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サイコパスとポンコツ編

 緊張の打ち合わせがなんとか終わり、みんなと別れた後のことだ。


「とても面白いことになってるね?」


 なんて、嫌味なことを言ってきた奴がいた。


「霧島……」


 今日も今日とて笑顔の奴は、抑えきれていない(わら)いを称えている。


「一つ、俺から提案があるんだけど良いかな?」

「ダメだ。どうせロクなことじゃないんだろ」

「うーん。そうやって決めつけるのは良くないな。まずは話を聞くところからだろ?」

「聞いて欲しかったから、普段の態度と行動から改め直して出直してこい」

「それは無理かな」

「じゃあ、諦めろ」


 そう吐き捨てて俺は立ち去る。だが、後ろから着いてくる足音が止まず、少し歩いてから振り返った。


「……なんだ? まだ何かあるのか?」


 霧島は答えず、ただ笑っているだけ。そんな彼に舌打ちをし、また立ち去ろうとする。


 やはり、彼はついてきた。


「……なんだよ。怖いからやめろよ」


 それでも彼はついてきた。


「……無言でついてくるのやめろ」


 少しキツめに言ってやった。だが、それでも尚ついてくる足音に、立ち止まってから、これが最後だとばかりに大きくため息を吐いてからの五回目の振り向ッッ――ぷにゅ。


「引っ掛かった引っ掛かった」


 振り向き様にほっぺに指を突かれてしまった……。あのさぁ……やってることが小学生なんだが……。


「お前……俺をそんなに怒らせたいのか」

「話を聞いて欲しいだけだよ」

「そんなことされて聞く気になるわけないだろ」

「君にも協力して欲しいだけ。もし、協力してくれないなら、俺一人でもやるから」


 何をやるのかなんて知らない。まだ、話を聞いていないのだから。ただ、彼一人で何かをやらせるわけにはいかない。どうせ(ロク)なことではないのだろうが、彼一人でもそれをやらせると(しち)面倒なことになるのは確実。そして最後には八介(やっかい)な事となり、いつだって九済(きゅうさい)措置が必要となった。


 十字架(じゅうじか)とは、今でこそ神聖なものとして囚われがちだが、イエス・キリストが磔に処される前までは、その磔の形は反逆の罪として捉えられていた。霧島も同じように、悪かったことを、さも正義であり善であるようにしてしまう性質がある。おそらくそれが霧島という人間を神格化してしまっている本質でもあるのだろう。


 霧島のやり方はいつだって四捨五入だ。どんなに良いことでも、それを人に五解(ごかい)させ、一気に悪へと切り上げてしまう。だから反対に、悪かったことにすら、それ自体が五認(ごにん)であることを告げて、悪かったこと自体を切り捨てさせることも出来た。


 霧島は印象操作の天才だ。だから、彼にかかれば善人を悪人に仕立てあげることも、悪人である霧島自身が善人になってしまうことすらも現実としてしまう。


 そんな彼が何かをやるというのは、やはり止めなければならないこと。誤解であるなら正解を与え、誤認であるなら真実こそを教えてやらねばならない。


 だから彼の話を聞くというのは、協力では決してない。

 決して……協力などではないのだ。


 だから。


「今度は何を企んでる……?」


 俺はそう、返すしかなかったのだ。それに霧島は嬉しそうにした。


「そうこなくっちゃ。……合宿だけどさ、俺たちだけで肝試しを企画しないか」

「肝試し?」

「ほら、夏といえば肝試しだろ? それを俺たちだけで企画するんだ」

「お前何言ってんの? 肝試しをやるとしても、それにはオバケ役が必要だろ。そんな人数居ねぇよ」

「大丈夫。オバケ役なんて要らないよ。むしろ、そんな役がいると安心するだろ?」


 言ってる意味が分からなかった。


「暗い夜道を歩くのに、『この先にはオバケ役の人間がいるんだ』って思ったら、怖くなくなるってことだよ」

「あぁ、逆の発想か。まぁ、確かにそれはあるな」


 だから肝試しにおいて怖いのは、幽霊やオバケなどではなく、『彼らがいつ飛び出してくるか』というビックリの事を指す。

 肝試しというのは『怖がらせる』というよりも、『驚かせる』という事に比重がおかれたイベントなのだ。


「オバケ役なんて居なくても怖がらせる(・・・・・)ことは可能だよ。それをやる前に怖がらせておけばいいんだ」

「……つまり?」

「DVDを借りてくるよ。『見ると呪われるシリーズ』」

「あれか……」


 霧島が言っているのは、幽霊が映ってしまったプライベート映像を集めてDVDにしたもの。最初は普通に映像が流れ、途中で『―REPLAY(リプレイ)―』となり、もう一度映像が流れ、最後には『お分かりいただけただろうか……』と、解説の語りが入るやつ。シリーズ化されているので、何十本もある有名なDVDだ。


「あれをみんなに見せた後で肝試しをするんだ。オバケ役がいないことも告げてね?」

「お前……ほんと性格悪いな」

「俺が見たなかで一番怖かったのを借りてくるよ。あとは、肝試しをする道だけど、こればかりは下見しないといけないから、この別荘の近くまで明日行ってくる」


 そう言って、霧島は日向舞からみんなに配られた別荘の簡単な資料をヒラヒラさせた。


「お前が行くの? というか、そんなことまでするのか」

「舞ちゃんが言ってただろ? 怖いのは、何かあった時だって。だから安全性を訴えられる前に、それを潰しとかないと。むしろ、そんなことを言い訳に逃げられても困るしね?」

「つくづく良い性格してんのな……」

「褒め言葉として受け取っておくよ。場所が海辺なんかじゃなくて、山だったら……昔、登山途中で熊に襲われた大学生たちの、実際にあった事件を特集したDVD借りてくるんだけどね。映像の中には犠牲となった人のメモが映ってて、くたくたになった紙切れに書かれた筆跡がリアル過ぎて怖いんだよ」

「それ、トラウマになるやつだから止めてくれ……」 


 もはやそれは、オバケとか幽霊とかのレベルじゃない。生命の危機を感じるレベルの危険な怖さだ。


「君にして欲しいのは、それを実行に移す協力だけだから」

「そんなことして、あいつらが楽しめるのか……?」

「ん? 彼女たちを楽しませるわけじゃないよ?」


 霧島は笑顔のまま小首を傾げてみせた。


「……もちろん、俺が楽しむ為だけの企画さ」


 そんなことを平然と言ってのける奴は、もう一周回って霧島らしい。


 だから、俺はそれを聞いた上で止めなければならない。


 その為に口を開こうとした時だった。



「――その話、私も乗ります!!」



 急に話に割って入ってきた奴がいたのだ。その声に霧島が少し驚き、俺は……顔を覆う。


「誰かな?」


 俺たちの前に現れたのは、一見男と見紛う女の子――瑞鳳(ずいほう)瑞瑠(みずる)。俺が昨日の昨日まで、その存在を思い出せずにいた姫沢の一年生。そして彼女は、女子であるにも関わらず、日向舞へと想いを寄せる乙女だった。


「はじめまして。瑞鳳と言います。合宿には、私も行きます」

「……君の知り合い?」

「知り合いというか、知り合ってないというか……」


 先程の打ち合わせ。実は隣の席に瑞鳳はいた。というのも、瑞鳳は俺と日向舞が合宿を企画した最初の喫茶店にも居て、近くの席で盗み聞きしていたらしいからだ。というか、もはや日向舞のストーカーである。そして本当に恐ろしいのは、彼女のことを日向舞が知らないという事実だ。


「私もその話に噛ませてください! その変わり、日向先輩とペアになるのは私にして下さい! 吊り橋効果で日向先輩とドキドキ大作戦! とても良い企画だと思います!」


 あのさぁ……そんな作戦じゃなかったんだけど。話聞いてた?


「そっか。君は舞ちゃんとペアになりたいんだね? じゃあ、このドキドキ大作戦(・・・・・・・)に協力してくれるね?」

「はいっ!」


 霧島ぁ……。誤解してる相手に乗じて露骨に切り上げてんじゃねぇよぉ……。そんな作戦名じゃなかっただろうがぁ……。


「待て待て! 勝手に話を進めるな」

「天津先輩は黙っててください! ファミレスでの話を聞いて理解しました。二人の女の子から言い寄られて、答えも出せずに日向先輩に頼ってるあなたなんかに言われたくありません!」

「まぁまぁ、天津くんは少し優柔不断な所があるけど、言い換えるならそれは、『彼女たちの気持ちを想って』のことだよ」

「あなたは神ですか!? えっと……名前は」

「霧島海人だ」

「霧島さん……優しいですね」


 うぉい霧島ぁ……。誤認させて切り捨ててんじゃねぇよぉ。……いや、今のは誤解に乗じて切り上げたのか? まぁ、どちらにせよ、瑞鳳にとって霧島が良い奴になったのは言うまでもない。そういうのをやらせたらホント天才……というより、今のは簡単に騙されてる瑞鳳が悪い気がする。


 こんないたいけな子を騙すなんて、ホント霧島って悪い奴だ。しかも、『ドキドキ大作戦』を打ち合わせる為に、瑞鳳と連絡先を交換してやがる!! 騙した上に連絡先まで交換して、自分の味方に取り込むなんて、ホントに霧島って悪い奴だ!


「よしっ! これで霧島さんも『日向同盟』の一員です!」

「……。ありがとう瑞瑠ちゃん。よろしくね」

「はいっ!」


 今、間があったろ霧島ぁ。笑って誤魔化してんじゃねぇぞ。味方に取り込んだ上に勝手な同盟まで結ぶとか、ホント霧島ってやり方が悪い。というか、簡単に騙されてる瑞鳳も悪い。


 霧島と瑞鳳は勝手に企画を進め始めた。もはや俺など無視して。結局霧島は俺が必要だったわけじゃなく、ただ協力者を必要としただけだ。そして、彼にとって、おあつらえ向きの獲物が向こうからやってきた。それを物にしない霧島ではない。


「じゃあ、DVD借りに行こうか?」

「はいっ! 出来れば、事前に見ておいて怖くないようにしておきたいです!」

「じゃあ、そのまま俺の家で観賞しようよ」

「いっ、良いんですか!?」

「良いよ」

「わぁーい!」


 俺は……一体何を見せられてるんだ。というか、霧島の家? いやいや、待て待て!


「おい! 簡単に男の家に行ってんじゃねぇよ! お前はナンパされるチョロい女子か!」

「天津くん……さすがにそれは頂けないな? 俺たちは純粋に合宿を楽しもうとしているだけだよ」

「そうですよ! そんなこと考えてる天津先輩の方が気持ち悪いです」


 なんで俺が責められてんだよ……。だが、それでも霧島と瑞鳳を二人きりにさせるわけにはいかない。


「……俺もついていく」

「なんだ。参加したいなら、最初からそう言えばいいのに」

「素直じゃないですねぇ。天津先輩は」


 なんで俺が見下されてんだよ……。霧島は意図して言っているのだろうが、たぶん本気で言ってる瑞鳳が怖い。もはやホラーですらある。


 合宿まであと数日。波乱になるであろうことは承知済みの変わった催し。そこに流し込まれていく危険な二人は、やはり危険な結末しか生まない気がした。


 どうなるのこれ? どうなっちゃうの合宿!?


 それはまるで、それぞれの想いや思惑が詰め込まれたドデカイ四尺玉花火が、恐ろしい勢いで夜空へと打ち上げられていくかのよう。

 それが綺麗に打ち上がってしまうのか、暴発してしまうのか、はたまた不発で終わってしまうのか、それはおそらく神のみぞ知るところ。


 ただ一つ言えるのは、その花火が打ち上げられても、この夜が続いて欲しかった……などとはならないと思えた。


 何故だか……汚ねぇ花火が打ち上げられるような予感しかなかったのだ。

『本当にあった呪われたビデオシリーズ』は、見ても恐らく呪われません。深夜に部屋を真っ暗にして、そのシリーズを殆ど見た私が言うので間違いありません。中には『見ると三日以内に事故に遭う。見る際は自己責任でお願いします』という内容の物もありましたが、私はピンピンしてます。


それと、この話でこの章は終わりとなります。次章の合宿については、少し難しいので連載が空くかと思われます。


ただ、完結させる予定ではいますので、私が事故に遭って死んだりしない限りは、ちゃんと話は続きますよ(笑)


では、またどこかで! ――ザザッ。

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