の先生がいた。その教師が部屋に入ってきた彼女の方を向いた。夕来がその教師の顔を認識すると、ソノ女教師が保険の養護教諭ではないことを理解した。その人物は昨日、彼女に帰る前に挨拶を交わした女教師だった。そして、今朝も女生徒たちと話しているのを見ていた。その時の様子は生き生きとした様子で、生徒と談笑していたのを見ていたのだ。だが、今、目の前にいる彼女は今朝とは全くの別人で、昨日の帰りに会った方だとすぐに分かった。それを理解するのは難しい話ではなく、明らかに瞳に生気がなく、生徒と談笑するような雰囲気もない。
「こんにちは。昨日は無事に家に帰れたからしら」
「……はい。先生はこんなところで何を?」
「いえ、ちょっと用事をね。私は保険室の先生じゃないから」
そんなことは既に理解している。理解しているからこそ、こんなところで、と訊いたのだ。夕来は彼女がこちらの話を聞いていないのではないかと考えた。昨日の様子もどこかおかしかった。生気がないという点だけではない。どこか演技っぽいというか、受け答えするためのマニュアルがあるかのような、そんな雰囲気だ。夕来は実際には保健室には用はない。彼女の目的は一度保健室に寄ったという事実だ。
(……ほんとに、必要だった? 直接、屋上に向かっても良かったはず)
最初から、昨日の帰りの時点からこの学校がおかしかったのだろうか。
「あなたは相当、自信があるのね」
「……どういうことですか。やっぱり、先生が何かしてるってことですか」
「……世の中には気が付く必要のないこともあるものよ。貴方をここに読んだのは私だけれど、間違いだったみたい。私のことは忘れて」
そう言われてすぐに忘れられるわけがない。もし、彼女がこの学校全体に何か仕掛けているなら、それを野放しには出来ない。それは全く正義感から来たものではなく、この学校に影響があるということは、白希にも少なからず影響が出るということに他ならない。彼女にとってはそれだけが、原動力だ。
「忘れてもいいけど、それじゃ、王子様に迷惑がかかるかもしれないから、放置はしないよ。でも、今日は帰ることにする」
彼女が素直に保健室から出ようとした。だが、残した言葉が悪かった。彼女は保健室のドアをスライドさせようとしたのだが、全く動かなくなっていた。よく見れば、まだ朝だというのにも関わらず、廊下に続くドアの窓が真っ暗だ。保健室の窓の外は今までと変わらず校庭が見えるというのに、廊下の方は見えない。どうやら、この教師は夕来を外に出すつもりはないらしい。だが、その程度で、彼女が驚くはずもない。
「……十余年程度しか生きていないくせに、生意気な小娘ね。放置しないなんて、用意すれば私をどうにかできると思っているのかしら。それとも、思春期特有の全能感がそうさせているの?」
彼女は確信した。今、目の前にいる女教師は今朝に見た本人ではない。ただの双子か、もしくは中身が違うのか。白希を観察していた時にはそう言った超常現象のようなことはたくさん起きていた。超能力者に至っては自分自身で戦った経験もある。そう言うものを体験しているというのに、二重人格を否定するのはばかげているだろう。むしろ、二重人格は信じていても超能力者を信じていないという人の方が多そうだ。
(それはそうと、今は武器なんてほとんど持っていない。改造スタンガンと折り畳みナイフくらい)
彼女はポケットの中にスカートのポケットには折り畳みナイフと改造スタンガンをしまってある。戦闘は出来るが、目の前の相手に勝てるかどうかはわからない。気絶するまで攻撃すればなんとななるかもしれない。二重人格側が超能力者である可能性はあるかもしれない。少なくとも、手を触れずともドアを開かないようにするくらいの力は持っている。サイコキネシスは使えるのかもしれない。遠距離から攻撃できる手段が相手にある以上は、離れて戦うのは不利になる。今の彼女には遠距離攻撃の手段はないのだ。サイコキネシスを自在に操れるのならば、近くに移動しても彼女に勝ち目はないだろう。どの距離でも彼女の動きを制することが出来るならどんな攻撃も意味がないのだ。
(それなら、先手を貰う)
彼女はポケットに手を入れて、ドアに向けていた体を反転させると同時に、地面を蹴る。女教師との距離は離れていない。保健室はそこまで大きくなく、更にドアと彼女がいる場所はかなり近い場所にあった。彼女はドアの前から、彼女に向かって飛びかかるように、ジャンプした。彼女に到達する前に、折り畳みナイフを開くと、窓からの光を反射して剣身がきらりと光った。