新たな季節の訪れの前に5
幼い頃彼と普通に遊んでいた時は、私ももしかしたら彼も、前世の記憶がなかったからお互いの事を気付かなかったのだろう。
私はただの我儘な令嬢で彼もただのおとなしめの男の子だった。
だが今は違う。お互い別の人格を持っているし、ここからは私の憶測でしかないが…いやおそらく十中八九当たっていると思うが…私は前世の「彼」のことも知っている。
何故なら前世でも私達は幼馴染というか腐れ縁だったから。
その衝撃で前世での最期の時の光景もフラッシュバックした。
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あの時小、中、高と共に同じ学校に通ってた近所の同級生の男の子がいた。
もしその子が女の子だったならもっと親しく遊んだりしたのだろうけど、男の子というのもあってかそこまで深く関わりもなかった。だからといって仲が悪いわけではなく顔を合わせれば世間話したりお互いの近況を軽く話す、そんな感じの仲だった。
社会人になりお互い日々の生活に忙しくしていたある日、会社帰り街で偶然ばったり幼馴染の彼と会った。
そういえば社会人になって一緒飲んだことないねって話になって、近くの居酒屋に入って互いにいつも通り近況報告しつつ、仕事の話をしたりお互いゲーマーだったからゲームの話をしたり、お酒を飲みながらリラックスした時間を過ごしていた。
その時居酒屋にものすごい勢いで車が突っ込んできてフェードアウトした。
多分その時人生に幕を下ろしたのだろう…。
…ということは彼もその時に…。
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「…ス、リーナス?」
無意識に呆然と立ち尽くしていたのだろう。イーシスも立ち上がって私の顔を覗き込む。
ロビンもロビンで呆然と立ち尽くしていてお互い見つめあっているという奇妙な図が完成されていた。
「…ロビン、お久しぶりです。お元気でしたか?」
「…はい、お嬢様もお元気そうでなによりです」
「…ふふっロビン敬語はいいわよ、学園でもよろしくね?」
「…ははっそうか、こちらこそよろしく」
この短い会話でも前世のまんまでいいというのが伝わったのだろう。
周りから見たら身分差もありロビンの態度に難色を示す人も出そうだが、今世でも幼い頃は普通に友達のように会話をしていた為、その場にいたお父様もイーシスも特段おかしく感じてはいないようだ。
後は学園の編入の手続きとか寮の話とか主に学園中心の話になり、その場は解散した。
ロビンともうちょっと喋ろうかと思ったが、さっそくお父様と執事と編入手続きに取り掛かりだした為、また後日となった。
まぁ一緒の学園生活送るならいくらでも喋る機会あるだろうしね。
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今日はクリス様がうちに見える日だった。
私はサラに薄い黄色のドレスに着替えさせてもらって、ホールでクリス様の到着を待っていた。
「やぁリィー、リィーが学園にいなくてとても寂しかったよ」
屋敷に入り私を見つけるなり近づきクリス様は相変わらず爽やかな笑顔で甘い空気を醸し出す。
「クリス様、遠いところからご足労いただきありがとうございます」
優雅にカーテシーをしクリス様を出迎えた。
するといきなりクリス様が片膝をつき私の手を取った。
「ほんとはもっと前にこうして君に求婚したかったが僕が至らないばかりに申し訳ない…だが君を想う気持ちは本当だ…どうか僕の隣にいてくれないか?」
そう言って手の甲にキスをしてきた。
もはやこれは「イエス」か「はい」かしか選択肢はないな…とはいえガチのプロポーズは前世においても経験なかった私だったから悪い気はしなかったしこんなに衝撃があるとは思わなかったし、純粋に嬉しかった。
「…こんな私で良ければよろしくお願いします」
半分は形式上、半分は心からそう答え微笑むとクリス様は立ち上がりぎゅうっと抱きしめてきた、痛い!痛い!!
「…王太子殿下、よくぞ我が家へ来られた」
ゴホンとわざとらしい咳をしながらお父様が声をかけてきた。
私の後ろに立っていた為表情は伺えなかったが、おそらく困惑していただろうと思うと気の毒だなと他人事の様に考えていた。
客間にクリス様を通しうちの両親+イーシスに挨拶ししばらく談笑していた時、「グリアベル家の中庭に行きたい」というクリス様の一言でお喋りの場を中庭に移した。
家族は気をきかせて「あとは若い2人で…」みたいな空気を醸し出して私とクリス様とサラとクリス様の侍従のみになった。
とは言えサラと侍従はこちらの会話は聞こえないと様にと少し離れた場所に待機しているのだが。
「しかしリィーもあと少しで2年生か…入園してきた頃が懐かしいな」
クリス様が私が入園したばかりの頃を思い出しながら懐かしそうに笑った。
「そうですね…クリス様もでしょうけど、まさか私達が婚約するとは夢にも思いませんでしたわ」
ほんと入園したときが昨日のことのように思い出される。
あの時私は校門にいたクリス様を気付かない振りしてたのだったかしら。思い出して私も思わず笑ってしまった。
正直クリス様に恋愛感情はあるかと聞かれればまだ分からない部分はあるけれど、前に感じた苦手意識はなくなったし、優しくてたまに強引なとことか普段かっこいいのにかわいい部分もあるとか…って好感もてる部分を言っていくともはや好きなんではないか…?と首を傾げた。
「そういえば先ほどグリアベル侯爵に聞いたのだけど、リーナスの幼馴染が今度の入園式の時に編入してくるんだったかな?」
「あっはい。そうなんですよ、ロビンと言いまして…」
「へええ…幼い頃のリィーを知ってるとか…少し妬いちゃうなぁ」
クリス様は私の手を握りながら微笑んでいる。目は笑っていなかったが…。
「と言っても私はあまり交流はなかったんですけどね。どちらかと言えば兄が仲良くしていたみたいですが…」
「ほう…イーシス殿と…それじゃそのロビンという者も将来は騎士を目指したりするんだろうか?」
「さぁ…そこまでは分かりませんが、ロビンのお父様は衛兵なので無きにしも非ず、ですわね」
「そういえば一つ聞きたいことがあったんだが、リィーはルーファスをどう思ってたの?」
「ルーファス様…ですか?前ほど近寄りがたい感じも無くなり仲良くさせてもらってますが…その位ですかね?」
私の答えに満足そうに笑顔を見せるクリス様。黒さもない純粋な笑顔。私の回答に何をそんなに満足したのかは分からないが、その笑顔を見れたのは普通に嬉しいなぁと思ってしまう。
あぁーその笑顔好きかも…って思うと自分の中で何かがストンと落ちたような気がした。
空を見上げれば春がそこまできている様な気がした。




