蓮花を縛るもの 5
地面に落ちた燃え盛る魔獣は、体に付いたひれを何度も動かして、空に戻ろうとしていたが、地面を掻くだけで、空には戻れない。焼けたことによって、ひれの形が歪み空に戻ることが出来ないのだ。そもそも、その筐体で、羽もなく空を飛んでいること自体おかしなことだ。絶妙なバランだったのか、それとも魔法で空を飛んでいたのか、バランスと言う点では既にひれが歪んでしまい、バランスを取ることが出来なくなっているだろうし、魔法だというならばこの世界の魔気はかなり薄い。空を飛ぶというほどの魔気はこの世界にはないだろう。異世界から持ち越していた魔気が無くなれば、空を飛ぶこともできなくなっていた。そのことを考えると、こんな炎上させずとも、寿命を待っていた方が良かったかもしれないとすら思う。やがて、その魔獣は動かなくなる。地面に板のように平らになって、死んでいた。
「これで片付いたかな。さて、この二体の死体はどうしたもんかな」
「それなら、わしが回収したいんだが、良いか」
着物の男がいきなりそういった。今の今まで、ずっと戦闘を見ているだけの男が動いたことで、彼の存在を思い出す。何もしていない胡散臭い奴に、自身が倒したものを与えるというのは気は進まないが、彼は魔獣の死体を処理する術を持たない。結局、彼に魔獣の死体を処理してもらうしかない。彼にそれを任せると言うと、すぐに死体は彼の手の中に吸い込まれていく。彼の手の上で、白く輝く火の玉になって、彼が手を握るとそれは彼の手の中に吸収されるように吸い込まれていった。
白希も既にその男と戦うつもりもなかった。未だに、彼のことを隙にはなれないどころか、嫌いな部類に入るが、それでもすぐに倒してやろうという意志はなくなっていた。それもそのはずで、いくら彼が強いとは言え、菜乃花、敵の男、魔獣、魔術と連戦を続けていれば、体力は消費されるのだ。これ以上、自分から戦闘を吹っ掛けて、戦闘を行おうとは思えなかった。
「それで、貴方は何者なんですか? どうして、あの木の影にいたんですか?」
どうしても言葉に棘のあるものになってしまうが、彼はそれを直そうとも、隠そうともしなかった。着物の男は彼の言葉にむかつくどころか、彼を怒らせて自身が消されないように言葉を選んで話す。
「わしは、琥珀。九尾の琥珀。琥珀と言う名は、そこの菜乃花に貰った。彼女はわしの恩人だ。腹を満たしてもらったからな。そして、気の影にいたのは、菜乃花の暴走をどうやって止めようかと悩んでいたのだが、そこの菜乃花の隣に寝転がっている女が出てきて、女に任せようと監視していただけなんだ」
白希はそれを額面撮りに全てが正しく正直に話したことだとは思っていないが、kの男が、今この場においては、自分にとって脅威にならないというのは理解できた。彼の爆発技は強力だが、こういった場所で使用することは出来ないのだろう。自らも巻き込まれるのかもしれないが、少なくとも菜乃花が巻き込まれるのは確実だからかもしれない。彼女が恩人で、彼はそこは律儀な奴だという認識をした。
その後に菜乃花と彼が会ってからの行動を聞いていると、蓮花が動き出した。可愛い控えめな唸り声と共に蓮花が起き上がる。腹部の辺りをさすっているが、まだ痛むのだろうか。
「あ、今江さん。ごめんなさい、私……」
「仕方ないよ。あれはそう言う魔獣だと割り切るしかない」
白希は特に彼女の行為に気にした様子はなかった。
「魔獣、あれが……異世界の、敵」
「大丈夫。あんなのばかりじゃないよ。弱いのも沢山いるから安心して」
そう言われても安心できる要素はない。弱くても魔獣がそこら中にいるといっているようなものだ。蓮花はそれが彼の経験した世界だと改めて、理解させられる。今までは彼女の中の想像でしかなかった、白希の経験したことの一端に触れた。こんなのばかりを相手にしているのであれば、彼の強さにも納得できる。彼女がいきなり黙ってしまったのだが、白希は特に気にする様子はなかった。それどころか、泣きだしたり、記憶が残ってしまい撃つ症状が出るなんて、面倒なことにならなくてよかったとすら思っている。
(あの鳥の被害がこの世界にも広がって溜まるかって)
蓮花との会話が切れた。しばらくして、菜乃花が目を覚ます。彼女が身を起こすと、琥珀が彼女に近づいて体を支えた。
「私はどうかしてたんですね。超能力が制御できなくて、ごめんなさい」
さすがに白希はそれをよくあることだということは出来なかった。本当に強力な力だったのだ。だが、落ち込んでいるであろう彼女を責めることもできず、結局彼はこの一件を気にする必要はないと、自身の中で割り切った。
全員が起きて意識がはっきりしたところで、誰かに見つかる前にその場所から離脱することにした。目指す場所は朝野姉妹が使っている部室だ。