生クリームは苦手
「――サプライズでケーキ用意しようよ!」
放課後、人もまばらな教室で一人の女子がそう言った。それは誰かの誕生日の話でもしているのか、仲の良い二、三人のグループ内で話は盛り上がっている。
その様子を横目に見ながら、俺はため息を吐きだす。
サプライズ……ねぇ。
俺は生クリームが苦手だ。だから、ショートケーキも美味しいと思わない。もしもサプライズでショートケーキが用意されたなら、俺はおそらく微妙な表情を浮かべることだろう。そのことを彼らは考慮しているのだろうか? ……いや、してないんだろうな。ケーキは誰でも喜ぶ、サプライズならもっと喜ぶ、みんなでやれば絶対喜ぶ、そんな安直な考えしかないんだろう。だから、ああやって他人を巻き込んで、恥ずかしげもなく盛り上がれるのだ。
俺は、そのグループの話に巻き込まれないうちに退散することにし、そっと席を立つと鞄を持って教室を出た。その所作が見事すぎたのか、俺は奴等から見向きもされなかった。任務達成だ。これまでの俺の教室での日々がここに集約されているのだろう。休み時間は極力人と話さないようタヌキ寝入りをして、昼休みは人目を憚り屋上に潜伏して昼飯。放課後は煙の如くいなくなり即帰する。ここまでになるには実に一年という日々を費やしてしまった。
煩わしい人間関係を省いた超効率的な日々。それはいつの間にか、俺を孤高の存在へと引き上げてしまったようだ。
孤高、それは誰にも理解されることのない唯一無二の高み。その差を埋めることは容易ではなく、気づけば俺はボッチになっていた。俺が悪いわけじゃない。何事も群れなければ行動に移せない周りの奴等が悪い。
決して溢れたわけじゃない。ボッチであることを許容できる人間として炙られたのだ。誰か担わなければならない役割として選ばれてしまったのだ。
だから、俺はボッチであることに後ろめたさを感じない。それを感じるべきなのは、俺をボッチにした奴等だろう。
つまり。
俺には友達と呼べる人がいなかった。
友達? なんですか、それ。