自殺
こんにちは。SS読んでいかれませんか?
僕は自分の事が大嫌いだった。卑怯で欲張りで罪深い人間だから。だけど神様は僕を殺さなかった。だから自分で死んでしまうことにした。それで高い高いビルの屋上へ階段を登っていた。
汗をたくさんかいて、息を切らせて登った。それなのにいつまで経っても屋上へは着かなかった。
でも僕には登るしかないから頑張って足を上げた。
眼の前が霞んで足に力が入らなくなった頃に囁き声を聞い
た。「君、君。このままじゃ死んじゃうよ。」
僕にそっくりな声だった。びっくりして周りを探したけど誰もいなかった。とうとう頭がおかしくなったんだと思った。だから僕はぶっきらぼうに答えた「僕は死ぬために登っているんだから当然だよ。」
するとまた声がした。今度は慌てて早口な声だった。「違うよ。そうじゃない。これじゃあ屋上につく前に死んじゃうのさ!」なんてひどいことを言うんだと腹が立った。
「デタラメを言うなよ!階段で死ぬやつなんか聞いたことがない。僕は屋上で死ぬと決めたんだから!」大きな声で言い返してやりたかったけど掠れた声しか出なかった。長く歩いて喉がカラカラだったから。
「なんて無茶をするんだ!大きな声はもう出ないんだよ!これで君がどれだけ限界か分かったよね!」
声はとても怒っていた。僕は渋々階段の踊り場に座り込んだ。疲れすぎていたから、はたから見たら倒れこんだみたいに見えたかもしれない。窓から風が沢山吹いてきてとても気持ちいい場所だった。少し休憩する間この声の少年と少し話をしてもいいと思った。
僕は仰向けになって天井を睨んだ。「大体なんでこんなにこのビルは高いんだ?もうずっと登っているんだ。君はなにか知ってるの?」
すると声は、面白すぎて苦しいという感じで笑った。
一つ呼吸を整えてから「知ってるも何も君が選んだんだよ。世界でいや、すべての中で一番に高いビルをね。」と答えた。「逆に僕が聞きたいよ。どうしてこんなややこしい選択をしたの?」不思議そうに抑揚のある声だった。
そう言えば自分で考えてみてもわからなかった。でも早く答えなければ考えなしだと思われるから適当を言った。「それは、、、飲むなら一番安いビールを、飛び降りるなら一番高いビルをと決まっているんだ。ほら、つまらないことを聞くな。」僕は笑ってほしかったのに、声は少しの間考え込んで「そうならいいのに。」と呟いた。少し変な空気になった。それからしばらくは風の音を聞いていた。
体が冷えて足が軽くなった頃、また声がした。「いいことを教えてあげるよ、あと一回踊り場を抜けたら屋上へ着くよ。」そんな大事なことを黙っていたのかと呆れてしまった。「それで済むならこんなに長く休憩はしなかったさ。馬鹿馬鹿しいことをした。」僕がまた階段を登り始めると、唸るような声がした。「体を休めるために風に当たるのは馬鹿馬鹿しいことなの?」僕は複雑な気持ちになった。「そんなことはないよ。でもどうせ死ぬんだから、その時僕の足が重かろうが服が汗臭かろうがもう関係がないんだ。」ふうん。と遠くで声がした。それから屋上へはすぐについた。
屋上には夕焼け空が広がっていた。橙色、水色、紫色、赤色。混ざり合って溶け切らなくてとても素敵な色だった。無数の線の雲がゆったりと流れていた。登り始めたときは薄い青空だったのに、長い時間が経っていたんだ。
僕は安心した。こんなに美しい空へなら目をつむらなくても飛び込める。神様は僕に構いすぎだとつくづく思った。
僕が深呼吸をすると、「さよならだね。」と寂しそうな声がした。「実は僕、君とずっと生きてたんだ。最後にこうして話せてよかったよ。」そうか、やっぱり声は僕のひとつだった。ずっと僕と生きてきて、生きてきて、今日死ぬのだ。僕は申し訳なくて、声のするあたりにゆっくりとお辞儀をした。
それから空の方へ近づいていって、どんどん速度をつけて、最後の地面へ踏み込んだ。
が、跳べなかった。さっきの休憩で軽くなったはずの足が重く、小さく震えていた。歯を食いしばっても、拳を握りしめても、どうしてもだめだった。「どうしたの?」心配そうに声がたずねた。
「待って、怖い。」そう僕は呟いていた。一瞬誰が喋ったのかよくわからなかった。僕は後ずさって座り込んでしまった。「どうしたの?痛いのが怖いの?」泣きそうな声がたずねた。「それもだ、、。でも違う。もっと寂しい感じがして苦しいんだ。だって、、さ。死んだら僕は何になるんだ?僕は何のために死ぬんだ?」僕は少し早口で一気に話した。少し怒っていた。
僕の落ち着きを待って声は答えた。
「虫も木も、もちろん人間もみんな最後は同じなんだ。」
「同じ?」
「そう、ナンデモナイになるんだよ。」
静かな声だった。風が戻ってきて僕の髪を撫でた。僕は今涙が溢れるのは悪いことじゃないと思った。そっと深呼吸をした。「そっか、僕はナンデモナイにはなりたくない。僕はただ、みんなに伝えたいことがあって、与えたいものがあって、変えたいことがあって、それで死にたかったんだ。こんなに高いビルを選んだのだって、、、、。」
それからは言葉よりも先に涙とか鼻水とかが出てきて困った。
声は僕が泣き終わるのを待って囁いた。「帰ろうね。」
僕はあの、声がする前の優しい時間を忘れない。
長い年月が経った。声はあれっきり聞こえない。
僕らは帰ってきた。今も一緒に生きている。
ありがとうございました。
また読んでくださいね。