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解除される保安装置。天津編

 ゲームソフトを購入するのは、いつも近所にある電気屋さんだった。年末の折り込みチラシにあるゲームソフトたちは、街の中心部にある大きな店のものだったが、それらの広告にあるソフトたちを参考にしながらお年玉を持ってよくゲームを買いにいったものだ。


 教室で話題に上がるゲームはもちろん俺も持っていて、一人でやり込んだ時間だけ他の彼らを引き離していく。彼らが話をしているゲーム進度やステージは、とっくに俺がプレイ済みのものであり、それを横目にいつも優越感に浸っていた。一言だけでも、その話題が俺に触れることだけを期待して。もしそうなったなら、俺は得意気にゲームの話をしただろう。得意気にクリアする方法を話しただろう。


 だが、そんなことはなかった。彼らはゲームの内容を仲良い者同士で夢中になって話し、共に懸命に悩んでいた。それを攻略するために友達の輪を広げようとはせず、ただ、狭い議論内だけでゲームを試行錯誤させていた。それで彼らは満足だったのだ。ゲームを攻略することにではなく、それを誰かと共有することに満足していたのだ。だから、そこに入れない俺は不満足だったのだろう。


――話に入れて。


 その一言を言えなかったのは、俺がきっと彼らを見下していたからなのかもしれない。その当時の俺は、まだ純粋だったのだから。


 因果応報とまで言うつもりはないが、ボッチがボッチである結果には、やはり何かしらの原因が存在する。それが明確な時もあれば、分かりづらい時もある。たとえば……小さく積み重なった原因がどこかで大きな結果として現れた。そう考えれば、今の俺の現状にも納得は出来た。


 そんなことを考えさせる懐かしいゲーム売り場。


 俺はなんだか、これまで俺が取りこぼしてきた物を拾っているような感覚になった。それは捨ててきた(・・・・・)ものではなく、知らずのうちに落としてきた(・・・・・)もの。


 そしてそれが何なのかは分からない。


 ただ、そうやって落としてきたものが、こうして俺を再びここに引き戻したのかもしれない。


 そんな感傷に浸っていると、やはり、今回のゲーム合宿でやるゲームも、そうであらねばならないような気がした。


 あの頃の俺が話題に入ることを許されなかった……みんなでやれるゲーム。


 俺は、そのソフトを手に取る。もしも、あの頃の俺がこれを買っていたなら「入れて」ではなく、「やろうよ」とも言えたかもしれないソフト。


『制御不能の暴走列車! ~わらしべ電鉄~』


 これは、みんなでやれる日本を舞台とした陣取りゲームであり、電車のゲームとを合わせたものだ。それぞれの拠点から決まったお金で始まり、土地を買って自社の路線を伸ばしていく。その路線には利用客がいるのだが、栄えていない町のままでは利用客が少ない。だから、買った土地のレベルを上げて町を繁栄させていく。そうやって他のプレイヤーから顧客を奪うことも出来る。逆に、路線を繋ぎ合わせて、他プレイヤーの路線に電車の乗り入れさせることも出来る。お金の使い道は土地のレベルアップだけでなく、電車のレベルアップや、路線に保安装置を導入するなど、最終的には新幹線さえ作ることができた。


 そして、最後に勝利するのはより多くの利用客を取ったもの。日本にいる人口は限られていて、常に利用客はグラフとして表示されている。だから、路線を張り巡らせたゲーム後半では、客の取り合いになる。土地だけにお金をつぎ込めば電車での事故が起き、そこにばかりお金をつぎ込めば客は増えない。


 そのバランスを考えながら、時に協力し、時に客を奪ってゲームをみんなで進めていくのだ。


 そしてこのゲームの肝は、一年終えるごとに最もお金を持つものに『制御不能の暴走列車』が召喚されること。それを取り除くには、点検にお金と時間をかけて入念に行うか、他者線に乗り入れさせて他プレイヤーの路線内で事故を起こさせるしかない。


 だから、駆け引きも必要となってくる。


 そのソフトをレジに持っていく。俺がお年玉で買った数々のソフトは、一人でやれるものばかりだった。そうやって俺は、知らずのうちに一人でいることを選んでいたのかもしれない。だから、今度はその過程で失ってきた落し物を取り戻すために、みんなでやれるこのゲームを買った。


 販売されたのはかなり前であるため、金額はさほど高くない。


 だが、その価値は俺にとって同等ではない。


 プレイしたことなどなく、概要だけ知ってるこのゲーム。


 だから俺は……本当に気づきもしなかったのだ。このゲームをみんなでやった時……みんなにどのような雰囲気をもたらしてしまうのかを。パッケージや口コミだけで囲われた楽しげな外殻(がいかく)に騙されていたのだ。


 それは今回の合宿にも例えられる。


 海辺の周辺で宿泊してのゲーム三昧。そんな楽しげな企画に覆われた合宿内容。それはやはり、楽しいものになるような気がした。だからこそ俺は楽しくやれそうなゲームを。そして、金剛さんが水着を買うように、みんなも楽しくなるような何かをその内容に詰め込もうとしたに違いない。


 そしてその楽しさとは、本人だけが思い浮かべることが出来る楽しさ。それが、誰かにとっての楽しさになるとは限らない。


 そして……その一つが、このゲームソフトだったに違いない。


ここからは、合宿にみんなが持ち寄る物を一人ずつ丁寧に書いていきます。


合宿は次章になります。


ですので、この章は残り僅かです。

こうしてまた、一つの章を終えていけるのは、読者の方々のお陰です。前章終盤でも述べさせて頂きましたが、何度でも述べさせてもらいます。

本当にありがとうございます。



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