プロローグ
それは、一瞬で私の目を惹きつけた。一目見ただけで、私の目は釘付けになった。
「ライアスさん。私、騎士になりたい。」
精練された剣裁きは美しかった。剣と剣がぶつかる音と、翻るマントが、やたら頭に残った。美しかった。格好良かった。
自分も、そうありたいと思った。
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「いいか、騎士ってのはまず強くなきゃいけないんだ。」
ライアスさんは人差し指をたて、少し咎めるように言う。
「そして頭も良くなきゃいけない。」
そう言って、中指もたてた。
そして、困った顔で私を見る。
「おまえの場合、二つ目は大丈夫かもしれんが、一つ目がなぁ。」
私から視線を外し、顔を上げた。そして目をぎゅっと閉じ、眉間にしわを寄せる。その状態で唸っていたがしばらくして、パッと目を開けた。
「ま、まずは殿下に相談だな。」
再び私を見て、わしゃわしゃと頭をなでた。その手は大きくて、ごつごつして、心地よかった。私は嬉しくて、でも照れくさくて、ちょっと下を見て笑った。
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「この子を助けたい。」
傷だらけの娘を抱え、モルス殿下はそう仰った。
視界にちらつく炎。
耳をつんざくような、老若男女の悲鳴。
「助けたいんだ、ライアス。」
迫ってくる炎に、他を助ける余裕などない。まして王子であるならば、その御身はどれほど大切なものか。
だが、その言葉を口から出すことはなかった。
俺は、その真っ直ぐな眼差しと、炎が霞むほど光を宿した目から、逃げることは出来なかった。
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「騎士になりたい?」
モルス殿下は首を傾げ、不思議そうに私を見る。嬉しそうには見えなかったので、そう言ってしまったのを、ちょっと後悔した。
「拾ってきた身としては、穏やかに暮らしてくれればそれで十分なんだけど。」
やはり騎士になるのは駄目なのだろうか。不安になって下を向いた頭を、今度は細くて、柔らかい手が優しく包んでくれた。
「でも、君を縛りつけるのは良くないよね。僕は、君がやりたいことをやってくれたら、それでいいと思っているから。」
顔を上げると、モルス殿下は優しく微笑んでいた。その笑顔が大好きだったから、嬉しくて、でもやっぱり恥ずかしくて、目をそらして笑った。