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過ぎ去りし日の苦悩

「彼氏なんてつくらない方が良いと思うんだよね。だって、この先ずっと付き合うかも分からないし、結婚なんてもっとないと思う。でも友達は違うよね。卒業してからも会うことだってあるだろうし、一生付き合ってくものだと思う」


 日向舞はそう言って見せたが、俺はそれを鼻で笑ってやる。


「そうとは限らないな。友達なんてひどく曖昧な関係でいつだって切り捨てられる。だから、自分を助けるために簡単に裏切れるのが友達だ。確実に一生付き合ってくのは自分だよ。大切にすべきは自分のみだ」

「考え方がすごく後ろ向きなんだけど……裏切られたことでもあった?」


 その質問にはどう答えようか迷ったが、


「いや……ただ俺に人を見る目がなかっただけだ」


 そう答えておくことにする。


「あー、なんかごめん。というか、友達つくらないのってそれが原因じゃない?」

「いや、それはただのキッカケに過ぎない。それに勉強にもなったしな? 人は人を簡単に裏切れる。あと、同情は優しさでもなんでもない」

「同情のことは聞いてないんだけど……」


 日向舞は少し呆れ顔を見せた。だが、別に意見を変えるつもりはなかった。


 中学生の頃、俺には昔からよく遊んでいた奴がいた。家も近所だったから、休みの日もよくつるんでいてお互いに親友だと思っていた。だが、それは幻想に過ぎなかった。

 友達とは脆い、周囲の人間関係に左右され、意図も容易く崩れさってしまう。助けたことさえ、助けられたことさえ無視して、やはり可愛い自分を取ってしまう。……いや、本当はそんなのなんてないんだ。人が誰かを助けようとするのは、助けたいからだ。そこに見返りを求めるなんて考えが甘かったのだ。

 だから裏切りなんて最初からなかったのだ。だから俺は裏切られていない。あれは……あれは、俺が(ボッチ)として進化するために必要な回避不可イベントだったのだ。


「変な奴」


 日向舞はそう言って終わらせる。


「否定はしない」

「まぁ、でも、あなたみたいな人が恋人なら……友達関係になんて苦しむことはないのかもね」


 そう言って、彼女はチロリと上目遣いをしてきた。こいつまだすり寄ってくるのか……そんなに霧島とそのお友達とやらを繋げて欲しいのか。


「いや、友達関係に苦しまない方法は友達をつくらないことだ。これお薦めしておく」

「それはさすがに……」


 バスが次の停車駅を告げる。気付けば降りなければならない場所まできていた。いつもなら、ただ退屈に過ごすだけの車内。ただ今日は違った。


「俺次だから」


 そう言って、彼女からようやく解放されることに安堵する。


「そう。……ちゃんと登録しておいてね? あなたがこのバスを使ってるのは知れたから、待ち伏せだって出来るのよ」

「犯行予告か……」


 日向舞はイタズラっぽく笑う。俺の恐怖を煽るために笑って見せたのだろう。だが、それは彼女の雰囲気と相まって可愛く見えてしまった。あぁ……こりゃ男が放っておくわけがないな。無意識にそう思ってしまう。だから彼女は苦悩したのだろう。

 彼女の着ている制服はお嬢様学校として有名な学校であり、女子高でもあった。彼女が、男のいない学校に進学した理由がなんとなくだが分かった気がした。

 そしてその推測が当たっている前提でさらに推測するのなら……。


 女子高選んでも男のことでこうして悩んでいるのは、ひどく可哀想に思えた。


 だが、同情で誰かを助けることは俺の中では既に否定されている。だから、俺は同情で誰かを助けることはないし、同情で助けられたくもない。それは、最悪な結末しか生まないのだ。


 俺が彼女のIDを登録することはない。そして、彼女が今後一切俺に関わってくることのない方法を考える。


 それはやはり、渡された紙を霧島に渡すしかなかった。

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