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桜と歌と1

まさかの王太子登場に口をあんぐり開けてしまった。



…てかちょっと待って


私ここでぼけぇっとしながらバカみたいに歌ってたよね?


もちろんその辺りもばっちり見てたし聞こえてたよね…?いや…ぼーっとしてたとこを見られるのは百歩譲って良いとしても歌なんて聞かれてたら恥ずかしい。羞恥で死ねる。

見てもいないし聞いてもいないことを僅かな可能性にかけて、そうであってほしいと思いながら王太子を見るとどこか楽しそうにこちらに微笑んでる。……はい、確実に見られてました。



ふふふ、王太子が私に微笑んでくれるなんてレアだわぁ、明日は槍が降るわね、と現実逃避しながらすくっと立ち上がる。



微笑んでいる王太子に何事もなかったかの様に向かい合わせて笑顔を作り、美しくカーテシーをしてその場を後にしようとした。



が…




「もう行ってしまうのか?」


「え、えぇ…ちょっと急に用事を思い出しまして…」


「先ほどまでぼーっとしながら歌っていただろう?」


うるさいわ!!と心の中で発狂していた。不敬罪になってしまうから頑張って心の中に留めていた。


だが顔に出ていたのだろう。王太子はそんな私を見てククッと笑ってベンチに座った。

そして王太子の隣をポンポンと叩きながらこちらを見上げた。



えぇ…隣に座れってか…

最近私の心の中の声が言葉悪くなっている様な気がするがそこはあえて気づかないふりをしとこう。



既に立ち上がった私は座っている王太子を見下ろす形になっている。

それはそれで王族に対して失礼にあたるよね…と思い直し「失礼します…」と一声かけて隣に座る。もちろん少し距離を取って座っている。



こちらに座るように促されてから座るまで、そして今もずっと楽しそうに王太子が私の横顔を見ている。

私は正面を見ながらぴくりとも動かない。蛇に睨まれた蛙現象再び!



「…そんなに怯えなくても、僕は君を害さない」

穏やかな声に幾分か緊張状態が和らいだからか、肩の力を少し抜くことができた。




「…私に何か用ですか?」

とは言えまだ緊張状態が抜けきれない私は恐る恐る隣の人物をチラ見して尋ねた。


私の怯えように少し困ったように微笑んだ彼は口を開く。


「…先ほどの歌はとても良い歌だね、そして君の歌声もとても透き通って綺麗だった。」

まさか自分の歌った歌が褒められると思ってなかったから目を見開いた。恥ずかしさが大部分を占めているがほんの少しだけ嬉しくなった。



「……ありがとうございます」

恥ずかしさのあまり小さな声でしかお礼ができなかった。顔が真っ赤なのは自覚あるが褒めてもらえたことが嬉しくて自然と笑みがこぼれた。


そんな私を見て、褒めたことで自分も照れているのか王太子も顔を赤くし私を見ている。




今日改めて気付いたことは王太子はイケメンだ。年齢的に美少年と呼んだらいいのか美青年と呼んだらいいのか難しいところだが、かっこよく美しい顔立ちをしている。


イケメンが無表情だと何気に迫力があることは知っていた。まぁ王族のオーラというものも相まっているんだろうけど…。

そしてイケメンの笑顔はほんと綺麗でどこか可愛らしく感じる。


とはいえ異性の対象としてキュンとくるか?と言われればそれはない。

私は本来年上の男性が好みだ。まぁ一応「リーナス」から見れば王太子は1つ年上で年上男性に当てはまるのだが、好みの異性はアラサーの感覚でストップしてるらしく、10歳くらい年上の男性が好きだ。

つまりはアラフォーのおじさんが好きということで「リーナス」の父親くらいの年齢がいい。

もちろん言うまでもないが父親は恋愛対象には入ってない。


何が良いってあの疲れたときに醸し出す大人の色気ですかねぇ?


その点クリストファー殿下はフレッシュさ万歳だ。ルーファスあたりは将来有望だな。彼はきっといい歳の取り方をする。




「…なんか分からないけど、楽しそうだね?」

1人脳内でおっさんについてあれやこれやと熱く語っていると、王太子がこちらを覗き込んできた。

ごめん、王太子の存在忘れてた。綺麗な顔が思いのほか近くにあった。


「は!すいません、ちょっと考え事してました」


「…へぇ?僕が隣にいるのに考え事ねぇ…」


途端に黒い笑みを浮かべる王太子。


「ごめんなさいごめんなさい!!」


「いいよ、許すよ?」

という言葉にホッとしたのは束の間だった。その後爆弾を投下させることになる。



「さっきの歌をもう一度歌ってくれたら許すよ?全部聴けなかったしね?」



はあああああああ!!?何その罰ゲームは!!?



「僕の事無視して考え事してたの、とても傷ついたんだけど?」

黒い笑顔でこちらにジリジリ近づいてくる。私はその分王太子の反対側に後退る。


「お、王太子殿下にお聞かせできるような歌ではございませんので…」


「名前」


「…へ?」


「王太子殿下じゃなく名前で呼んで?」


笑顔は有無を言わさないと物語っていた。



「…ク、クリストファー殿下…」


「クリス」


愛称で呼べってか!!


「そ、それは難しいですね…」


「君、今自分の置かれてる状況分かってる?」



ジリジリと距離を詰められる王太子に後退りをする私。

今やベンチのギリギリに座っていてこれ以上王太子と距離を取るのが難しくなっていた。



「早く呼ばないとキスするよ?」


「……!!!」


やばいやばいやばい


「…クリス殿下!!」

焦りのあまり涙目になりながら慌てて呼ぶ。


「殿下いらない」


「クリスさまぁ……!!!」

やけくそに人の名前を呼ぶことがあるのだろうか。



わあああんと涙目になって震えながら呼べば殿下は目を見開き、元通りの距離に座り直してくれた。

安堵しながらもベンチの端っこに座ったままだった。



クリス様は何故か私とは反対方向を向いている。反対を向いてるからよく分からないが手で口を覆っているような気がした。気分でも優れないのだろうか?




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