後悔
(……しまった)
ふと、我にかえって澄真は青くなる。
(勢いで……言ってしまった……)
この状況を、どうしてくれよう……。澄真は青くなる。
腕の中では、狐丸が必死になって澄真から、逃れようと身を捩っている。
何故、言ってしまったのか……。
澄真は、頭を抱える。
自分は陰陽師で、相手は妖怪なのである。
まさに、天敵。
しかも、狐丸は澄真のことを嫌っていて、事あるごとに、威嚇されるか、逃げられるかしているのだ。
『好きだ』と言ったところで、到底受け入れられて貰えるはずもない。
(バカなことをした……)
このままいっそ、自分のモノにしてしまおうか……。
どす黒い感情が、澄真を支配しようとする。
しかし、相手は子どもだ。
『好き』と言われても、その意味すら、理解できていないかも知れない。
「……」
「あぁ……っ! もうっ。苦しいってばっ……!」
不意に、腕の中にいた狐丸の体が離れる。
(……! 逃げられる……っ)
焦って澄真は、ひしっと狐丸の腕をつかみ直す。
「!」
狐丸の姿を直視して、ひうっと澄真の喉が鳴った。
──白い……っ。
思わず息をのむ。
黒く染め上げていた髪の毛と目の色が、元に戻っている。それどころか、頭にはちょこんと狐耳。後ろにはふわふわの大きな尻尾が二本揺れていた。
(いつの間に……っ)
胸が締め付けられる。
「……っ」
澄真は、苦し気に、胸元の着物を握りしめる。
その様子に気付き、狐丸は耳を伏せ目を潤ませた。
(やっぱり、この『色』は嫌いなんだ……)
「す……澄真ごめん。……僕、苦しくて、色が抜けちゃったんだ……」
今にも泣き出しそうに、狐丸は震える。
「狐……丸……?」
謝る狐丸の髪に、そっと触れる。
(嫌がられるだろうか……?)
しかし狐丸は、嫌がる素振りを見せず、少し目を伏せ、されるがままになっている。
「……なんで……あやまる、の……?」
嫌がらないのをいいことに、そのまま触り続ける澄真。
妖孤の時と同じ、細く柔らかい白銀の髪。
(あぁ……、やっぱり綺麗だ)
狐丸を手に入れることが出来たら、どんなに幸せだろう……。
敦康は、無理強いするなと言ったが、本来は無理やり式鬼にするのが普通なのである。
妖の世界では、強いモノが正義。
弱きモノは強きモノに従う……それが、自然の摂理である。
(今なら私の方が、強い……)
二尾くらいならば、まだこちらが上。
いっそねじ伏せて、自分の式鬼に……。
「だって、嫌いだよね?」
「え……?」
不意に、現実に戻され、澄真は、目を丸くする。
(あぁ、会話の続きか……)
「……」
先ほど自分は、あんなにもはっきり、何回も『好きだ』と告白したはずだ。
なのに何故、未だに狐丸は自分の事が嫌いだろ、などと言うのか……。やはり、『好き』の意味が分かっていないのだろうか?
澄真は、狐丸を見下ろした。
耳を伏せながら見上げてくるその姿に、澄真の理性は簡単に、折れてしまいそうだった。
ごくりと唾を飲み込む。
「寺で言ってたよね? 黒くしろって。僕のことが嫌いだから……」
言いながら、金色の目に涙をためた。
「……っ」
涙を見て、澄真は、ハッと正気に戻り、慌てる。
(私はなにを考えているんだ……)
そっと、親指で瞼をなぞり、優しく涙を拭い取る。
「なにを、言って……。私はさっき言っただろ……?」
言いかけて、黙る。
正気に戻った今は、もう言えない。
「……」
顔が熱くなる。
「澄真……?」
狐丸が、そんな澄真を覗き込む。
「……っ!」
直視出来ない……。見てしまったら、きっと終わる。
澄真は、そっぽを向いた。
「……」
澄真に伸ばしかけた、狐丸の手が、パタリと落ちる。
「ごめん。ごめんね、……さっき、何か言ったんだよね? 僕聞こえなかったんだ……。人の耳って顔の横にあるだろ? 澄真の腕に塞がれていたし、苦しくてそれどころじゃなくて……」
狐丸の申し訳なさそうな声が、辺りに響く。
しかし、澄真の目には、希望の光りが灯る。
(……え?)
狐丸は今、なんと言った? 澄真は、先ほど狐丸が言った言葉を、頭の中で反芻する。
(聞こえなかった……?)
確かに狐丸は、そう言っていた。
澄真は、ばっと狐丸の方を向くと、聞き返す。
「え? 今、なんと? 聞こえなかった……っと、言ったか?」
両方の二の腕をつかまれ、狐丸は驚く。
「え、う、……うん」
頷く狐丸。
(……聞こえて、いなかった)
その事実に、ほっとする澄真。
「良かった……」
言いながら、狐丸を胸に抱く。
(良かった……もう一度、仕切り直せる……)
ホッとため息をつくと、目の前にある狐丸の耳が、くすぐったいのか、パタパタと揺れた。
それを見て、澄真は、ふふふと笑う。
(ゆっくり、確実に、手に入れる……)
そっと、耳に触れる。腕の中の狐丸が、ぴくんっと跳ねた。
「す……澄真……っ、くすぐったいっ」
そんな狐丸を見て、くすりと笑う。
(……絶対、私の式鬼に、してみせる……!)
澄真は決心すると、もう一度狐丸を、その腕にかき抱いた。
ふふ。
私も後悔しました。
やっば……告白させてもうた。。。とw
ふふふ。
でも復活しました。
澄真と共に……(こんなヤツと一緒とか……っ)
この調子なら、こいつら18禁にぶち込められそうです。
良かった。良かった。(なにがいいのか……)
次回は澄真のおうちです。
お持ち帰りしちゃいましたね。
どうしよう。
持ち帰る予定なかったんだけど。
あいつ、当分返さないとか言ってたし。
どうしよう。どうしよう。。。( ;∀;)
……どうにか、なるど。きっと。
では、次回(*゜ー゜)ノシ