死神の正体
「おや、今日もアイスコーヒーを御馳走してくれるのかい。嬉しいなあ」
「……嘘つき」
次の日、いつもの時間にいつもの場所で待っていたら、申し合わせしてもいないのに彼が現れた。言ってやりたいことがたくさんあり過ぎる。
「昨日は早く帰って、よかっただろ」
「……鬼」
「死神です。鬼ちゃう」
また喫茶店に入ると、いつものように一番奥の席へと通された。この暑いのに皮パンを穿いている彼の神経が理解できない。
「それで、昨日の話の続きなんだけど、あなたは相談しなさいと言ったわよね」
「ああ。たしかにそう言った。覚えているとも」
「いったい、誰によ」
フルーツパフェの上に乗った生クリームを一すくいで全部食べると、得意気に言った。
「フリーダイヤルの認知症窓口に」
「……」
この男が死神なのか変質者なのか住職なのかカウンセラーなのかロックンローラーなのか……もうそれすらよく分からなくなってきたわ……。開いた口が塞がらない。
「フリーダイヤルって……」
私もアイスコーヒーを口にした。今日はシロップとミルクをたくさん入れて甘めにしていた。
「通話料が無料なんだ。きみ好みだろ」
鼻水が出る……。たしかに私好みだわ。
「あのねえ」
「いいかい、人生は一度だけだ。歳を取ってもまだまだ生まれて初めての体験ばかりを繰り返していくことになるんだ。分からなくて戸惑うことや悩むことにどう対処すべきか、それは自分以上に知っている人に相談することが大切だ。俺のような死神に頼ったり、逃げたりしてはいけない。回り回って身を滅ぼすことになる。それが分かっただろ」
「……偉そうに」
「まあな。なんたって俺は死神だからな」
今日もメロンとパイナップルを皮ごと口に放り込んだ。
「わたし気付いたのよ。あなた、死神でもなんでもないでしょ」
「ブー!」
吹き出した彼の口からメロンとパイナップルの皮が飛び出た。
「騙されかけたわ。コースターに三人の名前を書いて、それをまるで死の宣告のように見せつけたけれど、実際には次の日の新聞にあなたが細工をしたんでしょ。俳優の○○○○さんは偶然当たっただけで、△△△△と□□□□はそのページだけ印刷し直してわたしのアパートに投函したんじゃないの」
「ハハハ……まさか。そんな芸当できる筈ないじゃないか」
またパフェをスプーンで食べ始める。気のせいだか少し焦っているように見える。
「わたしが田舎の神社を選んだのも、事前に母から聞いていたか、わたしが借りたレンタカーの位置情報から調べられたとか」
「……そんな尾行する警察みたいなこと、できる訳ないだろ」
「わたしが法定速度以上怖くて出せないから簡単だったんじゃない?」
「……さあ。どうだろうねえ」
「あなた、新聞配達の人でしょ。だから朝や夕方、アパートから聞こえてくるわたしと母の会話を聞いて、近付いてきたのね」
「……さあ、どうだろうねえ」
もう、さっきからそればっかり!
「逃げないで。わたしは怒っていないし、むしろ感謝しているわ」
「……」
「だから、最後に教えて欲しいの……あなたはどうしてわたしに近付いてきたのよ」
パフェを食べる彼の手がピタリと止まった。
「……実は俺、神社の住職で、日夜、人のため尽くそうと努力しているんだよ……な~む~」
「嘘つけ!」
神社に居るのは住職じゃなくて神主のはずだわ。
納得がいく答えが聞けるまで、席を立たせたりしないわ――。
まだ時間はタップリあるのだから……。
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この物語はフィクションです。
登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。