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あなたを忘れるべきかしら?  作者: 長岡更紗
第一章 雷神編
1/88

01.俺は稼ぐ

挿絵(By みてみん)

表紙/楠 結衣さん

 日も暮れかけた古代遺跡の一角。

 足元のふわつくその場所で、雷神と呼ばれる男は壁を注視していた。


 男は神速という異能を習得していて、通常の倍の速さで走ることができる。男は雷神とも、その稼ぎからトレジャーハンター仲間からはマネーメイカーとも呼ばれていた。


 雷神は壁に手を滑らせる。

 そしてふと気付く違和感を、熟練ハンターである雷神は逃さなかった。


(まさか、これは──)


 小指も入らぬ壁の凹みに、米粒よりも小さなスイッチを見つけた時、雷神はニヤリと口の端を上げた。愛用の短剣を手に取ると、その切っ先で迷わずスイッチを押す。

 カチリというわずかな動作音の後、柔らかかった床が、さらにぐにゃぐにゃと変形し始めた。まるで意思を持つスライムのように。


「……当たりだな」


 スブズブと沈む足を、冷静に見る。蟻地獄に嵌った蟻だなと思いながら、抗うことはせずにそのまま呑まれた。


 次の瞬間、浮遊感に襲われた雷神は、右足からストンと降り立ち膝をつく。先ほどの狭い〝古代人のベッドルーム〟と呼ばれる部屋とは違う場所。雷神が排出されたはずの天井には特段何もなく、足元も硬い床だ。

 光苔の塗料がうっすらと塗られているため、松明は不要ではあるが、目を凝らす必要があった。周囲を視認すると、三メートル四方ほどの小さな部屋に落とされたようだ。後ろには、正八面体の透き通った大きな宝石が、台座に乗せられて煌めいている。


「メモリークリスタルか」


 古代遺跡にのみ存在するメモリークリスタルは、装飾品ではなく、記憶媒体として使用される。触れることで勝手に録画が開始され、過去の録画データを見ることも可能だ。

 ここのメモリークリスタルは五〇センチ程の大きさだった。他の遺跡と比べて、少し大きい。


 雷神は警戒しながらゆっくり近付くと、正八面体のうちの一面に触れようと手を伸ばした。

 この瞬間はいつも緊張する。メモリークリスタルの中に、脱出できずに絶望している仲間の姿を、何度見てきたことか。

 手を置いたメモリークリスタルは反応し、ほんのりと黄色い光を放ち始める。中を覗いてみるが、何のデータも見つからなかった。


「記録無しか。ここを踏破したのは俺が初めてということだな。攻略が楽な遺跡のように作られているから、熟練ハンターも見落としたんだろうが」


 その言葉は、このクリスタルにメモリーされているはずだ。次に来る者の情報となるだろう。

 メモリークリスタルの光を浴びながら奥の通路を少し進むと、天井が高く広い部屋に出た。幅は百メートルほどあるようだが、窓もない閉ざされた空間になっている。

 その部屋の壁は、それまでとは違い、光苔の塗料が縦の縞模様に塗られていた。そのせいで雷神の目はチカチカとする。

 目を少し細めながらも部屋を確認すると、一番遠くの壁の前に三つの石碑が見えた。雷神はどうだと言わんばかりにフフンと口の端を上げる。


「ここが最深部だな」


 古代コッツ語で書かれているその石碑は、最深部の証だ。しかも、誰も踏破したことのない遺跡。高揚は隠しきれない。

 しかしそれと同時に雷神は顔を顰めた。


「広い……これは帰り道を探すのは骨が折れるぞ」


 古代人の秘術は、大抵脱出が不可能かと思われるほどの場所に眠っていることが多い。

 石碑に書かれた秘術を見つけ出しても、簡単には持って帰れないようになっているのだ。それは、今までに踏破した遺跡にメモリーされているクリスタルの映像を見ればわかる。


 齢十二の頃から十五年もの間、古代遺跡を専門としてトレジャーハントしてきた雷神だが、今回のようなタイプの最深部は初めてだった。脱出できないとは露ほどにも思っていないが、ある気掛かりが胸に刺さる。


「しばらく帰れるかわからんな……アリシアが心配してないといいが……」


 雷神は思い浮かべる。

 美しい緑眼と金髪の持ち主を。生涯で最も愛したと言える女を。


『大丈夫よ、ロクロウ。あなたも私も、絶対に後悔なんてしない。ね?』


 己の偽名を嬉しそうに呼ぶ、その人を。


 雷神には、すべての遺跡を踏破し、古代人の秘術を己の手で復活させるという夢がある。

 しかしそれを叶えようとすれば、世界中に散らばる古代遺跡を巡る必要があり、アリシアとは別れなければいけなくなるだろう。

 連れていくことは叶わない。そしてきっとアリシアもそれを望みはしない。

 彼女は、この国の要の騎士。たくさんの部下を抱えた将なのだから。


 愛する者と共にいたいという想いとは裏腹に、雷神は憧れ続ける。

 幼き頃に出会った、あのハーフエルフに。


 そのハーフエルフは、秘術で命の灯火が消える寸前の雷神を救い、そしてトレジャーハントという生きがいを与えてくれた。

 彼の役に立つこともまた、雷神の望みで。

 ハーフエルフへの恩返しと、そして己の好奇心を満たすために、すべての遺跡を踏破し尽くすという思いが溢れる。

 謎を解き明かせば手に入れられるであろう秘術を、手にするために。


 ずっと、トレジャーハンターとして生命をすべて捧げて生きてきたのだ。

 ……そう、アリシアに出会うまでは。


(アリシア──俺はどうすればいい?)


 自身の中にある二つの欲望が、どちらも負けまいと葛藤し合う。

 雷神はメモリークリスタルから離れると、少しの間、目を瞑った──





 これより五年前──雷神はストレイア王国の王都ラルシアルに入った。


 ストレイア王国はバルフォア王家が統治する国だ。大国と呼べないこともないが、事あるごとに近隣諸国と小競りあっているような国であった。

 完璧な平和など、どこの国にも存在はしない。ストレイア王国は他の国と同様に軍を持ち、多くの名将を排出している国である。


 どんよりとした黒い雲に覆われた王都ラルシアルは、凍てつくような寒さもあって、人々は足早に歩いていく。壁に向かって手をつく者など、見向きもせずに。

 いつも冷めていて、なにを考えているかわからない。そんな風に言われる雷神はこの時、激しく息を切らせていた。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 雷神はグッと奥歯を噛みしめると、頭を掻きむしった。

 思い出すたび、自身の頭を壁に打ち付けたくなる衝動に駆られる。そしてどうしようもなくなった時、胸の内の(もや)を消し去ろうと意味なく走り回ってしまう。それこそ、雷神の如きスピードで。


「なに、やってるんだ、俺は……!!」


 目の前にある壁に、雷神は本当に頭を打ち付けた。ガンと音がなり、喧嘩に負けた額から血が流れる。

 嫌になる。逃げた自分が。すべてから逃げ出そうとしている自分が。

 そう、もう一度頭を打ち付けようとした瞬間。その声は上がった。


「ちょっとぉ、なにしてるのかしら!? 壁に勝てると思ってたのなら、ものすごい天然ね!!」


 若い女の声だ。雷神は見るともなしに顔を持ち上げた。ゆるくウェーブのかかった見事な金髪、そして光り輝くようなエメラルドグリーンの瞳の女が、こちらを見て呆れているようにも笑っているようにも見えた。


「ほら、さっさとそこの壁、掃除してもらえない!?」

「なんだ、あんたは」

「私、ここの家の者なのよね! さすがにこれは見逃せなかったわ!」


 門扉近くの白壁を、女はビシッと指差してくる。雷神は仕方なく己の袖でそれを拭い取ったが、血は伸びてむしろ広がってしまった。

 大きくて綺麗な門扉だった。どうやら結構な良家のようだ。


「悪かった。いくらあれば足りる」


 そう言って十万ジェイアを懐から取り出して見せる。別にケチるわけではないが、こういう時の相場がわからない。


「お金を取ろうとしてるんじゃないの。掃除をしてほしいだけ! 待ってて、雑巾を持ってくるわ」


 女はそう言うと、家の中に入っていく。なんだか面倒だったので、金だけ置いて消えようかとも考えた。が。


(こんなことで、俺はまた逃げようとしてんのか)


 逃げるほどのことじゃない、と判断して思い留まる。しばらくすると、先程の女が救急箱を抱えて戻ってきた。


「おい、雑巾は」

「なんだか雨が降りそうだからもういいわ。まぁ、綺麗にパックリ割れてるわね!」


 そう言いながら女は雷神の額から流れる血を拭き取り、包帯を巻いてくる。しかしその手は慣れておらず不器用で、雷神は女から包帯を奪い取った。


「貸せ、自分でやる」

「そう? あらぁ、お上手ね!」


 まるで子どもに言うように褒められて、眉根は自然と力が入った。


(なんなんだ、この女は)


 雷神は自分を一言で表すと『負』の人間であると思っている。そんな雷神をキラキラとした目で見るこの女は、美しい容姿を持ち、一目で底抜けに明るい性格だとわかる。

 言うなればそう、この女は『陽』であり、『明』だ。


「じゃ、うちにいらっしゃい!」

「……は?」


 余った包帯を返すと、女はさも当然のようにそう言った。おそらく十七、八であろう娘なのに、世話好きのおばさんのようなことを言い出す女だ。あり得ない提案に、雷神はつい素っ頓狂な声を上げてしまった。


「なにを言っているんだ、あんたは」

「あんたじゃなくて、アリシア! さぁ、名乗ったんだから、あなたも名乗りなさいな!」


 ででーんと仁王立ちで言われると、妙に清々しい。

 しかし、真の名前はハーフエルフに救われた時に使わなくなった。雷神は名前を封印することで生まれ変われたと自分で思っている。その時の気持ちを忘れぬようにと、町を移るごとに名を変えるようになっていた。


「俺は、ロクロウだ」

「ロクロウ? 素敵な名前ね! こっちにいらっしゃい、もう降ってくるわよ」


 雷神がいつものように偽名で答えると、アリシアは笑顔を見せた。

 偽名はいつも、イチロウからジュウロウまでを適当に使い回している。どの偽名を使っても、この地域の人間には大笑いされる名前のはずだが、アリシアの反応は違った。


(こんな反応をする女は、二人目だな……)


 そう考えながら、雷神は過去を忘れるべく首を左右に振った。また走り出して頭をぶつけたい気分である。そんな気配を感じたのかどうかは知らないが、アリシアは強引に雷神の手を引っ張ってきた。と同時に、ポツンと冷たいものが顔に当たる。


「ほら、降ってきたわ。急いで洗濯物を取り込むのを手伝って!」


 その言葉に、なぜか雷神は従ってしまう。二人で急いで洗濯物を取り込むと急にザアアと本降りになり、そのまま彼女の家へと足を踏み入れてしまった。

 玄関に入ると雷神はいつものように靴に手を掛ける。


「あら、どうして靴を脱いでるの?」

「雨でドロドロだ。土を家に入れたくないだろう」

「そうね。じゃあこっちの靴に履き替えてちょうだい。父の靴だけど、履けるでしょう」


 裸足の方が気楽だったが、そういう習慣なのなら仕方がない。雷神は彼女の父の物だという靴を履いてみた。でかくてブカブカだ。確かに小さいわけではないので、履けないことはないが。

 それをニコニコ見ていたアリシアが、唐突に奥へと叫んだ。


「母さーーん、お客様ーー!! 今日泊まってもらうからーー」


 雷神はその言葉にぎょっとした。いつの間にそんな話をしたというのか。勝手に決めるにも程があるとアリシアを睨む。


「おい、泊まるつもりなんか……」

「あら、いらっしゃい。新しいお友達?」


 つい近くにいたのか、アリシアの母親がすぐに顔を出してニッコリと笑い掛けてきた。


「そう、ロクロウっていうの。ロクロウ、母のターシャよ」

「初めまして、ロクロウ。ターシャです」

「……ロクロウだ」

「今日はゆっくりしていってね」


 アリシアとは違う柔らかな物腰で言われると、思わず自己紹介をしてしまった。なんだかペースが乱されてしまっている。


(まぁいいか。変な女だが、今から雨の中宿を取りに行くのも面倒だ)


 結局雷神はその日、アリシアの家の世話になることにした。

 雷神はアリシアに「ここの部屋を使って」と客間に案内してもらう。

 トレジャーハンターを生業としている雷神は、目が利く。どの調度品も一定以上の物だったが、貴族というわけでもなさそうだ。

 おそらく、この家の主人は上級騎士かなにかだろうと目星をつけながら、手荷物を棚の上に置いた。

 雷神の荷物はそれほど多くない。 発掘したお宝は、大抵すぐ換金してしまうからだ。必要な物ならばまたそのお金で買い戻す、というのが雷神のスタイル。

 素早さが自慢の雷神は、持ち歩くのはほぼお金だけという身軽さだ。そのお金も増えすぎては邪魔になるので、恵まれない子どもに支援をするのが常である。

 雷神自身が孤児だったからと、同情しているわけではないのだが。


「ロクロウ、夕食よー」


 部屋で遺跡調査をノートに記しながら過ごしていると、アリシアに呼ばれた。しかしそこにはまだ夕食の準備はなされておらず、雷神は訝しく思いながら眉根に力を入れる。


「おい、食事じゃなかったのか?」

「そうよ、今から作るの。手伝って!」


 アリシアが当然のようにそう言い、ターシャには芋と包丁を渡された。面倒なところに泊まる羽目になってしまったと雷神が溜め息をつくと、アリシアが「あ」と声を上げた。


「なんだ」

「ロクロウ。溜め息をつくと、幸せの神様に嫌われちゃうのよ! ね、母さん」

「そうね、天使様がいつも見てらっしゃるから、溜め息をつきたくなった時ほどにっこりと笑って差し上げなさい。そうすれば、きっと幸せの神様から素敵なプレゼントを頂けるわよ」


 そんなことを言われては、また溜め息をついてしまいそうだ。子どもに聞かせるような話で、大の大人が笑えるものかと悪態をつきたくなる。


 しかし、アリシアもターシャも、二人の瞳は真剣で。

 そうなのかもしれない、と雷神に思わせる説得力がどこかにあった。


(幸せの神様、か……)


 馬鹿らしいと思いつつも否定はできず、渡された芋の皮を剥き始める。

 アリシアはそんな雷神の姿を見て、なぜか嬉しそうに微笑んでいた。


「あら、ロクロウくん、皮むき上手ねぇ」

「本当ね! じゃ、こっちもお願いするわ」


 雷神は溜め息をぐっと堪えて、言われるままに手伝った。

 次々にできていく料理が、テーブル全体に行き渡った時。この家の主であろう声が、玄関先から響いた。


「ただーーいまーーー!!」

「あ、父さんよ! おかえりなさい、父さん!」


 アリシアはまるで幼い少女のように喜び、己の父親を出迎えにいった。ターシャもまたその場を後にしたので、仕方なく雷神もそれに続く。


「おかえりなさい、あなた」

「ただいま、ターシャ! いやー今日もよく働いた! はっはっは! おや、彼は客人か?」

「そうなの。ロクロウっていうのよ、父さん」

「ロクロウか! 不思議な名前だなぁ! 俺はフェルナンドだ、まぁゆっくりしてってくれ! わっはっはっは!」

「あは、もう父さんったら!」

「うふふっ」


 なにがおかしいのかフェルナンドは笑い続け、アリシアとターシャも楽しそうに笑みを見せている。さすがにこんな中で溜め息を吐くのは憚られ、雷神はなんとか笑顔を貼り付けた。恐らく、周りから見れば苦り切っていただろうが。


 始まった食事は、あふれんばかりの会話と笑顔で絶え間なく満たされた。絵に描いたような光景、とはこういうことを言うのだろう。まさに理想の家族像だ。

 フェルナンドは食事中に簡単な自己紹介をしてくれた。彼はやはりストレイアに仕える騎士……それも将で、それなりの地位にあるようだった。アリシアはオルト軍学校に所属していて、来年は正騎士になるらしい。現在は冬季休暇中で、家に帰ってきているとのことだった。


(しかし、来客が多い家なのか? ちっとも俺を疑う様子もないが……)


 なんと危機感に乏しい家だろうかと雷神は顔を顰めた。別に悪さをする気はないが、毎度こんな調子ならこの家庭を心配してしまう。世の中、いい人間ばかりとは限らないのだ。

 そう、世の中にはいたいけな少女に手を出し、孕ませておいてトンズラする。そんなろくでもない男がいるのだから。


「で、ロクロウはなにで生計を立てているんだ?」


 フェルナンドに問われ、雷神はトレジャーハンターだと真実を告げた。迷宮や洞窟には手をつけない、コムリコッツという古代遺跡専門のトレジャーハンターだと。ひとつの町を拠点に、一年から三年で近辺の遺跡を調べ尽くし、また新たな遺跡を調べに行く……それを繰り返して生きている。


「トレジャーハンター? それって儲かるの?」

「もう、アリシアったら……」

「はっはっは! 俺も知りたいな、興味がある!」


 結局はターシャも興味津々で三人に瞳を覗かれ、雷神は苦笑いした。


「儲かるか儲からないか、それはトレジャーハンターの腕次第だ。稼ぐ奴は一日で一年食っていけるくらいは稼ぐし、稼げない奴はどんだけ遺跡や迷宮を周っても稼げない」


 トレジャーハンターは一般的な職種ではないだろう。危険な目にも遭うし、稼げるとも限らない。同じ危険があるのなら、騎士や傭兵を選ぶ者の方が多いはずだ。

 雷神はアリシアに、物珍しいものを見るかのように瞳を覗かれた。


「あなたはどうなの、ロクロウ」

「俺か? 俺は稼ぐ。同僚からマネーメイカーと呼ばれるくらいにはな」

「はっはっは! それは稼いでいそうだな! はっはっは!」


 遺跡には、古代人の作った〝異能の書〟や〝魔法の書〟が眠っている。よく発掘される火の書や氷の書なんかは安く出回っていて、それで魔法を習得する騎士もそれなりの数はいるはずだ。

 異能の書の方は使い勝手が悪いものも多く、よい物は高いだけでなく入手も難しい。

 雷神は〝俊足の書〟の上級版、〝神足の書〟を習得しているので、ことトレジャーハンター仲間からは羨望の眼差しを向けられている。知らぬ者が見ても、まったく興味のないことであろうが。


「じゃあロクロウは、しばらくこの町に留まって遺跡を調べるのかしら?」

「む」


 アリシアの当然とも言えるその疑問に、雷神はすぐに答えられなかった。そんなつもりでここに来たわけではない。ただ早くあの場を逃げ出しかっただけだ。

 しかしこの近辺にも遺跡はあるし、しばらくここに腰を据えてもいいかもしれない。


「そう、するかな」

「そうか、じゃあうちを拠点に動くといい!」


 フェルナンドの提案に、雷神は首を横に振る。


「いや、適当に宿を取るからいい」

「遠慮するな、アリシアの友達だろう!」

「いや、友達になった覚えは……」

「アリシアが軍学校の宿舎に行ってから寂しくてな!」

「そうなのよ、よければこの家を使って。ね?」


 フェルナンドとターシャに押し切られ、雷神はなぜか思わず頷いてしまっていた。


 そして雷神は、そのままこの家に居つくことになる。

 しかし、雷神のとったこの何気ない判断が、アリシアの両親……そしてアリシアをも死なせてしまうなど、この時の雷神には思いもしていなかった。

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