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決定的に何かが違う世界でも  作者: リクルート
23 もどる絆
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もどる絆 1

 竜花と猩花のいる部室に戻ってきた。蓮花に扉を開いてもらい、中に入った。蓮花が、扉を開けたままにして白希、菜乃花、琥珀の順番で入ってくる。全員が入ったのを認識して、蓮花が扉を閉める。そして、ぞろぞろと人が入ってきたのを竜花を猩花はただ見ていた。蓮花は扉を閉めたその位置から動いてはいない。彼女は自ら出ていったのに、この場所に戻ってきたため、なんとなく居場所がないような気がしていた。だから、自分から自分のスペースに移動することが出来ない。


「蓮花っ、おかえりっ!」


 そんな彼女を見つけた竜花は走って、彼女にだきついてそう言った。猩花もそれに遅れて走り出し、彼女に抱き着く。


「おかえりなさい、蓮花お姉ちゃん!」


「た、ただいま。……ごめんなさい、勝手に出ていってしまって……」


 蓮花は歓迎されているにも関わらず、どうしても自分の心に芽生えた罪悪感を消すことは出来なかった。姉妹を人質にされていたとはいえ、彼女たちに何も告げずに、家出したのだ。彼女は少なくとも竜花には怒られると思っていた。だが、彼女は一番に抱きしめてくれた。彼女の顔を見れば、その目には涙が浮かんでいる。蓮花はそれだけ自分を心配してくれていたのだと理解してしまった。彼女の瞳にも涙が浮かんで、竜花の肩に顔をうずめる。言い合いはするが、蓮花も竜花のことに遭えなかったことが寂しいと感じているのは間違いない。罪悪感が無くならないというのなら、再び同じ過ちをすることが無いようにすればいい。この胸に引っかかるものは戒めにして、次に生かせばいいだろう。彼女は今はただ、再び姉妹と会えたことを喜ぶことにした。


 しばらくしてみんなが落ち着いて、竜花が知らない着物の男を見ていた。


「で、この人は誰なのかな?」


 先ほどまで泣いていた竜花は既に、中二病モードに戻っていた。そして、琥珀の前に立ち、彼に付いて問う。


「あ、その人は琥珀です。九尾の琥珀。この前一人で帰った時に、彼がお腹が空いていると言っていたからご飯を作ったのだけど、それから恩返しだって一緒にいてくれてます」


「九尾、ね。ボクは君が味方だとは思わないことにするよ。妖怪は怪異だ。つまりは、ボクらの戦っている相手。それをいきなり信じることは出来ないからね」


 中二病ではあるが、彼女の言っていることは正常であった。琥珀も菜乃花以外には気に入られようということは考えておらず、あくまで菜乃花の願いを聞き届けるために近くにいるだけだ。琥珀も菜乃花以外に自ら進んで協力しようとは考えていなかった。しかしながら、もし白希に命令されれば、それに従うしかないだろう。ありえないことではあるが、彼が菜乃花に危害を与えろとでも言わなければ、命令に背くことはないだろう。


「それでいい。わしのことは気にする必要はない。協力するつもりもないからな」


 琥珀は喧嘩腰と言うわけではなかったが、そんな言い方をすれば、いい印象を与えないというのは誰もがわかっていることだろう。竜花も彼にはいい印象を受けなかったようで、会話はそれだけで終わった。猩花は琥珀と話すつもりはないようで、既に自分のスペースの勉強机の椅子に座っていて、膝の上には猩花が座っていた。彼女が帰ってきたことの方が、琥珀が来たことよりも大切で甘えているのだ。今まではそんな子供らしい甘え方をする子ではなかったのだが、それだけ蓮花に会えなかったことが寂しかったのかもしれない。さらに、白希が来てから猩花が子供らしさを見せる場面が増えているのは間違いない。蓮花も本当は猩花に甘えてほしいと考えているため、彼女は膝の上に乗せるのは嬉しいことだった。


 結局、琥珀は扉の近くで壁に寄り掛かりながら、胡坐をかいて座っていた。一応、スペースとしては菜乃花の場所だが、扉の近くとなれば、誰の邪魔にもならないだろう。菜乃花が生活する分には邪魔になる位置ではない。竜花も猩花も蓮花もその位置に文句を言うわけでもなく、既に竜花と猩花の中では彼の存在は認識されていない。そんな腹立たしい奴よりも、自分たちを何度も助けてくれた白希の方にこそ、関心があるに決まっていた。


「お兄ちゃんはやっぱり、蓮花お姉ちゃんを連れ戻してくれた。私、ずっと信じてた!」


 蓮花の膝の上に乗りながら、蓮花の近くに立っていた、と言うか、猩花の呼ばれた白希に彼女はそう告げた。猩花のその真っ直ぐな言葉は白希にとっても嬉しいことだった。だが、彼女の期待にすぐに応えられなかったのは悔やまれることではある。これだけ力を持っていると思っていても、やはりできないことはあるのだ。そして、ここまで関わってしまった朝野姉妹を放っておくというのは無責任だとも感じていた。

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