07
王族や貴族、騎士や一部の兵が大聖堂へ集まり、騎士見習いの中から一人、最も優秀な者に正式に騎士の称号が与えられる式典が行われた。同時に年をとった騎士が引退し、今後は剣や弓などを専門にした教育係となるのだそうだ。
それに呼ばれなかったアンブロシアーナは、久々に明るい時間に部屋を出て庭園を好きなだけ散歩をする。
ジギの小屋に向かうところを誰かに見られては、彼に迷惑がかかると思い断念したが、期待通りにジギが丁度庭をふらふらと見回っていたので、満面に笑みを浮かべて話しかける。
「ジギ、お勤めご苦労さま!」
「ア……アン様はサボりですか」
「呼ばれなかったの!」
「それは大変お寂しゅうございましたね」
外だからか敬語を使いつつも、わざとらしい喋り方に親しみを感じる。
「そのお花は剪定されたやつ?」
花壇の脇にある麻袋の中に放られている花を指差すと、ジギは頷いた。
「捨てろとのことですが、まあ、欲しいなら持って行ってもいいですよ」
麻袋の中には、茎が伸び過ぎたり花壇から飛び出してしまったり、密集しすぎてこれから咲く蕾に影響を与えないようにと、剪定された花が山になっている。
状態の良いものはすでに王宮のどこかの花瓶に飾られているのだろうが、茎が曲がって伸びたもの、花が小さいものがたくさん余って、誰にも目を付けられずに捨てられてしまうのだ。
アンブロシアーナは棘の無い花を選んで、丁寧に茎を編み込んでいく。
「何を作ってるんです?」
「花冠だよ」
「へえ」
「魔人の国ではこれを作って……作るのが流行ってたから」
「……あっちには、あまり花が無いと聞きましたが」
「うん、大きくて色鮮やかなのは、王宮とか貴族のお屋敷の温室にしかほとんどないの。だからこれは捨てないで、乾燥させて飾ったりもするんだよ」
話しながらも慣れた手付きで作業を進める。久しぶりにしてはしっかりとした花冠を完成させると、アンブロシアーナはジギに見せるように両手で持った。
「今日はそれ被って過ごすんですか」
ジギの言葉にアンブロシアーナは笑う。
「あなたにあげる」
「は? 俺に?」
「うん、ジギにあげたいの」
魔人の国でダンスを申し込む際に一輪の花を差し出すのは、相手に対して親しみや尊敬などの好意を持っていることを示す。愛の告白には花冠を渡す。
アンブロシアーナは、そんなことは知らないだろうジギに笑いかけた。
拒絶せず、少し屈んだジギの頭に花冠を乗せると、胸が高鳴って痛いほど締め付けられる。ジギとは身分が違いすぎる。魔人の国でならともかく、人間の国へ嫁いだアンブロシアーナの想いは決して届かず、伝えることさえ相手に迷惑がかかるだろう。
――わたし惚れっぽいのかな。なんだかすごく、ふしだら……。
何も知らずに花冠を受け取らされたジギに、アンブロシアーナは自分のことを叱った。しかしフードの上から花冠を被っているジギの格好が可愛らしくも見えてしまい、なんとも言えない気持ちで俯く。
「花言葉は、バラとかだと本数で変わるって聞きましたけど、花冠って何か意味あるんですか」
「え? えっと……今日は称号を与える日みたいだから、庭師のジギにその……お友達の称号を」
「お、お友達? アンタなあ、ご自分の立場ってやつを……はあ、俺の首が飛んだらアン様のせいですからね」
「内緒にするから……」
「わかったら、もうさっさとお帰りください」
「……ねえ、ジギ……あのね、もしかして照れてたり……なんて」
「お、お前っ! 頭の中、端から端までお花畑だろ! 帰れ帰れ」
シッシと手で払われて渋々踵を返す。その後部屋に戻る道を辿りながら何度か振り返ると、いつものようにジギはアンブロシアーナを見えなくなるまで見送ってくれていた。
花冠はしっかりと被ったままだった。




