もどる絆 2
朝野姉妹たちをそれぞれ助けて来て、猩花は懐いてくれているという自覚はあるし、竜花も白希と関わることも歓迎している。蓮花と菜乃花がどう考えているのかわからないが、彼女たちの部室にいることを許してくれているということは、それなりに心を許してくれていると考えられるだろう。それならば、彼女たちに協力的になってもいいだろう。
彼はそんなことを考えているが、朝野姉妹からすれば、最初からかなり手を貸してくれていると考えていた。むしろ、彼の実力だけで倒した敵も多くいる。そのため、朝野姉妹の方がもう少し彼の負担を軽減できるように強くならないとと考えるほどだ。
彼が協力的になろうと考える理由はそれだけではなく、フレイズは猩花に興味があり、仲良くしている光景をよく見るようになった。それでも白希の傍にいる時間の方が圧倒的に多いが、それでも彼女たちが白希以外の人間に近づいて会話すること自体珍しい。最初は白希のことも警戒して、助けてもしばらくは関わろうとすれば突っぱねられて、しばらく喋ることもなかった。今の彼女たちからは全く想像もつかないが、それでも人間だけではなく、捕まった後は酷い目に遭っているのだ。だからこそ、他人が信じられなくても仕方のないことだと思っていたが、このまま傷ついたまま独りぼっちでいることは、彼女たちにもよくないと思い、彼が話しかけ続けたのだ。そのお陰て、彼女たちは白希にだけは心を開いていた。だが、今はフレイズは猩花が、プロイアが竜花が気になっているようだ。他の人と積極的に関わろうとするのは少し寂しい気もするが、この世界で白希以外にも彼女たちが話すことが出来る相手がいるのは間違いなく、いい傾向だろう。できれば、ミストとファスも他の人と関わってほしいとは思うが、人との関わりを無理に進めることは出来ない。彼女たちがそれぞれに、関わろうと思わなければ嘘のではない関係を築くことは出来ないだろう。だから、彼は二人には特に何も言わない。彼女たちにそれとなく何かをいうこともない。
蓮花が戻ってきて、この部室の中も平和になった。蓮花が賭けていたことで、どこか寂しそうだった姉妹たちにも笑顔が増えたのは間違いないだろう。
「お兄ちゃん。どうしたの?」
「ああ、いや、お姉ちゃん、戻ってきてよかったね」
「うん! ありがとう、白希お兄ちゃん!」
白希の目を真っ直ぐに猩花が見つめていた。その瞳は嘘は一つもなくのだろう。それが妙に癒されるというか心地よかった。そして、猩花は首を無理に回して、蓮花の方を見た。彼女はニコリと笑い、蓮花に笑いかけた。そんな彼女の頭を、蓮花は優しく撫でていた。白希は未だに猩花に手を握られたままで、その位置から動くことが出来なかったが、それでも悪い気はしていなかった。
しばらくして、猩花は蓮花の膝の上から降りて、白希の手を握ったまま、自分のスペースに移動した。彼も特にそれに抵抗することなく、付いて行く。蓮花は微かにあ、と言う声を出したが、猩花は特にそれに気が付かない。白希には聞こえていたが、それに反応する気はないようだ。言いたいことがあるなら、言って来るだろうという考えで彼は特に再び聞くことはなかった。しかし、彼は自身に服が引っ張られるような感触がして後ろをみた。その感覚は正しく、蓮花が彼の服の裾をちょんと須磨むようにして摘まんでいた。白希は彼女に視線を合わせて、どうしたと、視線だけで問うた。だが、蓮花は視線を下に向けたり、横を見たり、空いている方の手を襟の辺りにやったりしながら、何かを言いよどんでいるような様子だった。白希にはなんとなく、その様子が何か言いたいことがあるのかもしれないということは理解できた。いつもはきはきと話すイメージの彼女がそれほど言いよどむようなこととは何かを考えたが、それを理解するのは難しかった。
(いや、オレ委でも言いたいのか? 律儀な人だしな)
「あ、その」
いい加減黙っていると不審に思われると思った彼女は何とか、口を動かした。だが、それでもその続きの言葉は先に出てこない。
「た、助けてくれて、ありがとうございました」
彼女は顔をそむけたまま、そう言った。白希は自分の予想通りだったなと思うだけで、お礼をそのまま受け取る。しかし、それを言うだけで、なぜ言いよどんでいたのかはわからなかった。
(はぁ、なんで、名前で呼んでほしいって、素直に言えないの? なんでこんなに照れてるの?)
既に彼の服から手を離していた彼女は、熱くなる顔を両手で抑えていた。既に目の前にいない、彼を指の隙間から見つめる。その隙間から見る彼は理由不明だが、格好良く見えた。