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霧島きゅんが輝く話

「……なにかあった?」


 帰って来た霧島が、苦笑い気味に言った。『わらしべ電鉄』を皆でプレイしていた俺たちは、熱中し過ぎたせいか、あまり良い雰囲気とは言えなくなっている。


 というのも、ゲーム内でのランキングに変動がなく、敗けている日向舞は負け続けていたし、金剛さんも何とか必死にプレイしているものの、やはり思い通りにいかないのが満足に至っておらず、りんちゃんはわりと平気そうだが、それも二位につけているからであって……一番の原因は、一位を突っ走る俺が容赦なく一位に君臨し続けているという所だろう。


 だが、俺としてはたかが(・・・)ゲームであっても勝負ごとは本気でやりたい派。負けて機嫌を悪くするのなら、ただ単に勝てばいいだけの話。ゲームやったことないとか、そんな言い訳はいらない。自分が満足したいのなら、満足出来るように努力すればいいだけの話なのだ。


 まだゲーム内での時間は五年しか経っていなかったが、現実では思っていたよりも時計が進んでいて、俺たちはセーブして一旦止めることにした。


 霧島がこの微妙な雰囲気のことを聞いてきたので説明してやったら、さらに苦笑いしていた。


「天津くんらしいなぁ……俺は好きだけどね、そういうの。ただ、たかがゲームだなんて言うのなら、敢えて負けてあげるのもアリだとは思うけどね?」

「たかがゲームだが、されどゲームでもあるからな。むしろ負けてあげるなんて相手に失礼だろ。というか、負けてあげるなんてお前こそ出来んのかよ?」

「俺は勝ってなお、みんなを楽しませられるからそんなことしないさ」

「……たいした自信だな」

「やり方のコツとしては、みんなに期待させてあげることだよ。もしかしたら自分が勝てるかもしれない、ってね? だから、途中は負けてても良いんだよ。最終的に勝ってさえいればそれでいい。天津くんは、そういうのしなくて徹底的にやろうとするからダメなんだ」

「なんかダメ出ししてるが……お前こそ結構酷いこと言ってるからね?」

「ん? 知ってるけど?」

「……あそ」


 ご機嫌なのは瑞鳳だけだった。そんな彼女に励まされている日向舞はヨロヨロと立ち上がり「夕食の支度しましょうか……」なんて無理やり切り替えようとしていた。


「というか、夕食はなにつくるんだ?」


 なんて、霧島が持ってきた袋の中を覗いてみるが、いろんな食材が入っていて全く分からなかった。


「それ、明日の朝食と昼の分も入ってるから見たって分からないわよ。今夜はね?」


 それから日向舞は勿体ぶるようにふふんと笑ってから言った。


「たこパしましょう。一度やってみたかったの」


 たこパ……略さずに言うと“たこ焼きパーティー”である。たこ焼きをつくるためのプレートがなければ出来ないやつ。だいたいそのプレートがある奴の家で行われるのだが、買ったわけじゃなく何かしらのイベントの景品として貰った場合が大半。年に一度使うか使わないかの邪魔なそれは、だいたいキッチンの奥で眠るしかない。


 だから、たこパやるためにプレートを買うのはあまり良くない。プレートあるからたこパしよう! ぐらいがちょうどいい。


 その、たこパという響きに皆なんとなく元気を取り戻し始めた。たぶん“たこ焼き”にではなく、“パーティー”の方でテンションを上げているのだろう。このパーティーでテンション上げる奴のことをパリピなどと世間は呼ぶ。俺からしたら馬鹿の代名詞。


 パーティーなんかしたって皆が皆わいわい出来るわけじゃない。むしろ、仲いい奴としか話さなくて終わるのがだいたい。そんな中でも「俺は平等にみんなと話しちゃうから☆」みたいな雰囲気でいろんなグループに割って入り「なになに? 何の話?」なんてテンションだけ上げてる奴がいるが、割って入ってこられた者たちからしたらホント迷惑でしかない。というか、そういう奴はグループの中に割って入ってくるが、ボッチとは絶対に話そうとしない。もうその時点で平等じゃない。むしろ、皆から心のなかで嫌われている所だけ上げれば、そいつもボッチと言えなくもない。


 パリピだから皆と話しちゃってるわけじゃなく、ボッチであるためにどこのグループにも入れず、割って入るしかないというのがオチ。そろそろ気付けよ……このパーティーにお前の席なんてねぇんだよ。


 ホント、自分がボッチであることを否定したいボッチほど、見ていて痛々しいものはない。



――結論。パーティーなんて嫌いだ。



 なのに、日向舞は部屋から「じゃーん!」などと言って『たこ焼きプレート』を持ってきてしまった。あぁ、お前が持ってきてたのね。というか、キャリーケースの中身それだったのね。通りで……。


 そんなプレートの登場に、みんなのテンションが上がる。何故か拍手までする奴もいた。なに? それなんの拍手? 幸せなら手をたたこっ、みたいな拍手なの? ちなみにだが、『幸せなら手をたたこう』という歌の中には、幸せならほっぺ叩こう♪という狂気的な歌詞がある。曲の勢いに任せて流されがちだが、俺はそこでちょっと待て、と言いたい。


 幸せならほっぺ叩こうってどういうことだよ……。相手の叩くの? それとも自分? どっちにしても絶対幸せじゃないんだが。


「霧島くんは休んでて。あとは私たちで準備するから」

「いいよ。手伝うから」

「……そう? なんか悪いわね」

「いや、なんか俺だけ何もしないのも悪い気がするしね」


 会話だけ聞いていると、どうやら霧島はまだ働きたいらしい。すっげぇバイタリティだな。キッチンを見れば、全員入れるスペースもない。プレートは既に机に運んである。なら俺は……。


「じゃあ、俺が部屋で休んどくな」


 と、邪魔にならないよう部屋に行こうとしたら。


「待ちなさい。なんで天津くんが休むのよ……」

「え……俺は俺の役割を全うしようとしただけなんだが」

「役割って……」


 邪魔者の役割。霧島がそれを断ったので、代わりに引き受けようとしただけなんだが……。


「天津先輩……さすがにそれは無いです」


 何故か、瑞鳳にドン引きされてしまった。他も他で、なんか残念そうな目で見ている。うん……まことに遺憾の意であります。


「じゃあ俺は何すればいいんだ」

「生地つくるとか言えないの? というか、ここに居て場を盛り上げたりとかも役割の一つよ?」

「あぁ、盛り上げ役か。それやると俺はだいたい盛り下げちまうから、隅っこでおとなしくしてるのが殆どだな」

「平然と悲しいことを……何か面白い話とかしなさいよ」

「あぁ、それ絶対言っちゃダメなやつな?」


 面白い話をして! の後に面白い話が出てきたためしはない。あれだ。ほら一発芸やってよ! と同じ原理。それが面白くなくて「からの~?」なんて言う奴からは、もはや悪意しか感じない。


 日向舞はため息を吐いた後、俺に生地をつくるよう指示をくれた。『指示待ち人間』なんてのは世間であまり印象良くないが、みんな勘違いしていると思う。指示がなくては動けないのではなく、指示を完璧に遂行出来てしまうからこそ、指示を待っているに過ぎない。むしろ、指示なく動いたら迷惑になるからおとなしくしているまである。

 それは、支持されてこなかったボッチだからこそ成せる技。支持なんていらない。だから指示されるしかないのだ。


 俺はひとり、小麦粉と水と卵をひたすらボールでかき混ぜていた。キッチンでは、みんなわいわいと具材なんかを切り分けている。……包丁持ちながら話なんかしてるんじゃあないよ。危ないでしょうが。


 生地を作り終えた後は、いそいそと机の上を準備する。といっても、ソースやら鰹節なんかを並べるだけ。やることがなくなったので、部屋に行こうとしたら、またもや日向舞に止められてしまった。


「なんで天津くん、勝手に居なくなろうとするの?」

「なんでお前は、ひっそりとフェイドアウトする俺を簡単に見つけちゃうの?」


 これだけは自信あったのにな……。


「霧島くん見習ったら?」


 なんて彼女が指差した先には、トランプで瑞鳳とババ抜きをしてる霧島の姿があった。


「あれ、遊んでるだけでしょ?」


 そう返すと、日向舞が小声で言った。


「……あの子が、私に引っ付いてくるから、霧島くんが相手してくれてるのよ」


 悲しい現実を聞かされた気がしました。やはり、邪魔者っておとなしくしているに限る。改めて、それを再確認しました。


「というか、連れてきたの天津くんなんだから、天津くんが相手してよ」


 連れてきたというか、勝手についてきたんだがな。むしろ、それを楽しんでたのは霧島だし、奴が相手してるのは至極当然のことなんだが……。


「というか、私たちの姿を見て何かないの?」


 日向舞がそんな不満を洩らした。見れば、彼女たちは皆エプロン姿である。エプロン、それに彼女は「可愛い」と言って欲しいのだろうか。


 だからそのまま「可愛い」と言ってやったら、日向舞は呆れたように顔を覆った。


「なんで言わされてる感満載なのよ……」


 いや、言わされてる感じゃなく、今のは完全に言わされただろぉ……。むしろ、それを感じ取って「可愛い」を言えたことを褒めて欲しいレベル。


「それ、しょうりんと金剛さんにも言ってあげて」

「いや、それは……」

「良いから」


 なんでわざわざそれを言わなくちゃいけないんだ……。ただのエプロンですよ? エプロンにそんな期待かけてるんじゃあないよ……。


 ただ、彼女の視線が痛かったので、俺は渋々キッチンへと向かう。そこには、具材を切り分けているりんちゃんと金剛さんがいて、俺がキッチンに入ると、手を止めて「なに?」みたくこちらを見てきた。


 やだなぁ……。もう帰りたいなぁ……。


 それでも俺は、コホンと咳払いをしてから言ってやる。


「なんか、あれだな……エプロン姿が可愛い……な」

「どっち?」


 金剛さんが即座に言った。いや、どっちと言われても……。というか、なんで少し威圧的なの?


「どっちも」


 ザクッザクッザクッザクッ。なんか、金剛さんの包丁捌きが荒々しくなった気がする。それとは反対に、りんちゃんが俺に寄ってきて、少しだけ背伸びして小声で言ってきた。


『なら、後で天津くんだけにもう一度見せてあげよっか?』


 ザクッ! ザクッ! ザクッ! ザクッ!


『下は、は・だ・ か・でっ』


 ザクッッ! ザクッッ! ザクッッ! ザクッッ!


 こっ、これがジオン軍のザクかっ! 喋ってないのに攻撃力が半端じゃあない。というか、りんちゃんの破壊力が凄すぎる。なにを言っているのか……この子。イタズラっぽい笑みを浮かべてこちらを見上げてくるりんちゃん。その仕草があまりにもズルすぎて、その包丁音がなければ、思わず『お願いします』と懇願してしまいそう。


「それは……遠慮しとくな」

「そっかぁ。まぁ、見せたいのはそういうのじゃないから別に良いけどさぁ」


 そう言うと、とてとてと戻って作業を再開するりんちゃん。その光景に呆然としていると、後ろからチョンチョンとつつかれた。振り向くと、日向舞が気まずそうにしている。


「……なんでさらに空気悪くなってるの?」

「敢えて言うが……たぶん俺のせいじゃない……たぶんね」

「……」


 なんかもう、やはりおとなしくしていた方が良かった気がした。ほらやっぱりぃ。こうなるじゃーん。


「もう良いから……霧島くんたちと遊んでて」

「そうだな……」


 諦めて霧島と瑞鳳のババ抜きに参加しようとする。とりあえず、今やってる戦いが終わってから参加しようと見ていたのだが、二人とも、あとワンペアだけで終わりだというのに、何故かその戦いは一向に終わらない。


「ぐあっ! またババ引いてしまいましたぁ!」

「ははは。じゃあ、また引き直しだね?」

「ぬぬぬ。ちょっとシャッフルします……さぁ! 霧島先輩どっちでしょう!」

「こっちかな? あぁ……またやられたよ。ババを引いてしまった」

「またまた騙されましたね!? 今度は私のターンです!」


 見ていると、ずっと二人でババの抜きあいをしていた。不審に思って見ていると、ババのカードにだけ少し傷がついていることを発見してしまう。……霧島、これに気づいてるな絶対。


 だが、瑞鳳は全く気づいてる気配がない。


 そして、もう一つ気づいたことがある。霧島が座る後ろに、カードが一枚落ちていたのだ。それを何気なく見れば、瑞鳳が持っているカードのペアだった。驚いたことに、霧島の手札は二枚ともジョーカーだった。


 これでは終わるわけがない。二人ともジョーカーを抜きあっていて、終わりを告げるペアのカードは、霧島の後ろに落ちているのだから。


「準備できたわよー」


 などと日向舞の声が聞こえて、霧島は後ろでシャッフルするフリをしてジョーカーとそのペアをすり替えた。


 そして最後、瑞鳳が見事そのペアを引いて勝負は決する。


「大死闘の末、勝ちましたぁ!」

「いやぁ、やられたよ。というか、最後ずいぶんと続いたね?」

「これは歴史に残る名勝負でしたね!」

「悔しいなぁ……」


 もはや、呆れしかない。


 それを霧島に苦言してやると、彼は笑いを堪えながら答えたのだ。


「……いやぁ、瑞瑠ちゃんがいつ気づくのかを楽しんでたんだよ」


 どうやら、霧島だけ別のゲームをしていたらしい……。そして、そのゲームは霧島の勝利だったようだ。対し、瑞鳳はババ抜きというゲームにおける勝利に酔いしれていた。どっちも勝ってどっちも満足とか、やはり霧島は侮れない。


 さらに、参加しようとした俺を、最後まで参加させないあたりも、流石と言わざるを得ない。


 こいつ、やっぱ頭おかしいよなぁ……。


 なんかもう、いろいろと疲れる合宿なのである。

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