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恋愛にステータスは必要だが、ボッチは隠れステータス  作者: ナヤカ
コンプレックス・スープレックス
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【番外編】無力『金剛麻里香視点』

「うそ……」


 口を突いて出た言葉。信じられない目の前の光景。そして、クラスメイトたちが騒がしく喚きたてる声声。


 教室の窓から見えるグラウンドには、姫沢高校の制服をきた女の子たちがいて、その数にも、そんな事が起きている現状にも、驚いてしまった。


 そして、探してしまう。その中にいるはずの日向舞という女の子を。


 昨日、LINE通話で連絡があった。


『――金剛さんごめんね。前の日に天津くんを連れ出したのは、服を選んであげようと思ったの。ほら、あいつ全然オシャレとか考えてないしさ?』


 窺うような声音に「そうだったんだー。てっきりデートかな? くらいに思ってたぁ」なんて答えてしまったのは、たぶん……イラついたから。


『ないないっ! それは絶対ないから!』


 あの動画で、デートなんて誰も思わない。それを冗談で言ったのに、真面目に返してきた舞ちゃんに、なんとなく……またイラついた。


 舞ちゃんは、とても凄い人だ。勉強も出来て、それでいて可愛い。勉強が出来なかった私に一生懸命教えてくれるし、私が面白おかしく天津くんの話をしたら、笑ってくれて、それでクラスメイトたちのことを酷いと怒ってくれた。


 別にクラスメイトのことはどうでも良かった。どうでも良かったから、それを話せたんだ。


 そして、それをどうでも良いと思わせてくれた人がいたんだ。


 天津風渡。その言葉に、その響きに、私は揺れてしまう。


 もう、天という文字を見ただけで、彼を思い出してしまう。あの時、助けてくれた彼のことを否応もなく思い出してしまう。そして、ニヤついてしまって……何やってんだろとおかしくなってくる。


 気持ちが高鳴るのが分かる。それを自覚してしまって、抑えようとするのだけれど抑えられなくて、本当に笑ってしまうしかない。


 クラスでは、もう以前みたく話せる人はいない。なのに、私の心は満たされている。


 彼も一人。私も一人。その現状が、私に支配にも似た独占欲を与えてしまっている。それは、きっと彼の為になんかなってないのに、私はそのことを嬉しく思ってしまっているんだ。


 だから、ずっとこのままでも良かった。そう思ってた。


 時々彼を見ると、彼は、まるでそのことに後ろめたさなんか感じていない。堂々としている。強いなぁって思う。凄いなぁって思う。


 そして、彼が私に助けを求めることなんてないんだろうなぁ……って思う。


 彼がオシャレになんか興味ないのは知ってる。だって、いつも髪なんて整えてないし、時々ボタンをかけ違えていることがある。私はそれに「いつ気づくんだろ」と思って見ている。だいたい学校が終わる頃には元に戻っていているのだけれど、たまに、そういった天然な所が放課後まで残されたままになっている事がある。


 その時に私はなんとなくガッツポーズしてしまうんだ。なんか勝った! って勝手に思っている。


 馬鹿だなぁ、私。そんな自分にまたおかしくなって、また一人でに笑っている。


 平凡に見える世界。なにもなく平和な世界。そして、それをつくってくれた人。


 好きに……ならないわけなかった。そして、あの特別な事件が、この特別な状況が、私と彼を強く結びつけている事実に、いつもドキドキするんだ。


『――処罰!? あれで!?』


 舞ちゃんは驚いていた。私がそれを話したのはきっと、遠回しに伝えたかったからだ。


――あなたのせいでね? と。


 でも、それを隠すために必死でそれ以上のことを話してしまう。舞ちゃんを嫌いになりたくないし、嫌われたくもない。ただ、それは少し私の気持ちをスッキリさせたかっただけなんだ。


 私は彼を助けてあげられない。彼はそれを望まない。そんなモヤモヤした気持ちを無くしたかったのもあったんだと思う。


 私は舞ちゃんが嫌いなわけじゃない。むしろ大好きだから。


 そして彼女は言った。


『分かったわ。私に任せて。絶対天津くんを処罰させたりなんかしないから』


 無理だよ、と思ってしまった。でもそれを口にしてはいけないような気がした。彼が助かる可能性があるのなら、それを信じるのが私に出来ることのような気がして。


 それで良かった。だから「うん」とだけ、返したんだ。



――そして私は思い知った。本当に舞ちゃんは凄い人だってことを。


 

 グラウンドに集まる女の子たちの中心に見つけた舞ちゃん。彼女は、教師の人たちと話をしている。


 会話は聞こえない。けど、何を話しているのかは想像出来てしまう。


 教室の喧騒が遠くなっていく。


 頭がぼうっとして、目眩にも似た症状に陥る。


 足の感覚が掴めなくて、立っていることが不思議に思えた。



 私が、何も出来ない無力な人間なのだと知った。


 でもそれは、いつだってそうだった。いつだって私は、自分から何かをしたことなんてなかった。


 いつも、誰かが私に「可愛い」と言ってくれるのを待ってるだけだった。


 だから、その差を見せつけられたって私が悔しいなんて思うことはない。思えない事が悲しくなってくる。でも涙なんか出なくて、ただ、そうなんだなぁって気づくしかない。


 そっと窓ガラスに手を触れるとひんやりと冷たい。その冷たさが、少しだけ私を取り戻させてくれた。


 私は見ていることしか出来ない。


 私は眺めていることしか出来ない。


 祈ったってきっとそれは叶わない。でも、祈ることしか出来ない。


 私は何もしてあげられない。私は無力だから。


 それを理解してしまった。



 じゃあ、私に出来ることは何?


 お腹が痛くなってくる。それを誰かに伝えることは、何故だかとても卑怯なことに思えて我慢した。


 誰も私を見ていない。窓の外で起こっている事態にみんな夢中だ。なのに、私は我慢する。


「……話さなきゃ良かったな」


 だから、そう呟いた自分の声さえも聞かないようにした。



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