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恋愛にステータスは必要だが、ボッチは隠れステータス  作者: ナヤカ
それでも彼には遠く

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霧島の企み

 すっかり忘れていたが、霧島はそのDVDで肝試しをするつもりであったことを思い出した。たくさんある中から選び出された『呪いのDVDシリーズ』。それを爽やかな笑みで掲げていた。


「なに、それ」


 日向舞の問い。それに彼は、尚も笑って答える。


「ホラー映画みたいなものだよ。ほら、こういうの見たあとって感想とか言い合ったりして仲良くなれそうじゃない? それに、ホラー映画なんて独りじゃ見れないしね?」


 彼女は少し考えていたが、それを天の助けと勘違いしたのか「分かった」と承諾してしまう。そして。


「みんな、呼んでくるね」


 と逃げるようにその場を立ち去った。


「お前、聞いてたのか?」

「なにを?」


 しらばっくれる霧島にため息。


「俺とアイツの会話だ」

「あぁ……聞いてたけど興味はないね。むしろ肝試しに誘導出来そうでありがたく思ってたくらいだよ」

「お前ってやつは……ほんとブレねぇのな?」

「天津くんもね。舞ちゃんは理解出来ないって言ってたけど、俺はなんとなく分かったかな? やっぱり天津くんは嫌いになれないよ」


 もはや、呆れて返す言葉はない。


「天津先輩……敵」


 そんな霧島の後ろから、こちらを敵視する瑞鳳。今、俺のこと『素敵』と言ったか? なんだよ、お前も俺に惚れてんのかよ。


「日向先輩にあんな顔させるなんて、やはりあなたは敵ですね」


 あぁ……やはり難聴でしたか。まぁ、彼女がここで俺に素敵なんて言うはずがない。言うとすれば俺のことが好きすぎる俺くらいなものだろう。というか、全然関係ないが素敵って漢字の当て字おかしくね? 褒め言葉なのになんで『敵』って漢字が入ってんだよ。文字だけ見たら、普通に対抗言葉だろこれぇ。あれか。褒めてるように見せての皮肉みたいなやつか。よく「○○さんってユーモアだよねぇ~」とか言ってるのは、だいたいディスってるみたいなやつ。言った本人は「自分って褒め上手だわぁ」みたいな鼻につくドヤ顔なのだが、言われた奴からすれば苦笑いしかない。ユーモアってなんだよ……ほんと、下手くそな褒め言葉ほど痛々しいものはない。


「日向を元気付ける機会をお前に与えてやったんだ。むしろ、お前にとっては好都合だろ」

「むむ? ……そういえば、そうですね。あれ? じゃあ天津先輩はやはり味方ですか?」


 ハッとしたようにそんなことを言う瑞鳳。……あぁ、ヤバい。こうやって簡単に相手を騙し乗せてしまえる俺って乗せ上手だわぁ。


「天津くんは、わざと瑞留ちゃんを傷つけるような事を言ったんだよ。ほら、そのお陰でさっき肝試しのルートを下見出来たでしょ?」


「……っ!? そういうことですか! 私、てっきり天津先輩が最低な人なのかと」


 霧島が笑いを堪えている。……コイツら二人で肝試しの下見してたのね。だから戻ってくるのがあんなに遅かったのか……。というか霧島も乗せ上手過ぎる。俺と霧島があまりにも上手すぎて、むしろ乗せられてしまう瑞鳳の方を褒めてしまいそう。瑞鳳ってほんとポジティブだよねぇ。


 海にて、涙を隠すために逃げた瑞鳳とそれを追いかけた霧島。二人でそんなことをしていたのかと知り、もはや呆れを通り越して感心すらしてしまった。


 転んでもタダで起きないのは、霧島らしいといえばらしい。


「肝試しは二人一組で行う予定だから、あとは瑞留ちゃんと舞ちゃんをペアにするだけだね」

「はい。この『必然的ペア決めオミクジ』が在れば、私と日向先輩がペアになるのは確実です!」


 そう言って取り出したのは、筒の中に割り箸が何本か入ってるやつ。


「どうせ何かしらの細工がしてあるんだろうが、そんなに上手くいくのか?」

「上手くいかなくても、瑞留ちゃんが駄々をこねれば良いだけだよね。舞ちゃんとじゃなきゃ嫌だって泣きわめけば、彼女はきっと承諾するよ」

「笑顔で恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ……」

「あぁ、因みにだけど不純異性交遊の観点から考えて、俺と君のペアは既に決まってるからよろしくね」

「笑顔で恐ろしいこと言ってんじゃねぇよ……」


 霧島とペアとか、オバケよりも怖いんだが。むしろ恐怖しかない。


 そんなやり取りをしていると、日向舞がりんちゃんと金剛さんを連れてきた。二人とも俺を見るなり、視線を逸らす。


「ほら、せっかく霧島くんが持ってきてくれてんだし……ね?」


 それが彼らの思惑とも知らずに日向舞は彼女たちを誘導してしまう。霧島の思惑なんて頭にないのだろう。今、この現状をどうにかするのに精一杯で。


「じゃあ、準備をするよ」


 なんて霧島は言い、飲み物とかお菓子なんかを卓に並べる。みんな乗り気では無かったものの、他にどうする選択肢もないため、流されるままにそれぞれ座った。


 俺が座ると、それに距離を取るようにりんちゃんと金剛さんが場所取りをする。結局、微妙な距離感のまま、それぞれがカーペットに座った。


「雰囲気を味わうために電気は消すから」


 パチリと電灯が消され、テレビの光だけに包まれる。そして、DVDは再生された。


『――この映像には、心身に影響を及ぼす可能性があります』


 なんて始まりをするDVD。この映像は、俺と霧島と瑞鳳だけは既に最後まで見てしまっている。どこが怖いポイントなのか、どこで幽霊が出てくるのか、全て知っているのだ。


『ファイルその一。あり得ない声……』


 そうやって流れていく心霊現象を詰め込んだ映像たち。あり得ない声が録音されてしまった映像や、何気ない日常に映りこんだこの世の者とは思えない人影。監視カメラに写る説明しようのない現象。誰もいないはずの場所に佇む謎の足だけ、などなど……。それが再生される度に、暗闇のどこかから「ひっ」などの声が聞こえてくる。


 目が慣れてくると、微妙な距離があった俺たちだが、少しずつ少しずつみんな詰めよってきていた。瑞鳳だけは、がっつり日向舞に抱きついていた。


 時間にして二時間と少し。外はすっかり暗くなっていて、映像から漏れ出した雰囲気が室内にそのまま漂っている。


「結構、怖かったね……」


 なんて、りんちゃんが感想を言う。


「大丈夫だよね、これ? 全部作り物だよね、あれ?」


 なんて金剛さんも言い。


「じゃあさ、早速これから肝試しでもしない?」


 なんて、霧島がぶち込んできた。


「「「は?」」」


 驚く三人。まさか、怖いDVDを見せた後で肝試しを提案されるとは思ってもみなかったのだろう。だが、それこそが霧島の企みでもあった。


「無理無理! 今ので呪われてたら絶対ヤバいじゃん!」


 りんちゃんが猛反発し、金剛さんも涙目でコクコクと頷いている。


「待って。肝試しなんて危険なこと出来ない。ホントに何かあったらどうするの?」


 日向舞が霧島に問い詰めた。


「大丈夫だよ。ちゃんとルートは下見してあるし、オバケ役もつくらない。二人一組にするから誰かが孤立することもない」

「下見って……じゃあ、その為に今のDVDを私たちに見せたの……?」


「やっと気付いた?」


 淡々と告げた言葉に三人の表情が青ざめる。本当に怖いのは幽霊でもオバケでもなく、現状霧島がぶっちぎっていた。


「じゃあさ、舞ちゃんが決めたルールに則って、多数決取ろうよ。……肝試しをするかしないか」


 合宿前に決めた日向舞のルールを引っ張り出してくる霧島。そうやって選択肢を狭めることにより『肝試しをしない』という反論を潰す作戦なのだろう。


「ただ一つだけ言っておくと、肝試しはした方が良いと思うよ。誰かさんのせいで今の雰囲気最悪だし、良いキッカケになるかもしれない」

「霧島……」


 霧島は分かりやすく俺を見てくる。そうやって俺を悪者に仕立てあげ、それを改善するキッカケとして肝試しを提案したのだ。


 最悪の雰囲気。それを皆が感じ取ってるからこそ、それは絶大な効果をもたらす。


 人は集団の中にいると判断に迷う事がある。それは、自分だけじゃなく、他者のことを想ってしまうからだ。だから、自分が良いと思うことを強く推せない。そして、結果強い者の意見に押し流されてしまうのだ。


「肝試しに賛成の人は?」


 軽く手を挙げた霧島に続いて、瑞鳳が手を挙げる。もちろん俺は手を挙げない。


 だが、それでも霧島は笑うのだ。


「本当にやらなくて良いのかい? それで今日を終えていいのかい? 何か変化を起こさなきゃそれで終わりだよ? まぁ、俺はそれでも構わないけど」


 まるで肝試しこそが、この最悪の雰囲気を変える唯一のキッカケだと云わんばかりに言ってのける霧島。そうやって人を追い詰めて手を挙げさせるのは、奇しくも成功してしまう。


 なんだってそうだ。「やるの? やらないの?」と、強く迫れば弱気な者たちはやりたくなくても「やります」と言ってしまう傾向にある。そして、「やる」と言った以上はもう引き返すこと出来ない。親や教師たちがよくやる手法だ。それでも「やらない」と言った子供は突き放すだけ。そして、突き放されることを恐ろしく思う子供たちは、泣きながら「やる」と言うしかないのだ。


「俺は、この二日間を楽しく過ごしたいだけだよ。思い付きで肝試しなんか提案してるわけじゃない」


 とんだ詐欺師がいたものだ。霧島は自分が楽しみたいだけなのだろうが、その言い方はまるで「みんなと楽しくありたい」ように聞こえてしまう。そんな霧島の気持ちを考えると、申し訳なさから手を挙げてしまいそうになる。だが、奴の言ってる言葉は嘘だ。何故なら、霧島という人間はそんなことをしなくても既に楽しんでしまえるから。奴はどんな時でも勝手に自分ゲームを作って楽しんでいる。瑞鳳とババ抜きをしていた時だって、コイツは自分だけ別ゲームして楽しんでいたのだ。それを俺は知っている。


 ただ。


「……天津くん」


 日向舞が、少し驚いたような声を出した。


 俺が手を挙げたからだ。


「別に肝試しくらい良いんじゃねぇの?」


 そう言ってみせる。ただ……俺は霧島の主張みたく、この二日間を楽しくしたいわけじゃない。それは既に諦めている。俺が思うのは『何故霧島はこんなにも瑞鳳に肩入れしているのか?』ということだ。


 これまで自分が楽しむ為だけに他人を踏みにじり傷つけてきた霧島海人は、今回に限って瑞鳳の為に動いている。それは今までの霧島を知る俺からしてみれば少しおかしなことだった。瑞鳳が霧島になついているのも、そこに理由がある。


 そして、それを図り知るには、彼が計画する先にあるものを見るしかない。そしてそれが見えた時に、俺は霧島という人間の本質を垣間見ることが出来ると思えたのだ。


「それって『俺はオバケなんか怖くない』アピールなのかい?」


 霧島も俺が手を挙げるとは思ってなかったのか、少し皮肉混じりの言葉を吐いた。


「お前……手を下ろすぞ?」

「あぁ、ごめんごめん」


 軽すぎるごめん。そこに謝罪の雰囲気なんてない。


「そっか……。天津くんが賛成なら、やってみても、いい……かな」


 日向舞が、優しげな瞳で手を挙げた。これで賛成は四人。可決である。


 彼女は、先ほど『謝らない』と言った俺が、改心でもしたと勝手に解釈したのかもしれない。優しげな瞳からは、そんな心が透けて見えた。ホント、勝手過ぎる解釈だ。そうやって他人の気持ちを知った気になって、分かったつもりになって、日向舞はいつだって自己解釈を百パーセントにする。百パーセントにするからこそ、彼女の行動や言動には迷いがない。


 誰かに関わる時、人は少しでも考えしまうものだ。「それをやったら逆に迷惑かもしれない」「この人は、それを望んでないかもしれない」、そんな予感が(よぎ)ってしまうからこそ、人は誰かに関わることを躊躇したりする。それが日向舞にはない。いつだって彼女は、自分の思う考えが世界の真実であると盲信していた。


「本当に怖いの無理なんだって……しかも、DVDの中に肝試しの奴あったじゃん……。遊び半分でそういうのやっちゃダメなんだよぉ」


 金剛さんが嘆く。そう。先ほど見た映像の中には『大学生が遊び半分で心霊スポットに行ってみた』というものがあり、深夜の古びた神社へ行った大学生四人の映像の中には、しっかりと『五人目』が映り混んでいるものがあった。しかも、後日談でそのうちの一人は事故死した、というオマケ付き。ありがちな設定だが、その映像はあまりにもプライベート映像っぽくて、本当の事に思われる。


 無論、それも霧島と瑞鳳の企みの内だ。彼らは、そういった映像が入ってるDVDをわざわざ選んだのである。


「よし。ならすぐに行こう。肝試しの場所だけど、ここから少し離れた所に"神社"があるんだ」


 先ほどのDVDが作り物だと思っていても、この世にオバケなんていないと思っていても、神社という言葉にはさすがにゾッとしてしまう。それはやはり、先ほどの映像がまだ脳内に残っているから。


 それは皆も同じだったのだろう。えもいわれぬ生暖かな恐怖が、場に流れたような気がした。


「事前に調べたらさ、この辺りで水難事故にあった霊を鎮める為につくられた神社らしいよ?」


 余計な情報を教えてくれる霧島。


「でも、起きちゃってるんだよね? 二年前、近くの浜辺で水難事故」


 それは霊なんかのせいではない。なのに、その言い方は霊のせいであるかのように聞こえてくる。


「僕たちくらいの学生だったらしいよ? 見つかったのは二日後で、引き上げた時には塩水と魚がつばんだ痕で、それはそれは無残な姿だったらしい」


 自分でも表情が強ばっていくのが分かった。


 その瞬間、部屋の電気が消えた。一瞬何が起こったのか分からず、頭がパニックに陥る。


 そして。



「――呪ってやる」



 暗闇の中に浮かび上がった顔。それはいつの間に持っていたのか、懐中電灯で下から照らされた霧島の顔。


 だが、あまりの恐怖に俺は立ちすくみ、付近からは誰のかは分からない悲鳴が響きわたった。


 パチ、と電気がついた。霧島の手には電灯のリモコンが握られている。消したのも彼なのだと分かった。


 明るくなった室内では、俺と霧島が立っているだけで、他の四人は腰を抜かしてへたりこんでいた。


 もはや言葉すら出てこない。肝試しする前から怖がらしてどうすんだよ……。


「ふっ……ふふふ、はははははははははは!」


 そんな光景を目の当たりにして笑いだす霧島。


「はははははははははははははははははは!」


 とても楽しそうに笑う霧島からは、もはや狂気すら感じる。


「……さぁて。それじゃあ、本番行ってみようか」


 その狂気のまま、霧島は告げたのだ。


 気持ち的には、全力で行きたくない。行きたくないと……霧島が思わせてしまったからだ。


「ちなみにだけど、さっき話したのは少しだけ嘘だよ。水難事故があったのは本当だけど、それはその神社が建てられる前の話。神社が建てられてからは、事故は起きてない」

「お前……なんでそんな嘘を」

「だってその通り話したら怖くなくなっちゃうでしょ? まぁ、肝試しというよりは安全祈願だね。俺たちがもう泳ぐことはないだろうけど、もしかしたら変なのが憑いちゃってるかもしれないし、お祓いも兼ねて、ね?」


 言葉巧みな霧島。その事実に胸を撫で下ろす一同。瑞鳳も安堵してる様子を見ると、さすがに今のは知らされてなかったらしい。


「まさか可決されるとは思わなかったから、切り札として今の演出は取っておいたんだ? でも、面白そうだからやっておいたよ」


 肝試しではなく安全祈願、そうやって神社へと赴かせる目的は、怖がらせることにより大きな効果をもたらす。だからこそ、彼は敢えてこの場で皆を怖がらせたらしい。


 どこまで化け物なんだコイツは。


 目的の為には手段を選ばない霧島。そして、彼の強いところは、その手段をあらゆる方法で揃えてくるという所にある。


 一見逆効果に思える手段をも、彼は有効的に使い分ける。


 そんなにも器用な癖に、何故彼はいつもいつでも他人を傷つける手段を取ってしまうのだろうか。


 霧島の有能さは分かったが、だからこそ、俺には強い疑問が残ってしまう。


 霧島……お前は一体何を考えている?


 だが、尚も笑顔を貼り付けるその表情からは、その答えを窺い知ることは出来なかった。


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