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ようこそ底辺へ!☆

ジャンル別(現実恋愛)日刊ランキング1位! おいおい……タイトル回収する前に、ボッチが恋愛において最強であることを証明しちゃったよ。これはアレですね……つまり読者最強ということか。

 人間の習慣というものは恐ろしい。毎日、規則的な生活を送っていると体がそれに順応し、意識せずとも無意識のうちにそれをやってのけてしまう。目覚まし時計なんかが良い例だ。目覚まし機能をかけ忘れていたとしても、体はだいたいいつもと同じ時間に起きてしまう。だからこそ、時折びっくりすることがある。昼寝をしてしまい夕方に目を覚ましたとき、外の明るさから朝であると思い込み、且つ、アナログ時計が指している七時を目にして「やっべ! 遅刻だ!」なんて飛び起きて制服に着替えてしまうのだ。そして、すぐに朝でないことに気づき安堵する。はぁぁぁ! タイムリープかと思ったわぁぁ! ……まぁ、これは日の入りが伸びている夏にしか起こらない現象。故に、このドッキリは夏の風物詩でもある。自分で自分にドッキリを仕掛けられるとか、そろそろ俺のボッチスキルがとんでもないな。

 

 そんなボッチの習慣はとてもシンプルで、誰もボッチの邪魔をしないので、かなり規則正しい生活をおくっている。


 ガチャリと開け放った屋上の扉。埃っぽい階段に吹き降りる風。こうして俺が毎日屋上に来ていることも、既に習慣化されつつある。どこの奴が掃除を担当しているのかは知らないが、この、殆ど使われていない屋上までの階段に、風を運んでいるのも実質俺だ。


 そのまま外の陽気を感じながら、いつもの場所に座り弁当を広げる。雨の時は教室で食べるしかないため毎日は無理だが、それでも、俺は足しげくここに通う。もちろん、独りになるためだった。


 だが、今日は遅れてきた来客に出くわした。


――ガチャリ。


 見れば、金剛麻里香が片手に可愛い弁当袋を持って登場。そして、俺の姿を見つけ少し嫌そうな顔をしてから……ガチャリと扉を閉めた。


 一家に一人ボッチって必要だと思う。たぶん宗教の勧誘くらいならこうして簡単に帰らせられるし、泥棒すら追い返せるかもしれない。なにせ、ただの威圧だけで彼女は恐れおののいて帰ってしまったのだから。……ほんと、俺って最強。


 何故か虚しさを胸に抱きつつ、パクパクと弁当を食べていると、再び扉が開く。そこに居たのは金剛麻里香。デジャヴ?? タイムリープ?? いつの間に時を駆けたんだ俺。ふりかけしかまだかけてないぞ……。


 彼女は俺を一瞥し、また扉を閉めるのかと思いきや、今度はちゃんと屋上に足を踏み入れてきた。そうして、俺と思い切り距離を開けた場所に座ると、俺と同じように弁当を広げたのである。

 そう。彼女は俺と同じハブられ者になってしまったのだ。


 まだボッチの生活に慣れていないのだろう。いわばボッチ見習いという感じだ。だから、屋上に来るのも一足遅かった。俺は最速でここまで来れるし、むしろ習慣化されているため無意識でもここに来れる。だが、彼女はまだボッチになったばかりのため、ここを見つけるのに苦労したのだろう。まぁ、すぐに慣れるさ! 辛いのは最初だけだから! そして最後まで辛いから!


 俺は早々と弁当を食べ終えると、新しく入ってきた新人の為に屋上を明け渡してやることにした。先輩なのにこうして後輩にも場所を譲るとか、どんだけボッチ根性が身に染みているのか。


 弁当を片付けて立ち上がる。そしてチラリと見た金剛さんに、俺は固まってしまった。



 金剛さんは……泣きながらお弁当を食べていたからだ。



 俺は白飯にふりかけをかけるが、彼女は涙をかけて食べるらしいな……塩味が効いて美味しいのだろうか……まぁ、食べ方なんて人それぞれだし、別に指摘することでもない。だから、俺が声をかけることもないし、むしろ俺が声をかけると、彼女のプライドが傷つけかねないし、泣いてるところってあまり人に見られたくないだろうし、そもそもの話食事の最中に話しかけるのはマナー上よくないし、だから、だから……だから……。


 ……はぁ。


 俺は諦めて、ゆっくりと彼女に近づいていく。それにピクリと金剛さんが反応した。


 違う。そうじゃない。ボッチというのは独りだからこそボッチだ。教室の中に二人もボッチはいらない。そもそも、ボッチの玉座はひとつしかない。


 だから。


 俺はただ、図々しく現れた新人ボッチをいびりたいだけなのだ。そうやってボッチの玉座から彼女を追い出し、ぬくぬくと自分がそこに居座っていたいだけなのだ。

 

 だから。


 これは俺の居場所を守るためであって、別に金剛さんの為じゃない。同情や優しさではなく、これは単に俺だけの為だ。


 だから。


「……力が欲しいか?」


 俺は金剛さんに問いかけたのだ。


「はっ……はぁ!?」


 しかし、それは怒りにも似た反応で返されてしまう。しかも、顔はこちらを見ずうつむいたままで。笑わせてやろうとしたんだが……どうやら滑ったらしい。


「話しかけんな! 友達でもないくせに! 一緒に……すんな!!」


 その口調は、普段の彼女からは想像すら出来ない荒々しいもの。顔はこちらに向けず威嚇をしている。いつも可愛い可愛い可愛い金剛さんだが、今だけは違った。ちなみに、三回可愛いを言うと可愛いが薄れる。二回ではダメだ。それだとただの強調になるので、可愛さ二倍になってしまうからだ。だが、三回まで増やすと逆に薄れるという効果がある。だから、自分にとってあまり可愛いと思わない女の子には、三回可愛いをつけるといい。可愛いは褒め言葉だし、それを薄めているだけだから悪口にならない。四回つけると、ゲシュタルト崩壊してくるので、もはや可愛いってなに? ってなってくる。三回がちょうど良いのだ。


「俺は、金剛さんが元の地位にまで戻る方法を知っている。だから、それを教えてやろうと思ったんだ」

「元の……地位」

「そう。クラスの中でも一目置かれていて、(けな)されることも、(わら)われることもない地位にまで」

「はぁ!? 私……別に貶されてなんかないし……別に嗤われてもないし……勝手に決めんな」


 勝手に、か。


「なら、このままでいいんだな?」

「……」


 金剛さんは答えない。つまり、そういうこと(・・・・・・)なんだろう。


「この世界にはステータスというものがある」

「……ゲーム?」

「ゲームと言えなくもない。ステータスには、人が評価される項目がいくつもあって、その項目が多い奴ほど……そしてその数値が高い奴ほど、人からよく見られる。霧島なんかが良い例だ。あいつは成績もスポーツも、友達だって多い。それは全てステータスの項目で、そのどれもが高い数値を叩き出しているからこそ霧島は人からよく見られやすいんだ」

「……意味わかんないんだけど」

「金剛さんは、そのステータス項目を一つしか持ってなかった。だから、それが凌駕された途端にハブられた」


「ハブられてない!」


 金剛さんはそう叫ぶと、俺をキッと睨んでくる。涙で瞳は濡れていたが、そこには確かな怒りが揺れていた。


「まっ……まぁ、ハブられてないですよね」


 思わず同意してしまった。


「あんたと一緒にすんな! キモい!」


 その時、金剛さんは両手で持っていた弁当を下に叩きつけた。カシャーンと弁当が転がり、可愛いさで飾られてた中身が無惨にも散らかる。あまりに唐突な発狂っぷりに俺は驚くしかない。


「終わりよ……ぜんぶ、ぜんぶ」


 自暴自棄。金剛さんはそのまま下に手を付いて、そう呟いた。


 その姿が、いつかの俺と重なったような気がした。いや、ここまでじゃなかったが、その悔しさや虚しさを俺は知っていた。

 この先、どれだけ学校に通おうと、どれだけ授業を受けようと、どれだけ時が経とうと、未来の自分は今の自分のまま。こんな苦しさがいつまでも続くなら、いっそ捨ててしまいたいと思う。だから、未来ごと捨てるのだ。


 だが、本当に捨てるべきは未来じゃない。もちろん自分でもない。


 捨てるべきは他人なのだ。


 だから。


「終わってないぞ。むしろ、ここからだろ?」


 俺はその背中に言葉をかける。その言葉は、自信を持って言えた。俺が経験した道だからだ。


「勝手に終わらせんな。そもそも、終わらせることすら簡単には出来はしない」


 簡単に終わらせられるなら、苦悩も苦労もしない。

 簡単に終わらせられるなら、怒りや憎しみなんてない。


 難しいから終わらせられない。そして、難しいなら止めてしまえばいい。


 そして突然気づくのだ。終わらせることなんかよりも、続けて足掻いて見る方が、ずっと楽なことに。何故なら、真なる自分はそれを望んでいたからだ。


 辛いのなんて最初だけだ。始めてしまえば、そんなのはいつか慣れる。


「見限った奴等も裏切った奴等も、まとめて叩き潰せばいい。金剛さんには、まだそれが出来る」


 彼女は霧島に敗れた。だが、霧島に敗れただけで、他の奴等にはまだ敗けていない。何故なら、彼女の持つ可愛いさステータスは、やはり他の女子よりも突出した武器だったからだ。だからこそ、彼女はあの地位にいたのだ。


 そして、その武器が失われたわけでもない。


「……どうしろって……言うのよ」


 金剛さんは投げやりに言葉を落とした。それに俺は答えてやる。


「簡単だ。霧島みたくなればいい。他のステータスの数値を上げればいいだけだ」

「……どうやって」


 俺は少し考える。そして、一番早く取得できそうなステータス項目を口にした。


「取り敢えず、今度の中間テストで学年順位一桁目指せばいい。ステータス項目、成績。上位二十番までは廊下に貼り出されるからな? あそこに食い込めればかなりの地位向上が見込める」


 だが。


「……無理よ」


 金剛さんは力なく笑った。


「私……テストで七十点以上取ったことないもの……」


 ……そうだった。金剛麻里香の持つステータスは可愛さのみ。ということはつまり、それ以外のステータス項目は絶望的ということになる。

 それでもやるしかないのだ。それしか道はないのだから。


「勉強……教えようか……?」


 そんな提案をしてみる。


「あなた、頭良かったっけ?」


 一応、学年二十番以内には入ってるんだけど。……どうやら、俺の全てのステータス項目は、ボッチという特殊ステータスによって、相殺されてしまっているらしい。……いや、相殺して尚この効力。やばいな……やはりボッチの玉座には、俺が座るしかないな。



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― 新着の感想 ―
[良い点] めちゃくちゃわらった笑っ 力がほしいか笑っ
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