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残業が終わり、スマホの電源をつけると一通のメッセージが表示されていた。
それは塚原の同級生からだった。それを見た瞬間、眉毛が上がった。
「塚原くん、久しぶり!久々に会いたくなったんだけどご飯おごるから今月会える日あるかな?」
そのメッセージを送ってきた同級生と塚原はたまに話す程度の仲だった。一緒に教室移動をしたことはなかったが、体育の授業では時々ペアを組んだ。彼は特別仲のよい相手がいるわけではなく、誰とでも話すような高校生だった。
彼とは連絡先を交換していたものの連絡が来たのは初のことだ。
それにしても彼が何の用だろうか。不審に思った塚原は鈴木に電話をかけた。
「……会った方がいいでしょうか?」
「ちょうどいいな」
「何が?」
「実はな……いや、今は黙っておくか。塚原くん、俺が後ろで見守ってやるからそいつと会ってこい。そいつと付き合うべきかどうかお前自身が見極めろ」
どうやらすぐには助けてくれない。これも試験の一つだ。
「わかりました」
塚原は彼に返信した。
「久しぶり!ご飯に行こう。ただし、場所はこっちが指定していいかな?」
しばらくすると彼から返信が来た。
「わかった。だけど俺、今中部に住んでるからその辺は考えてくれるとうれしい」
場所を山梨のレストランに指定し、彼の承諾を得ると鈴木に報告した。
「鈴木さん、紫山というレストランに決まりました」
「そうか。じゃあ俺もしざん……何て書くんだ?そのレストラン」
「紫の山です。甲府市にあります」
「わかった。じゃあ俺も予約しておくよ」
「お金は僕が出しますよ」
電話越しから鈴木のかすかな笑いが聞こえた。
「いいんだよ。気を遣わないで。確かに自分から人を助けろって俺も教えられてきたけど俺のことは俺がやるから。料金は受け取った一万円から出すから」
田中への依頼や塚原と一緒にいた時間を考えると受け取るべき金額は既に一万円を超えているはずだ。
「いいですよ。僕が出します」
「もっと自己中に生きろ。俺が出すって言ってるだろ」
呆れと照れが交じっているような声だ。
「それで、時間は?」
「来週の土曜日の夜六時からです」
「了解」
通話が切れた。
鈴木は「いい人」を辞めることを願っているんだ。今は善意を渡したい気持ちを抑えよう。
塚原は押入れから卒業アルバムを取り出した。
ページをめくっていく。塚原のクラス写真が見つかった。クラス四十人分の顔写真が並んでいる。
写真家に笑顔になるよう言われたのは今でも覚えている。見事に全員が笑顔になっている。こうして見ると全員が「いい人」に見える。誰が本当に性格がよいのかこれだけではわからない。笑顔には人を疑わせない魔力があるのか。
もう一度顔写真を見た。塚原を誘ってきた金山創太も笑顔を見せている。こんな笑顔で誘われたら……。金山に会うのが不安になってきた。
「今のままでは君に宮山の仕事を断るのは無理だ」
鈴木の言葉を思い出した。もし何か誘いが来たら……そのときは宮山の練習台にしよう。
約束の日、塚原は予約してある席に座り彼が来るのを待った。
「久しぶり」
そこに来たのは確かにかつて同じクラスにいた金山だった。
「ああ、久しぶり」
金山はビジネスで使うようなかばんを提げていた。
「とりあえず運ばれるのを待つか」
金山に塚原はうなずいた。
「いらっしゃいませ。こちらにどうぞ」
前菜が運ばれる前に鈴木が入店した。
それにしても鈴木は普段何をしているのか。味方してくれることにありがたく思いつつも一抹の疑問がよぎった。
「いやあ、今日は会えてうれしいな。難しい話もなんだし高校のときの話でもしようよ」
「うん」
鈴木への疑問は金山の声で遮られた。
「初めて秀平くんと話したのって確か図書館だったよね」
「そうだったね」
塚原が初めて本を借りに行ったときの図書当番が金山だった。クラスが始まって間もない頃、塚原はクラスの名前を覚えきれていなかったが、金山の顔には見覚えがあった。
「本の借り方ってこれでよかったんだっけって聞いた気がする」
「そうそう。よく覚えてるね。話してみたらけっこうおもしろい子だなって思ったね」
「え、そう?なんか恥ずかしいな」
人格評価を受けると塚原は自分の立場がわかり、気恥ずかしくなる。
「文化祭は覚えてる?秀平くん、一人でライブ見てたから一緒に見たよね」
「そうだったね。一緒に行動してたやつが俺はいいって言って軽食買いに行っちゃったんだ。あれ、あのときって創太くんはなんで一人でライブ来たの?」
「なんでって……ライブ見たかったからだよ」
金山は少し答えづらそうにしていた。理由はわからなかったが、話し方がぎこちなかった。
「話は変わるけど伊藤信泰って覚えてる?」
「うん。何かあったの?」
伊藤も同じく同級生だ。
「卒業後に伊藤から電話がかかってきたんだ。『今、借金で困ってる。同級生のよしみで低利子で貸してくれないか』って」
「借金してたんだ……」
真面目な伊藤のことだ。何か理由があったのだろう。
「そう。僕は残念ながら彼には貸せなかった。だから代わりに紹介したんだ。大泉起業相談所っていうのを」




