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あなたを忘れるべきかしら?  作者: 長岡更紗
第二章 アリシア編
20/88

09.私は平気よ

 リビングに入ったアリシアは、美しい立ち姿のままのルーシエに目を向ける。


「ジャンからすべて聞いたのね?」

「はい。それとアリシア様の指示は遂行いたしました」

「ありがとう。ところでジャンは?」

「それも今からお話します」

「長くなりそうね。座りましょう」


 アリシアはソファーに腰を沈め、ルーシエにも促した。彼は優雅に腰をかけると、ゆっくりと視線をアリシアに移動させた。


「順を追ってお話します。まずは、ジャンがフィデル国に潜入し、知り得た情報から」

「お願い」

「フィデル国の過激派が、ストレイアの王族を襲う計画をしていたようです。狙いは王妃様。目的は暗殺です」

第一王妃(マーディア様)は有能な方ですものね……政治においても調和主義者で、レイナルド様の賢婦として役目を果たしていらっしゃる……そのマーディア様が邪魔だったと?」

「ええ。どうやらフィデルの過激派はストレイア側から戦争を仕掛けてほしいようです」

「乗ってはいけないわね」

「はい、絶対に。王妃様を襲った連中が確実にフィデル国の者とわからない以上、各国はストレイアに批判的になるでしょう。そんな中で戦争を仕掛けても、不利になるだけです」


 コクリとアリシアは頷いた。このことは、明日きちんとレイナルドに伝えるべき事項だと認識して。


「ただ、恐らくはフィデル国の者という証拠は出てこないでしょう」

「やっぱり下手人を特定するのは難しいかしら?」

「いえ、それもありますが……下手人は、ラウ派の者かもしれないからです」

「ラウ派の?」


 第一王妃であるマーディア・リーン・バルフォアを支持する者がリーン派、第二王妃のヒルデ・ラウ・バルフォアとその王子たちを支持する者がラウ派である。


 第一王妃のマーディアには三人の子どもがいて、亡くなった第一王女ラファエラ、第二王子シウリス、第二王女ルナリアがいる。


 第二王妃のヒルデには、第一王子のルトガー、第三王子のフリッツがいて、王宮で暮らしている。


 ストレイアでは重婚禁止だが、王にだけは認められていて、正妃を二人まで娶ることができた。どちらに子どもが生まれようと、男子ならば同じように継承権はあるのだ。

 継承権の優先順位というものはなく、王が次の王を指名することになっている。


「まさか、これは……継承争いということ?」

「まだ断定はできませんが、ジャンの掴んだ情報がもうひとつありました」

「なに?」

「フィデル国の過激派とストレイアの兵が密談していたようです。ラウ派の者らしい、というところまではわかっています」


 アリシアはグッと奥歯を噛み締めた。

 フィデル国の過激派と、ストレイアのラウ派が密談。ラウ派のルトガー王子かフリッツ王子を王にしたい者が、ストレイアから戦争を仕掛けさせたいフィデルの過激派と手を組む……あり得ない話ではない。

 調和を主とするリーン系が邪魔だという意味では、利害は一致しているのだから。


「フィデルの過激派とストレイアのラウ派が組んだ……ってことよね」

「断定はできませんが、可能性としては十分あり得る話です。下手人がどちらの手の者かはわかりませんが、どうやら待ち伏せされていたようなので、ストレイア側が帰路をフィデル側に漏らしていたのは確実かと思われます」


 ルーシエの言葉にアリシアはコクリと頷く。

 王族が公務に出掛ける際の往路と帰路は、機密事項だ。それを知る者は、同じ王族か軍部でもごく一部の者だけである。


(まさか……第二王妃のヒルデ様が直接命令を下したなんてことは……)


 そう思いつつも、アリシアは声に出しはしなかった。

 アリシアはリーン派ではないつもりではいるが、第一王妃のマーディアにはお世話になっているし、アンナがシウリスと仲良くしている分、ラウ系よりも親交はかなり深い。


「ジャンはフィデルで情報を掴んだ後、すぐに王妃様の元へと急いだそうです。しかしジャンが見た光景は、すでに御者や警備隊は殺され……ラファエラ王女がシウリス王子を庇って殺されたところだったと」

「………………」

「ジャンはその場に切り込み、何人かを殺したと言っていました。そのうちの数人は逃げたようですが、王妃様とシウリス様を放って追いかけるわけにはいかず、諦めたのだそうです」

「……そう」


 っぐ、とアリシアは気分が悪くなった。シウリスはまだ十歳だ。幼き少年は自分を庇って殺された姉を見て、なにを思っただろうか。


「王女様のご遺体は、馬車の荷台の箱に入れるしかなかったと言っていました。この後ご遺体を確認し、レイナルド王の指示が出るまで私が隠秘いたします」


 こくり、となんとか頷くと、ルーシエが心配そうにこちらを覗いていた。


「アリシア様、大丈夫ですか?」

「私は平気よ……続けて」


 一番の傷を負っているのはマーディアとシウリスだ。自分が傷ついている場合ではない。


(私には私の役目があるわ。しっかりしないと)


 アリシアはすぐに持ち直し、ルーシエの次の言葉を待つ。


「その後ジャンは、マックスと落ち合う予定だった峠に……」

「そこは聞いたわ。飛ばして」

「は。ジャンは私のところに来て、すべての説明をしました。アリシア様の指示を受け賜った私は、すぐに調査隊を組もうとしましたが……ジャンは自分一人でいいと言い、そのまま調査に向かってしまいました。すみません、止める間もなく……」

「いえ、いいわ。ジャンの気持ちもわかるもの」


 情報を手に入れたにも関わらず、止められなかったことを悔いているのだろう。現場を目の当たりにしてしまったのだから、仕方ないと言える。


「でも怪我を負っていたようだったし、心配ね……」

「大丈夫でしょう。問題なく動けているようでしたし、恐らくもう現場にはなにも残ってはいません。王家専属の騎士の遺体も、敵の遺体も」

「……そうね」


 なにか手掛かりがあればと思ったが、ルーシエがそう言うのなら期待は薄いだろう。過激派だろうとラウ派だろうと、証拠を残すなどというミスはしないはずだ。


「とにかく今日は一晩、ここで王妃様とシウリス様を守るわ。明日レイナルド様のご意見を伺って、すべてはそれからね」

「場合によっては、この家で何日か過ごすことになるでしょう。無駄に警備を増やすわけにはいきません。ここに王妃様がいると知らせるようなものですから。私はフラッシュと交代で、アリシア様はマックスと交代で休息を取るべきだと思います」

「そうね。三時間ごとに交代しましょう。私とあなたは先に休む番ね。私はアンナと一緒に眠るから、ルーシエは私の寝室を使いなさいな」

「いえ、私はソファーで十分です」

「そう? なら毛布を持ってきてあげるわ」

「ありがとうございます」

「先にマックスとフラッシュに、交代の時間を告げてきましょう」

「わかりました」


 アリシアとルーシエは立ち上がり、奥の客間で警護しているマックスとフラッシュの元に向かった。

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