招き猫
隣の町には、たまに立ち寄るリサイクルショップがある。倉庫を改造した店で、古着やら日用雑貨がところ狹しと並べられていた。奥には古い食器棚があり、その上には少し大きめの招き猫が置かれている。
以前、店主に断って招き猫を持たせてもらったことがある。ずしりとした重さで年代物のように思えた。
顔だちはりりしく、その眼差しは鋭い。招いている左手に傷があるが、特に気にはならない。
それからずっと気になってしまい、ようやく次に来たときに売れ残っていたら購入することに決めた。今更ではあるが、この招き猫との縁を確かめたかったのだ。
それに私が初めて店に来たときから、猫はいつも同じ場所にいた。すぐに売れるとは思えなかった。
ところが次にリサイクルショップを訪れてみると、残念なことに招き猫の姿はなかった。きっとお眼鏡に叶う人物が来たので、一緒に店を出たのだろう。寂しくなった棚の上を見つつ、店内を見て回る。
しかし、特に気になるものと出会わなかったので帰ることにした。
(やっぱり、あの時買えば良かったかな)
そんなことを考えながら道を歩いていたら、電信柱の陰で小さな生き物が動いているのを見つけた。
「ミャァ」
声の主と目が合った。三毛の子猫だ。しかもかなり汚れている。
明らかに捨て猫だ。
一瞬、どうしようかと迷う。
(このまま見なかったことにするか)
だけど迷って後悔したばかりなので、思い切って子猫を拾う。
あの招き猫は置物として重かったが、今は命の重さを感じて心臓がドキドキしている。
もしかすると、後先考えずに行動したのは久しぶりかもしれない。
でも、一抹の不安を感じて確認を取ってみる。
「お前、うちに来るか?」
よく見ると、子猫は左前足を怪我していた。
(あの招き猫と同じだな)
「ミャッ」
タイミングの良い返事に思わず驚き笑ってしまった。
もしかすると永く世を見た招き猫は、たまに生きた猫に変化して人に関わっているのかもかもしれない。
そんなおとぎ話を思いながら、私は子猫を抱きかかえて家路を急いだのだった。