表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
恋愛にステータスは必要だが、ボッチは隠れステータス  作者: ナヤカ
コンプレックス・スープレックス
36/114

都合の良いボッチ

レビューありがとうございます!!

 ボッチとはとても都合の良い生き物である。

 集団は時に分裂し、最低でも二人組になることを強制される場合がある。しかし、その集団が二で割り切れない人数の場合は、当然余りが出てしまう。その余りをあてがわれるのがボッチだ。

 ボッチは一人でいることを苦に思わない。故に、その役目をあてがわれてしまっても、あてがった者たちでさえも、不快になることはない。

 ボッチは集団から疎外される存在であるくせに、時に集団がボッチを必要とすることがあるのはその為。人数の調整にボッチという存在は汎用性が高く、都合が良すぎるのである。


 なにより、ボッチには殆ど予定というものがない。だから、わりと急な予定を押し付けられたとしても、それを受け入れてしまう程の器を兼ね備えていた。


 だからボッチは都合の良すぎる生き物である。



――今度の土曜日か日曜日空いてる?



 日向舞から、そんな連絡が来たのは霧島からりんちゃんのことを教えられて数日後のことだった。何度もこちらから連絡しようとしたものの、俺が彼女たちに関われるほどの何かなんて見当たらず、幾度となくLINEの画面を落とし続けた。だから、その連絡が来たときは、恥ずかしながら安堵してしまった自分がいた。


 それに“空いてる”とだけ返す。返事はすぐにきた。



――土曜日に、お財布だけ持って駅前に九時



 詐欺かと思いました。


 だが、何度見返してもそれは日向舞からのLINE。なんとなく怪しんで答えるのを渋っていると、急にスマホが振動し、日向舞からのLINE通話がきたのだ。


 それを慌てて取ると、意外にも元気そうな声が聞こえてくる。


『もしもし? 連絡見た?』

「……あぁ」

『なんですぐ返さないのよ』

「いや、ちょっと危ない文章だったから」

『はぁ?』


 声の奥から、微かに布の掠れる音が聞こえてきた。勝手に日向舞の電話越しでの光景が頭に思い浮かんでしまう。名探偵、なんだよなぁ。どんな情報も見逃さず聞き逃さない俺は。だから答え合わせしたい。日向舞さん! あなた一体何をしてらっしゃるんですかっ!? この俺の推理では、ベッドとかで通話してるでしょ!? ということは部屋着ですねっ!? えぇ、そうでしょう。そうなんでしょう!? ……やばい。新たな真実が、俺に変態という冤罪をかけられそうで怖い。


『聞いてる?』

「おっ、おぉ」

『……なんで時間差があるのよ。日本にいるのよね?』

「日本にはいますね」


 仕方ない。ボッチは会話においてもいちいちより良い返答を選びとろうとする。だから、考える時間……すなわち変な間が生まれてしまうのだ。


『とりあえず、土曜日はよろしくね』

「ちょっと待て。なに? なにするの?」

『何って……あなたの服を買いに』


 はぁん?


「なんで俺の服を買いに行く権限をお前が持ってるの?」

『天津くん、休みの日いつも同じ服着てない?』

「お前は勘違いしてるぞ。俺は同じ服を何着も持ってるだけだ」

『いや、そういうことじゃなくて……。もう少しカッコいい格好したらいいのにってこと』

「……え? なに? それを土曜日買いに行くってこと?」

『そう、なるわね。ほら、日曜日のこともあるし』


 はぁん?


「なに……日曜日って」


 それから、日向舞が沈黙した。電話越しからは掠れな布の音が聞こえてくるので繋がってはいるはず。


『……ごめん。話してなかったよね。日曜日、りんちゃんを励ます為にみんなで遊ぼうと思って』


 りんちゃんを励ます為。それが何を指し示しているのかを、俺はすぐに理解した。……やっぱりか。霧島はどう返答をしたのか言わなかったが、やはりりんちゃんはフラれてしまったらしい。


「理由は分かったが、なんでそれで俺の服になるんだよ」

『今ので分かったんだ? ……それとも、何か知ってた?』

「あー……、まぁ、霧島から、な」

『そう……』

「あと、今言ったみんなって誰? なんか俺が入ってるらしいのは分かったけど、お前とりんちゃん以外にいるの?」


 またしばらく間があってから、日向舞は答える。


『……金剛さん』


 なるほど、ね。三人だと数が半端だから人数調整ということか。


 そして、そういった遊びに金剛さんが誘われるということは、どうやら日向舞たちと霧島のことは、金剛さんに知れてしまっていると見ていいだろう……。


 確か金剛さん、遊びに行きたいとか行ってたし、ちょうど良いのではないだろうか。


 あとの問題は、りんちゃんの傷心状態、だけ。


「りんちゃんは大丈夫なのか? あまり無理やり遊びに誘っても疲れさせるだけだろ」

『大丈夫だと思う』

「それはお前が思ってるだけだ。子供が親に虐めを隠すのと一緒で、心配かけたくない奴にほど人は大丈夫なんて言う。だから大丈夫なんて言うやつほど大丈夫じゃない」

『そう、なのかな……』

「そうだろ。一番良いのは、放っておくことだな。傷が癒えるのを待つのが一番だ」


 少し間があって日向舞から「わかった」と返答があった。


『でも、天津くんもちゃんと、しょうりんの事心配してくれてたんだね』

「……まぁな」

『ちょっと考えてみる』

「それがいい」


 そうやって彼女との通話は終わる。危うく休日がまるまる潰れるところだった。まぁ、俺の主張は間違っているとは思わないし、放っておくことが一番というのも嘘じゃない。りんちゃんの為に何かを計画するのなら、それを断念することも、やはりりんちゃんの為でなくてはならない。


 だが。


 その次の日、知らないLINEのアカウントから連絡がきた。アカウント名『りんりん』。パンダかと思った。



――日曜日絶対来て!



 簡潔にして最強の文。有無を言わせる暇なんて与えないほど、強い意思がそこには宿っているように見える。


 だから俺はそれに、“了解”と送るしかなかった。


「――日曜日のこと、聞いたか?」


 屋上で金剛さんにそう問いかけると、彼女は黙々と動かしてた箸を止めた。その日、それまで彼女との間に会話なんてなかったから少し緊張してしまう。なんとなく、金剛さんが怒っていたからだ。


「うん。よろしく」


 とだけ返される。


「というか……目的の方も知ってる……んだよな?」

「うん。りんちゃんの為でしょ?」

「やっぱり知ってたのか」

「そりゃあ、ね。だから私も知ってる。なんで天津くんと日向さんたちが知り合いなのかも」

「そうか」


 どうやら、俺も彼女も全て知っていたのだ。知ってて、敢えて触れなかった。そうやって真実が分かると、俺たちはなんと間抜けだったのだろうかと思えてくる。


 こうして、毎日共にいる時間を過ごしていても、相手に変な気を使い、勘違いは起こってしまうのだから。


 だから、やはり他人とは解りあうことなんて出来ないのだろう。どんなに相手のことを想ってみても、相手の立場になって考えてみても、本当に相手が何を感じてるのかなど、解るはずがない。


 解りあえないのなら、やはり他人となんか関わらない方がいいのだ。


 そして土曜日のことだった。俺は急に鳴り出したスマホによって起こされる。時間は九時半過ぎ。画面にはLINE通話で日向舞が表示されていた。


 ……あっ。


 違うのだ。忘れていたわけじゃないのだ。いや、忘れていたんだけど、違うのだ。ただ、りんちゃんを励ますという目的に、俺の服を買うという行為が結び付かず、思考から切り離していただけなのだ。


 もう、言い訳すら難しい状況になくなくスマホを取る。こうなったら開き直ろう。そして、最悪中止にしてもらえばいい。俺の服なんてどうでもいいのだから。別に服なんて買わなくても日曜日は決行される。裸で俺がそこにいくわけじゃないのだし。


 そう決心して通話を取った。


『……もしかしてだけど、今起きた?』


 開口一番に直球が飛んできて、俺は「ごめん」としか言えなくなる。


『そっか。事故とかじゃないなら良かった。どれくらいでこれる?』


 怒ってない……だと? その反応に面食らいながらも、頭の中で計算してみる。


「ん、まぁ、急げば三十分くらい」

『そう。なら、よろしく。駅地下のカフェで待ってるから』


 そうやって唐突に通話は切られてしまう。


 ……わからん。日向舞が何を考えているのか、まったく分からない。だが、そう返事をしてしまった以上行かないわけにもいかず、俺は支度をする。


 日向舞とのLINEには、何件か俺を探している連絡が入っていた。


――ごめん! 少し遅れるかも!


――今ついた。


――いる? 


――おーい(スタンプ)


――なんかあった?


 俺が寝ている間、彼女は居もしない俺を探していたに違いない。そのことを想像すると罪悪感が沸いてきた。普段だと、居るのにだいたい見つからないのに……。


 ともあれ、俺は急いで家を出る。たぶんだが、三十分では駅まではいけない。もっと長めに時間言っとけば良かったなぁ。などと後悔しながらも、とりあえず駅まで行くしかなかった。















誤字脱字機能について。

新しく入ったこの機能、読者様が修正して下さった文面を、『反映する』と承諾するだけで全ての文が書き換えられる高機能みたいです。

ただ、実装されて数日ですし、バグとかで文が消えたりしたら嫌なので、しばらくは様子見も兼ねて、報告は受けますが編集にて私自身が直すことにします。

反映されることが、ご指摘して下さった方に通知としていくかどうかは分かりませんが、しばらくはその方針でいきます。


ということだけ。別に運営を疑ってるわけじゃないからね! ただ少し疑り深いだけだからね!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ