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夜の音楽室

暗い廊下には3人の足音が響いていた。

誰もいない校舎だからか余計に音が響いている。


そして目的の場所に到着し教室のドアを開ける。

窓から月明かりが入ってきてるが部屋の中は暗く、ドアの近くにある照明のスイッチを押し教室全体を明るくした。


今まで暗いところにいたからだろう。照明をつけた途端私含め3人は眩しそうに目を細めていた。



ある程度目が明るさに慣れた頃、私はピアノがあるほうへ歩き出した。


クリス様とロビンはここまで来たら何も言わず、私のやることは黙って見ていることにしたようだ。



前世は音楽の才がなかった私、今世ではそうじゃないのがとても嬉しい。


椅子に座り弾く体勢に入った。

令嬢で楽器を扱える人は珍しくなかったが、人前で披露することもしたことがなかったのでクリス様が少しわくわくしながら見てたのを視界の隅に捉えた。



バーーーーーン


最初はしっかりと音を出す。それがこの曲の最大の特徴だと思う。

そこからしっかりと丁寧にしかしリズミカルに盤上に指を流す。



しばらく聞いてロビンが何かに気付いた。


「…この曲は!!」

ロビンの方を見ながら微笑む。盤上から目を離しても間違えることなく流れるように動く指。



この曲は某RPGゲームの曲で私もロビンも大好きな曲だ。新しい冒険が物語が始まるような胸の高鳴るこの曲調。作曲家さんまじ神!!…おっとつい興奮して…。


まさか今世でこれがすいすい演奏できるとは…リーナスの才能に改めて嬉しくなる。



ロビンが元気になるかなーと思って始めた演奏が自分自身が楽しむものに変わり、終始ノリノリで弾いていた。

最後のクライマックスの盛り上がるところは前世では到底できない指さばきで演奏しバーーーーンと締めた。


演奏を終え、クリス様が「……すごいな…」と私の演奏に呆然としていた。その隣でロビンが目をキラキラさせている。


「リーナス!!お前すごいな!!!」

興奮のあまりハイタッチしようとしていた。かくいう私も自分の演奏とはいえ大好きな曲を完璧に演奏できた興奮でハイタッチに応じた。


「好きな曲を弾くってとても気持ちが良いですわね!!」

やり切った感で大満足し伸びをした。


「まさか…ここでこの曲を聴けるとは…リーナス、ほんと色々ありがとな?」

ロビンは少し涙を浮かばせながら私に礼を言ってきた。


「こんなので良ければいつでも弾きますわ」

満面の笑みで答えればロビンも笑顔を見せた。



ガラッ



教室のドアが開かれた音で私達3人は勢い良く教室の入り口の方を見た。


うちのクラスの担任のディーン先生だ。

ディーン先生は短髪の頭をボリボリかきながら私達を見てため息をついた。


「お前ら…こんな時間まで何やってんだ?」

がっしりとした体をダルそうにさせてる辺り、夜に校舎で生徒たちが騒いでいるところを見つけて面倒だと言いたげな雰囲気だった。

まぁこの人は大体いつもめんどくさそうな顔をしてるけども…。



「先生こんばんは、今日も良い夜ですね」


「はいはいこんばんは、そもそもそんな挨拶を校舎内でするとは思わなかったがな」


「この2人は私の我儘で付き合ってもらいましたの、怒らないであげてくださいまし?」


そう顔を見上げれば、再びため息をつくディーン先生。



「…今日は良い演奏を聴かせてもらったから見逃してやる。早く帰れ」

先生はシッシッと追い返すような動作で私達は教室を後にした。

…ちょ…一応王太子もいるのにその動作は不敬罪にならないのか?この先生の先生としてるときに生徒に平等でいようというところは尊敬もするし、信頼もするが…。





男子寮と女子寮に分かれる道まで来た時、クリス様が「女子寮まで送る」と言ったが近いし断ったら頑として譲らなかった為クリス様のご厚意に甘えた。

ロビンはロビンでそもそも迷惑をかけたのは自分だし自分が送るとクリス様に言ったが「いや、婚約者として僕がリィーを送りたいんだ」と言えばロビンも引き下がるしかなかった。



ロビンにおやすみと挨拶し、クリス様と共に女子寮へ向かう。


少し歩いた時、急にクリス様の方へ引っ張られて私はクリス様の腕の中へ収まった。


「ク、クリス様!?」

いきなりのことで思わずどもってしまった。


「…幼馴染で仕方ないとはいえ、ロビンに少し嫉妬してしまった。」

見上げれば辺りは暗くてよく見えなかったが、街灯に照らされたクリス様の顔が少し拗ねてるようだった。



今までも何回か可愛い表情とか見てきたけど…なんだろう…


なんか…



すごく愛おしく感じてしまった。





でも彼からはたくさん愛情表現をしてもらったり愛を囁いてもらってるにも関わらず、私から何もしたことがないし言ったことがなかったなということを思い出した。



「…クリス様、クリス様が私を想ってくれてるように私も貴方をお慕いしています。いつも私のそばにいてくれてありがとう、大好きです」


そう言いながら今度は私の方から抱きしめてみた。

正式な婚約者になってからかその前からか…もはやいつからかは分からないけども私も彼を好きになっていたんだろう。

そう思い抱きしめることも自分の意思でできたわけだが…



これが正解か不正解かなんて分からない。だって恋愛経験なんて乏しいんだもの。


恥ずかしさも相まって顔をクリス様の胸に押し付けた。絶対今の私顔赤い!!



私の言葉に目を見開いたようだったクリス様がしばらくフリーズしてる状態だった為私が一方的に抱き着いてるような恰好になっていた。

私は私でその後どうしたらいいか分からず抱きしめたまま固まっている。


どうしよう…どうしよう…!!


グルグルと考えてる中でクリス様が少し体を離した。


ようやくこの体勢から脱してドキドキしてる状況からも脱した安心感と、え?私何か間違えてた?という不安から自分の顔が何とも言えない顔になってるのが分かる。


見上げればすごく幸せそうなクリス様の顔があり、だんだんその顔が私のそれに近づいてきた。

反射的に目を閉じれば唇に柔らかな感触が。




星空の下、女子寮へ続く道に備えられた街灯の下で、私達は互いに照れ笑いしながら見つめ合い、再びどちらからともなくキスをした。



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