僕は夢を見た(37) その新たなる能力を
いつもの城門の前に立っている僕。
時刻は早朝。
街には朝靄が立ち込めている。
騎士宿舎へと足早に向かう。
途中、八百屋の前でリズの親父さんが立っていた。
リズの親父さん:「兄ちゃん…いや、よしひろうさん。」
リズの親父さん:「リズの事をよろしくお願いします。」
深々と頭を下げるリズの親父さん。
よしひろう:「はい!」
そう言うとリズの親父さんの手を強く握りしめた。
これが僕の精一杯の返事だった。
騎士宿舎に着くと既に全員が揃って装備の点検と装着をしていた。
僕もあの忍者スーツに着替える。
腰にベルトを巻き、左右のクナイの動きをチェック。
エリーから貰った剣を腰の左に装着する。
準備が整った。
アスター隊長は既に準備を終え、武道場に居た。
アスター隊長に出立を報告する。
よしひろう:「お先に出立します。」
アスター隊長:「気を付けるんだぞ。」
セナ:「無理してはダメよ。」
よしひろう:「はい。ご武運を。」
アスター隊長&セナ:「ご武運を。」
振り返ると騎士達が全員拳を突き出していた。
そこに僕も拳を突きだした。
騎士達:「正義をもって世を正さん!」
騎士宿舎から出て大空へと飛び上がる。
まずは街中央にある尖塔に降り立った。
西へ目を向けると広大なエアリスの森が見えた。
よしひろう:「リズ…待ってろよ…」
よしひろう:「すぐに助け出してやる!」
僕はエアリスの森へと飛翔し、森の入り口付近の木に降り立つ。
段々と日が昇ってき、朝靄が晴れてきた。
森は静まり返っていた。
眼下にはまだ動く者は見えない。
ジッと息を殺して賊を待つ。
その頃、騎士宿舎では騎士達が出立しようとしていた。
アスター隊長:「あらためて言う必要は無いと思うが…」
アスター隊長:「騎士の誇りを忘れるな!」
騎士達:「おー!」
アスター隊長:「リズとよしひろうを守り抜くぞ!」
騎士達:「おー!!」
アスター隊長:「金を積んだ馬車隊は出発しろ!」
馬車隊:「はっ!」
アスター隊長:「騎士隊も出るぞ!出ったーつ!!」
騎士、騎士見習いの35名がエアリスの森へ向けて出立した。
それから数時間後…
森の入り口で動くものを僕は見つけた。
最初は数人かと思ったが、後から続々と現れてきた。
100人近くはいるのではなかろうか。
その中に首領とおぼしき人物を発見。
その傍らには猿轡をされ、後ろ手に手を縛られているリズの姿も。
よしひろう:「見つけた…けど、この人数はどういう事だ?」
よしひろう:「(身代金を取るには人数が多すぎる。)」
アスター隊長に知らせたくても、今飛び立てば自分がここにいることがバレてしまう。
悔しくて握った拳に力が入る。
賊に気取られぬようリズの真上までソーッと飛翔し、待機する僕。
街の方角を見ると、平原を抜けこちらに向かってくる騎士の一団が見えてきた。
アスター隊長達だった。
森の入り口の手前で止まる騎士隊。
首領とおぼしき人物が森の外へ一歩、歩み出た。
首領:「俺の名は旋風のガルーダだ!」
旋風のガルーダ:「金は用意できたか?」
アスター隊長がすかさず答える。
アスター隊長:「既に到着しているはずだ!」
アスター隊長:「人質は無事か?」
ガルーダがリズを傍らに引っ張った。
旋風のガルーダ:「人質の命が惜しければ武器を捨てろ!」
その時、アスター隊長と少しだけだが目を合わせる事ができた。
僕は手でわらわら居る素振りをして見せる。
アスター隊長:「なぜ武器を捨てねばならん?」
と言うと剣を抜き、剣で盾を打ち鳴らし始めた。
他の騎士達も同調したように剣で盾を叩き始める。
旋風のガルーダ:「うるせー!捨てろっつってんのがわからねーのか!!」
と一瞬リズから手を話した瞬間を僕は見逃さなかった。
サッとリズの元に舞い降り、抱えて飛翔する僕。
旋風のガルーダ:「この人質が…あれ?どこへ行きやがった!?」
周りを見渡しリズを探すガルーダ。
僕はリズを抱え、少し離れた木の枝に降り立った。
リズを縛っていた紐を剣で断ち切り、猿轡を外してやる。
リズ:「兄ちゃん!」
そういうと僕の胸に顔を埋めてくるリズ。
よしひろう:「酷い事されてないか?」
うんと頷くリズ。
よしひろう:「ちょっとの間、ここで待ってるんだぞ。」
うんと頷くリズ。
人質がいなくなった事に気づいたガルーダは最後の手を打ってきた。
旋風のガルーダ:「おい!お前ら!!」
その言葉を合図に森の中から続々と無頼漢が出てきて騎士達を取り囲む。
そう、こいつらの狙いは身代金ではなくエアリスの騎士達を皆殺しにすることだったのだ。
旋風のガルーダ:「皆殺しだ!!」
一斉に騎士達に斬りかかる無頼漢達。
2対1、いや3対1のし烈な戦い。
その中でアスター隊長は瞬く間に4人を切り伏せていた。
それを見ていたガルーダが
旋風のガルーダ:「こいつは俺の獲物だ!」
と言って前に進み出る。
対峙するアスター隊長。
旋風のガルーダ:「お前達は俺の兄貴を殺りやがったからな。楽にゃ死なせん!」
この男は先日討伐した山賊の弟分だったのだ。
一気に斬り込むアスター隊長。
剣を交えること数回。
剣の腕前は互角かと思われたその時、ガルーダの剣が鞭のように変化した。
蛇腹剣の使い手だったのだ。
ビュンビュンと振り回されるその剣を前に傷を負っていくアスター隊長。
アスター隊長:「たーっ!」
とアスター隊長が斬り込もうとした瞬間、ガルーダが渾身の一撃を叩き込む。
太ももに深い傷を追わされたアスター隊長は剣を地面に突き刺し、その場に崩れる。
旋風のガルーダ:「止めだ!!」
と蛇腹剣を放った瞬間、アスター隊長の前にセナが立ちはだかる。
セナ:「させるか!!(ガチッ!)」
蛇腹剣を打ち返すセナ。
ニタニタと笑いながらセナを舐めるように見るガルーダ。
旋風のガルーダ:「ほぉ?お前は殺さずに可愛がってやる。後でじっくりとな!」
そう言うと蛇腹剣をセナに巻き付け、手繰り寄せる。
ガルーダの膝蹴りを食らいその場に突っ伏するセナ。
胃の内容物を吐きだし、痛みで身動きがとれないようだ。
ガルーダが下卑た笑みを浮かべていた。
そこに急ぎ駆け付ける僕。
よしひろう:「隊長!セナ!」
アスター隊長:「よしひろう…逃げろ!!」
アスター隊長:「今の君では無理だ!」
ガルーダを前に剣を抜く僕。
瞬間、ガルーダの蛇腹剣が頬を掠めた。
一瞬で凍りつく僕の体。
恐怖で震え始める。
よしひろう:「あの時と一緒だ…」
よしひろう:「あの時はセナを失いかけた…」
よしひろう:「もう目を瞑ったりしない…」
よしひろう:「あの時とは違うんだ!」
そう、戦うのだ!勝利を掴むのだ!
大きく深呼吸して冷静さを取り戻す僕。
剣を肩に掛け、中腰になる。
拳を顔の前に置き、人差し指と中指を立てる。
そうすると自然と内から言葉が出てきた。
よしひろう:「我が身既に鉄なり…」
旋風のガルーダ:「ああん?何ブツブツ言ってんだ!」
蛇腹剣を再び振り上げるガルーダ。
よしひろう:「我が心既に空なり…」
蛇腹剣が僕目掛けて放たれた瞬間。
よしひろう:「スルー!!!」
と言い放ち、ガルーダ目掛けて高速で飛翔し、一気に間合いを詰める。
僕の体をすり抜ける蛇腹剣。
何が起きたのか解らず驚愕の顔に変わるガルーダ。
旋風のガルーダ:「何なんだ!?こいつは!」
旋風のガルーダ:「剣が!剣が当たらねぇ!?」
ガルーダを目の前に捉える。
よしひろう:「閃っ!!」
ガルーダを袈裟懸けに切り裂いた。
旋風のガルーダ:「馬鹿…な……」
断末魔の声をあげるガルーダ。
そして、そのまま倒れ込み動かなくなった。
それを見た無頼漢が慌てて逃げ始める。
よしひろう:「させるかぁ!!」
飛翔し無頼漢の前に立ちはだかる。
逃げ道を塞ぐと同時にクナイを放ち2人を仕留めた。
向かって来る剣をスルーでかわしつつ、背後から一突きで3人目。
続けて来る者を同じくスルーでかわしつつも確実に急所を狙って斬り殺していく僕。
もう、自分が自分でないような抑えが効かない状態だったのだ。
セナ:「よしひろう!!!」
セナの呼び声で我に返る僕。
気がつくと17人目を仕留めていた。
よしひろう:「フー…フー…」
深呼吸をしてなんとか自分の気持ちを落ち着かせる。
手が震えている。
剣を鞘に収め、自分の両手を見つめる。
夢の中とはいえ初めて人を殺してしまったのだ…
なんとも言えない虚しさが込み上げてくる。
周囲を見渡すと、賊は殲滅されたようだった。
慌ててリズを迎えに行く僕。
よしひろう:「リズ、もう大丈夫だよ。」
リズ:「兄ちゃん!!」
僕を抱き締めてくるリズ。
僕もリズを抱き締めそのまま木の上から地面へゆっくりと舞い降りた。
よしひろう:「さあ、親父さんの所に帰ろう。」
泣きながら頷くリズ。
よしひろう:「セナ、リズは僕が先に連れて帰ります。」
セナ:「ああ、分かった!頼む。」
僕はリズをお姫様抱っこをし、飛翔した。
よしひろう:「どう?空を飛んだ感想は?」
リズ:「すごい高い!それに、空がすごく綺麗…」
涙を拭って笑みを浮かべるリズ。
騎士達はそれぞれ動ける者は動けない者を庇いつつエアリスの街へと帰還した。
リズを無事に取り戻せた喜びで顔がクシャクシャになるほど泣いて喜んでくれたリズの親父さん。
その姿を見てホッとして倒れ込みそうになる僕を支えてくれたセナ。
騎士宿舎にたどり着いた時にはアスター隊長を含め全員がその場に倒れ込んだ。
今回の戦いではエアリスの騎士5名と騎士見習い3名が戦死。
20名以上が重軽傷を負っていた。
後で分かった話だが、無頼漢「旋風」の死者は頭も含めて87名。
組織そのものが壊滅状態になったそうだ。
その後、ロッカールームでいつもの服装に着替える僕。
今回の戦いで少しだけだが勇気と自信がついたような気がした。
ただ、エリーから貰った剣を血で汚したのが悔しくてならなかった。
疲れた…
意識が遠退いていく…
目が覚めた。
横ではスマートフォンのアアームが鳴っている。
慌ててそれを止める。
自分の中で何かが変わったような気がした。




