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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
92/160

CHRISTMAS・KISS

香月よう子side

「メリークリスマス!」

「乾杯……!」


 ペリエのグラスがカチリと小気味のいい音を響かせる。


 街中から一筋路地に入った裏町の一軒家フレンチレストラン。

その店のクリスマスディナーを遥人は12月25日の午後6時に予約していた。


「あのコンサートは少し君には退屈だったかな」


真鯛のカルパッチョを前に、遥人は言った。


「クリスマスですから。小さな子向けになるのは致し方ないかと」


 お佳は答えた。


 午後二時過ぎに、約束通りお佳の部屋を訪れると遥人は、お佳を「シティホール」の「クリスマスコンサート」のS席へと誘(いざな)った。

しかし、そのコンサートは、曲の合間合間に賑やかなMCが入るいわば家族(ファミリー)向けで、お佳がと言うより遥人には物足りなかったらしい。


 その日のお佳の装いは、濃紺のベロアのワンピースに黒い本革の7㎝ピンヒールブーツ。バッグは、シルバーラメの小振りのクラッチバッグを手にしている。


 一方、遥人は、アイボリーのスラックスに白いオックスフォードシャツ。赤いネクタイを締め、深い緑のVネックカーディガンと、ややクリスマスカラーを意識したのかもしれない。


 ピアノ部の話や音楽の話、教育学部での学生生活などの話題に二人は興じている。


「ところで」

と、遥人は言った。


「昨日のイブは楽しかった?」


「はい。私の部屋でみんなとプレゼント交換したりして」


「クリスマスプレゼント、か」


 その時、遥人はフィレ肉を切るナイフとフォークを持つ手を一瞬、止めた。


「先輩?」

「いや。なんでもない」

 

そして、遥人は何事もなかったように話題を変え、食事は和やかに進んでいった。


「美味しいですね。このガトー」


 お佳が目を細める。


大きな白いスクエアのプレートに、生チョコレートクリームのガトーががベリーのソースでそれは芸術的にあしらわれている。そのクリスマスケーキまでゆっくりと頂くと、珈琲を飲み終え、遥人が言った。


「そろそろ家まで送るよ。岡田さん」


遥人は伝票代わりのプレートを手にする。

 

「君は化粧直しをしてくるといい」

「でも……」

「いいから」


そうして、遥人はさっさとレジへと向かって行った。



◇◆◇◆◇◆◇◆


 

 夜8時半頃。

 お佳のマンションの前に車が停まった。


「今日は本当にありがとうございました。演奏会に、あんなに豪華なお食事まで……」


いたたまれないように、お佳が丁寧に礼を述べる。


「それでは、今夜はこの辺で失礼します」

しかし、そう言って車を降りようとしたお佳の右腕を、遥人がとっさに掴んだ。


「せ、先輩……?」


 遥人の雰囲気にお佳は気押されている。


「岡田さん。僕も君にクリスマスプレゼントがあるんだ」


 そう言うと、遥人はごく小さな白い紙バッグを取り出した。


「開けてみて」

お佳が持ち手に結んであるリボンをほどくと、中から更に包みが出てきた。


「これ……「ココ・クリスティーナ」のルージュ……」


それは、お佳が好んでいる化粧品メーカー「クリスティーナ」のお姉さんブランド「ココ・クリスティーナ」のクリスマス限定色の口紅だった。


「私に、「ココ」のルージュはまだ……」

 お佳が気後れしていると、

「いいから。つけてみてくれないか」


 そう遥人に言われ、お佳はバッグから鏡とティッシュを取り出した。

 つけている口紅をティッシュで拭い、その小さな四角い面に見入りながら、リップブラシで丁寧に紅をひく。


「うん。やっぱりそのロゼピンク、君によく似合っている」


 満足げな遥人とは裏腹に、お佳はいたたまれずにいた。


「……すみません。私…先輩にプレゼント用意していなくて……」

お佳は自分の迂闊さを心から恥じていた。

 

「ああ。それなら、いいんだ。今から返してもらうから」


「え?」


 そして、次の瞬間。


何が起こったのか、お佳にはわからなかった。


 気がつけば、お佳は遥人の腕の中にいた。


「先、せ、ん…」


 身を強ばらせ、お佳はただ震える。

 無意識に逃れようとするが、遥人の力がそれを許さない。


 そして────── ・・・


 遂に。口唇(くちびる)が、重なる。

 お佳は瞳を見開いたまま、その瞬間に対峙していた。


 それは、ほんのごく僅かな時間だった。

 しかし、お佳にはいつ果てるのかもわからない悠久の時だった。


 口唇がゆっくりと離れ、お佳を胸の中に抱いたまま、遥人は言った。


「これから、ゆっくりでいい。そのルージュをこうやって僕に返してくれないか」


 お佳はすぐには言葉にならない。


 これが。

 これが、大地だったら……

 

 そんな想いが一瞬、胸を過(よ)ぎった。

 

 忘れたはず。

 吹っ切ったはず……


 しかし。

 一筋、お佳の頬を伝う涙。


 それには気付かないふりをする。


「好きだ。佳」


 そう囁かれながら、遥人のキスが額から頬、口唇、白く細い首筋へと降って来る。 


お佳は、震えていた躰を徐々に弛緩させながら、ただそのキスを受け止めていた。




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