そして、新たなる旅路へ……!!
学校帰りにアラサースーツイケメンに声を掛けられた。
「……間 咲さん? ──いや、ルビー?」
「もしや……長谷部氏? ──いや、ニコレッ」
「その名前を呼ぶな」
ニコレットこと、長谷部氏は厳しい瞳と口調でそう言う。
私は長谷部氏に連れられて喫茶店に入った。
「いや~長谷部氏はマジでアラサー兄ちゃんだったんだねぇ……しかもそこそこ有名なuチューバー、Mr.Xとか」
あれから私はuチューブを調べ、長谷部氏を特定していた。
彼は矢鱈と上手い顔の絵(絵柄とキャラクターはその都度違う)が描かれた紙袋を被って、都市伝説を検証するuチューバー、『Mr.X』である。
……名前、もっとどうにかならんかったんか。
大体悪の組織の長っつー設定も如何なものか。
そもそも長のくせに自ら検証するとか……長なら長らしく下っぱにやらせろ。
「……んなこたどーでもいい」
「そういやアレの検証動画、上がってないけど?」
「ああ……戻ったら、企画自体がなかったことになってたからな」
「え」
誰に聞いてもそんな企画は知らないと言うし、撮った筈の映像も残っていないという。
驚いたが、ニコレットがいなくなった時の向こうの状況を考えれば、納得できない程のことでもない。
あの時のことを話すと長谷部氏も私と同じ気持ちになったようだ。
「──コレを渡しにきた」
コトリ、と長谷部氏はテーブルに小さな何かを置いた。
──メモリーカード。
現代っ子にはわからぬだろうが、(※咲は令和JKです)、昔のゲーム機には欠かせない、セーブデータが入ってるヤツだ。
「完クリ直前迄の、セーブデータが入ってる」
「!!」
「どうするかは、君次第だ」
「どうするもこうするも……無理だよ」
「……そうか」
正直……あちらの世界に未練がないでもない。
だが、あの世界に確実に行けるとも、状況が同じとも限らない。
ましてや、あの時の続きから始まるなんてこと……
それに──
「家のゲーム機、熱暴走でポシャったから……」
「そんな理由かよ!」
「だいたいそのメモリーカードが悪いよ!! つーかなんだよメモリーカードって!?」
現代っ子にはわからぬだろうが(2度目)、『熱暴走』というのはゲーム機がデータの重さに耐えきれず熱を発して暴走することである。
私が家で使っているゲーム機は、なんとプ○ステ2……お父さんの使用していたものだ。
そして当然、メモリーカードもプ○ステ2である。家にはプ○ステ3もあるが、メモリーカードアダプターなるものが必要になる。
しかしこれは需要があまりなかったのが災いし、今ではお値段が跳ね上がっていて……とてもじゃないが購入できない。
ゲームソフトですら渋るお父さんが、買ってくれるわけがないだろう。
ちなみにお外でやるときはPS○。データは当然本体にセーブできる。
主にこちらでゲームをやっている。
私は憮然とした顔でメロンソーダのアイスを食べる。氷に面してシャリシャリになった部分を。
「……都市伝説を検索しても、あんなのでてこなかったもん。 セーブから始めてもラスト直前までは2時間位かかるから、知らなければリセットボタンなんて押さないし……」
そりゃまあ釈然とはしなかった。
でも文字通り、住む世界が違うのだ。
殿下にはときめいたが、数多のリスクを越えてまで都市伝説を検証する気には、とてもじゃないがならない。
「夢オチは夢オチで終わらせるのが正しいんだよ」
「意外と現実的なんだな……」
長谷部氏はそう言って、笑った。
ただ、メモリーカードは貰っておいた。
きっともう、向こうには行けない気はしてるけど……殿下との思い出に。
それじゃ、と言って立ち上がる長谷部氏を私は取っ捕まえて制する。
「待て……!」
「?なに?」
「忘れたとは言わせん……長谷部氏、貴様が私にした数々の暴挙をな……!!」
「ええええええええ!?」
階段を自ら落ちその罪をあたかも私のせいにしようと画策、私の婚約者である殿下に粉をかけた挙げ句に、私の清らかな貞操をも奪うべく押し倒し──更にそれが聖殿を壊した原因にも関わらず、放置したまま抜け駆け的に帰りやがったのだ。
この責任はとってもらう。
そんな訳で、現在私の頭を悩ませている、『入院してたら自分の事が好きだった筈の幼馴染みがモテ期に入ったようで、女の子を侍らせながらこれ見よがしに絡んできて鬱陶しい件』へのざまぁに協力して貰うことにした。
──俺達の戦いは、まだまだこれからだ!!
……ちなみにざまぁした後、私はMr.Xの手下キャラ『ブラッド・ピジョン』としてuチューバーデビューを果たすことになるのだが……それはまだ先の話。
ご高覧ありがとうございました!




