トントン拍子
「で? 結局どうするんだよ」
日向舞の提案は理解した。その目的も納得できた。あとは、手段……つまり、どうやってそれをするかだ。
「みんなで出掛けましょう。そこで天津くんの粗捜しをするの。もちろん、企画も全て天津くんが考えて」
「……は? 俺が考えるの?」
それに日向舞は不思議そうな表情。
「だいたいこういうことって、男の子から企画するものでしょ?」
「いや、当たり前みたく言うなよ……そんなのしたことねぇよ……」
「それでもやるの。これも全て査定項目に入ってくるから」
「査定って……もう企画の段階から始まるの?」
「当たり前じゃない! というか、企画って大事よ? カップルが一番別れる時期って、いつだと思う?」
「なんだよ唐突に……あれだろ? 出会いと別れの多い四月あたりだろ?」
「ぶっぶー。一番多いのは年末よ。正確に言えばクリスマス後。クリスマスって、彼女も彼氏も相手に対する期待が大きくなるから、そこで満足を得られないとそのまま相手への失望に変わるの」
なにそれ怖い……絶対クリアしないと生き残れないデスゲームなの?
「期待って悪だよなぁ。期待なんてしない方が絶対良いのにな」
「まぁ、私は全然期待してないから安心して企画して。むしろ、企画倒れになることも考えて予備の企画を用意しておくから」
「……それ、期待してもいいかな?」
「……諦めるな」
失望にも似た残念な物を見るような瞳。ほんと期待って悪だわ。期待した俺が馬鹿だったわー。
「なんでも良いのよ。海でも山でも。夏らしいことなんて一杯あるじゃない」
「海は日焼けするから削除だろ? 山は疲れるから削除だろ? あとは……なんだ? 祭りは……人混み苦手だし削除だな」
なんかもう削除しかない気がする。もはや夏休み自体を削除してしまいたい。削除、削除、削除ぉぉぉ! かみぃぃぃ!
「今までの夏休みどうしてたのよ……」
「なんか壮大な物語のゲーム買ってクリア目指してたな? 浴びるほどゲームに明け暮れた」
「引き込もってたわけね……」
「言い方悪いぞ。お前は知らんだろ。ゲームで徹夜したあの明け方を。あの昇る朝日の神々しさを」
「目がしばしばしてるだけじゃない……。そんなことしてたら体壊すわ」
「こちとら命懸けでゲームしてたんだよ。それほどに俺を引き込むゲームが悪いな? つまり家に引き込もってたわけじゃなく、ゲームに引き込まれてたんだ」
「もはや、言い方次第ね」
「というか、みんなだいたいそんなもんじゃねーの? ほら、ファミレスみんなで言っても結局ゲームしてんじゃん」
「まぁ、確かにそういう光景はみるけど……」
ふむ。だいたい話は見えてきたな。
「よし。じゃあ、ゲーム合宿でもするか。みんなでプレイ出来るゲーム買って、クリアを目指してみる……ってのにしよう」
日向舞は、口元をひくつかせていた。
「……本気?」
「本気だ。対戦ゲームでもいいが、どうせなら協力プレイ式のゲーム買ってやろう」
「ゲームなんて、私あまりやらないんだけど……」
「大丈夫だ。そのうち慣れる」
「そこは優しく教えてやるとかじゃないのね」
「甘やかすとロクなことにならないしな。あと、ゲームのやり方なんて教えたことないから分からないのもある」
「場所は? 天津くんの家?」
「ばっかお前……ゲームするためだけに他所の家に押し掛けたら迷惑だろ」
「なんで他人視点で断るのよ……じゃあ、どこ?」
「……それは」
問題はそこですね……。なんか都合の良いゲームできる所ないのだろうか?
「なんか、どっかのログハウス借りたり出来るか……?」
「ゲームするためだけに? いやぁ、それにそういうのって、高校生だけじゃ借りれないでしょ?」
「そうなのか……まぁ、確かにそういうのって大学生がやってるイメージよな」
既に企画倒れになりそうな気がした。うーむ。わりと良い案だと思ったが……。
「ホントに他にはないの?」
「と言われてもな……なんか外に出てワイワイやるのは想像出来ないんだ。想像出来ないことを無理にやったって上手くいくわけがない。なら、想像出来ることを確実に詰めた方がいい」
「まぁ、一理あるわね。あなたがバーベキューとか言い出しても、お通夜みたいな雰囲気しか想像出来ないもの」
「そうだろ? なんか無理やり雰囲気を盛り上げようとして、失敗する結末しか見えないな」
「自慢気に言うところではないけどね……」
日向舞は、考える俺をジッと窺っていたが、やがてフッと笑う。
「分かったわ。あなたがそれしかないのなら、場所だけ協力してあげる」
そう言うと彼女はスマホを取り出して見せた。
「友達の別荘でいくつか心当たりあるの。日程とかも考えると、借りられるか分からないけど、話はしてみる」
「……別荘……マジか」
「マジよ。だから、天津くんは他のことをやって」
「おっ、おう。みんなが楽しめそうなゲームをじっくり吟味してやるぞ!」
「……違う。みんなに連絡して、日程を決めるの」
「あっ……それも頼んじゃ……?」
「ダメ。これはあくまでも天津くんの企画としてやるんだから」
ですよねぇぇぇ。やばい。そんなのどうやれば……。頭を抱えていると、呆れた声が降ってくる。
「取り敢えず、企画のことを話して強制参加させて。日程は、みんなの暇な時間を聞くのがセオリーだけど、無理なら「参加しないと嫌いになる」って脅迫すればいい」
「お前……ホントに俺の為を思ってるんだよね?」
「思ってるからわざわざこうして来てるんでしょ? そもそも、宿泊施設なんてもっと前から予約したりしなきゃいけないんだし、これでも優しいくらい」
「まぁ、ですよね」
「とにかく、今日か明日までに日程は決めて。……あぁ、私は七月は無理だし、お盆の後は予定が詰まってるから、八月の頭辺りにしてね?」
「急に範囲狭めて難易度上げないでくれる? あれだよ? 嫌いになるぞ?」
「別に良いけど、それだとしょうりんと金剛さんと天津くんの三人だけになるわね? それでも良いなら、私の予定は加味しなくていいわ」
少しだけそれを想像してみる。……うん、想像しなくても気まずいのが分かるね!
「仕方ないな。加味してやるか」
「加味せざるを得ないんでしょ……。というか、修羅場になりそうだし、その間であたふたする天津くんしか想像出来ない」
「俺もそうなる気しかしない」
「だから必要でしょ? 私」
「……ですね」
そんなこんなで、取り敢えずの話は進んでいく。日向舞は場所を。俺は日程とゲームを。
そして、それらを進める為に俺と日向舞は別々に動き出した。それぞれの役割を明日までに終わらせることを約束して。
人間とは不思議なもので、そういった目的があるとスムーズに行動する。自由だと何もしないくせに、不自由になると何かをしだす。ほんと人間って不思議だ。
俺はその日のうちにりんちゃんと金剛さんにLINEをした。
内容は、とても簡単で『八月頭に宿泊してのゲーム合宿やります』というようなもの。最後に『参加する方はご応募どしどしお願いします』とちゃんと付け加えて。……完璧だ。これで断られたら、参考にした『~夏のイベント盛りだくさん! これで夏を制覇しよう~』という雑誌の記載内容が悪い。それの最後の文をまるまる写しただけだからだ。
りんちゃんからはすぐに「行く!」って返信がきた。金剛さんからは「バイトのシフト変更とかあるから具体的に。あと誰が来るのかとかも教えて。必要なものは? というかゲーム合宿ってなに?」と、長文が返ってくる。ふむ……これは変換すると『行きたい』ってことで良いんだよね……? なんかあれだな……りんちゃんと比べると悪いが、結構面倒臭い。というか、これはりんちゃんが無償過ぎて怖くなってくる。一応「予定とか大丈夫なの?」って聞いたら「その辺りの予定は全部無くす」と返ってきた。おっふ。これ絶対、期待大のやつじゃん……面倒なのはこちらの方でしたか……。
そんなやり取りをしていると、日向舞から連絡がきた。どうやら別荘を借りれたらしい。
場所は、街から離れた自然豊かな海辺の近くで、周辺の土地まるごと借りれたとのことだった。おっふ。海とか山は止めて欲しかったんだが……というか周辺の土地まるごとって何? お金大丈夫なのそれ……。
ただ一つ、そこには問題があった。
――天津くん、バイク運転出来る?
出来ない。免許持ってない。というか、なぜにバイク……?
聞けば、あまりに街から離れているため、買い出しには足が必要らしい。無理だ、と返すと「じゃあバイク運転できる人も確保して」と、無理難題を押し付けられてしまった。
なんで難易度引き上げるの? イジメなの?
悲しくなりながらも、バイクを運転出来る奴を考えてみる。だが、そもそも俺には友好関係が少な過ぎて誘える人自体が少ないのだ。試しに、りんちゃんと金剛さんにバイクの運転が出来るかを聞いてみた。
そして聞いてからしまったと思う。二人がバイク運転出来るなら、そもそも日向舞が俺にこの問題を持ちかけてくるはずがないからだ。
もちろん二人からはNo。だよなぁ、と思っていると、りんちゃんが連続して返信。
――バイク運転出来る人必要なの?
取り敢えず、それに対して説明してやると、彼女から恐ろしい答えが返ってきた。
――たしか霧島くん免許持ってるよ? バイク通学が禁止されてるから、意味なかったって話してた。
よりによってアイツかよぉぉ。というか、りんちゃんは霧島が参加するのは平気なのだろうか……。そんな事に数時間悩んでいると、りんちゃんからまたも返信。
――霧島くん、明日の試合で負けたら参加できるってさ! 負けてねって、頼んどいた!
もはや、どこから突っ込めば良いのか分からん……。なんか俺の企画なんだけど、りんちゃんがマウント取ろうとしているように感じるのは俺だけなのだろうか。
取り敢えず、「ありがとう」だけ返しておく。そんなやり取りの最中でも、金剛さんからの矢継ぎ早のような質問はあって、なんとかそれに答えていく。……やっべぇ、忙しいわぁ。充実するってこういうことかぁ。やっべ、まじ忙しいわぁ。
その質問の中で、日向舞が借りた別荘が海辺の近くにあると答えると「水着買っておくね!」と返信がくる。いや……ゲームするだけだから海行かないんだよなぁ。それを説明するのだが「一応買っておくね」と念押しされた。……俺は持っていかんぞ。というか、水難事故とか怖いし。大人が居ないのに子供たちだけで海水浴とか絶対ダメ! 水着は家のなかで拝ませてもらおう。うむ!
結局、そんなLINEのやり取りがようやく終わると、疲労感が半端じゃなかった。準備って大変なんですね……。
そうやって、仕事終わりの達成感に浸ってる時だった。
またもLINEの着信。
その相手は瑞鳳とあった。……誰?
――もしかして、日向先輩と旅行に行く計画とかしてます?
え……なにこの文。いろいろと怖い。
――喫茶店で喧嘩とかしました? いえ、もしかしてですけど。
……は?
――別に報告を待ってたわけじゃないです。なんとなくLINEしてみただけです。
俺の返信を待つことなく淡々と送られてくる文に、もはや恐怖しかない。
――もしもそういうのがあるのなら、私も連れていってくれますよね?
なんで……というか誰だよコイツ。
誰かに監視されているような気がして、俺は意味もなく部屋の窓のカーテンを閉めた。
――私はオッケーです。あとは日向先輩に話を通しておいて下さい。
誘ってもないのに承諾がきた……。もはや俺は、怖くなってきて布団に潜り込むしかない。
画面を消して机に置くも、LINEの着信音は一定の時間をおいて鳴り続ける。
それに俺は、震えて眠るしかなかった。
キャラクター総動員による超絶強引展開過ぎてもはや笑いしか起きない。あと作者に出来ることは……。
ごめん霧島きゅん……夏のサッカーは諦めてくれ。
取り敢えず、2-1とかの接戦で負けたってことにしとくわ。あぁ、1点は霧島きゅんのゴールね。




