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未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
82/160

鳴治館大学【鳴治祭】

菜須よつ葉side

いよいよ鳴治祭の朝。


いつもは講義ギリギリの学生たちも、学祭は別物らしく早朝から準備に大忙しだ。


出店している学生も楽しめるように週末2日間開催される。鳴治祭は有名な大学祭で毎年結構賑やかに行われている。「ピアノ部」の定期演奏会は毎年人気で会場がいつも満員御礼状態なほどの盛況ぶりで今年も期待度が高い。



「何だかあっという間ね」

「準備で忙しかったもんね」

「お疲れ様!」

「楽しもうぜ!」


それぞれが思い思いに言葉を発した。


「宇野は気楽で良いよな」


竣がうのっちに話しかける。


「えっ、俺?」

「うのっちは一人しか居ないでしょ!」

「あはははは」


穏やかだった場が一気に崩れる。


「高遠君、お待たせ。一緒に行こう」


絵梨華が、竣に向かってやって来ていきなり竣の腕に自分の腕を入れて、まるでカップルを思わせる仕草に、竣は一気に迷惑顔になり絵梨華の腕を振り払い


「待ち合わせなんてしていない思うけど!」

「お約束するお話ができなかったから、当日来ちゃった」

「勝手に決めてもらっても困るんだよね」

「だって私、ずっと一緒に行こうって言ったもん」

「俺は了承してない」


思い込みが激しい絵梨華は手に負えないと思ったお佳が声をかけた。


「ねぇ、もう行かない?」

「移動しながら考えるか?」

「サークルの担当時間になったら各自してよ! あっ、うのっちは関係無かったね」

「お佳、わざわざ言わなくても良くね?」


あはははは……


「ついてくるみたいよ」


紅羽が小声で伝える。


「関わらず行こう。その内諦めるだろ」


うのっちは、そう言うが普段の絵梨華を見てきた竣とサークルが同じの紅羽はそう簡単に絵梨華が諦めないだろうと思っている。


竣は、もっとキツく言いたいがサークルの時に紅羽に何かするのではないかと危惧していた。


「紅羽、何かあったら言えよ」


竣は紅羽にだけ聞こえるように話しかけた。


「うん、わかってる」


紅羽は笑顔で竣に頷いてみせた。


鳴治館大学、鳴治祭が盛大に始まりを迎えた。


今日は、お佳が午後から定期演奏会だからそれまでは4人で過ごすことにしていた。


「なぁ、鳴治祭名物の[鳴治巻き]食いに行こうぜ」


うのっちが名案を思い付いたように言う。


「いきなり食べるの?」

「うのっちらしいけど……」


お佳に呆れられ、紅羽にバカにされたような……


救世主? 竣がその場を取りまとめる。


「お佳が午後から定期演奏会だから少し早めに昼食にして[鳴治巻き]を買いに行こうぜ」


竣の優しさから出た言葉だった。


「そうだね、早めに昼食したらみんなで食べれるね」


紅羽が嬉しそうに竣の言葉に付け加えた。


うのっちが、あるものを見つける。


【コーラス部の出し物<輪投げ>】


「竣、あれやろうぜ!」

「あっ、あぁ」


こーのやり取りにお佳が言葉を付け加える。


「負けた方が恥ずかしい話をひとつね!」


これで負けられない真剣勝負になった輪投げ。


この輪投げ、入った輪の数で競うのではなく、1から9の数字が書かれていて輪のかかった数字を足して合計が大きい方が勝者という輪投げ。


輪を5個渡され輪投げ勝負。


うのっちが真剣な顔つきで狙いを定めている。5個中3個が入り「2」「4」「3」で合計が[9]


竣が軽く輪を投げる。輪は棒に引き寄せられるようにストンと入る。5個投げて5個全て見事に入った。さすが硬式テニス部コントロール抜群。勝負は言うまでもなく竣の勝利だった。


「高遠君、すごーーい!」


後ろを振り返ると絵梨華がぴょんぴょん跳び跳ねて喜こんでいた。


「関わるのやめようぜ、時間の無駄だ」


竣が気にすることなく紅羽をエスコートするように背中にそっと支え歩き出す。


お佳が罰ゲームを思い出す。


「うのっち、恥ずかしい話は?」

「あっ、あぁ。昼飯のときな!」

「絶対だからね!!」


時間の許す限り楽しんだ。


「そろそろお昼にしない? お佳と一緒に食べれなくなる」


紅羽が声をかける。


「そうね」

「あぁ」

「おぉ、やっと[鳴治巻き]だな!」


鳴治館大学【鳴治祭】の大学祭執行部の学生が模擬店で販売するのが毎年恒例[鳴治巻き]である。海老・サーモン・イカ・卵焼き・カニカマ・かんぴょう・きゅうり・大葉が綺麗に巻かれた太巻き寿司で豪華な一品なのです。


うのっちのご希望の[鳴治巻き]を食べに移動している時も学祭の雰囲気を楽しんでいた。


「俺ら買ってくるから席取っておいて」


竣とうのっちは買い出しにでた。二人になったと同時に絵梨華が寄ってきた。


「私も御一緒しても良いですよね?」

「断る」

「迷惑なんだけど!」


うのっちは竣に

「お前買い出し頼んでいい? ちょっと話してくる」

「良いのか?」

「あぁ、任せておけ」


そう言って、うのっちは絵梨華を連れて列から離れ紅羽たちの目につかない場所で絵梨華と対峙した。


うのっちは絵梨華に丁寧に話を進める。イラつき始めた絵梨華にも怖じけたり怒鳴ったりせず根気強く話した。絵梨華は、うのっちの話を聞いて、何も言わずその場を立ち去った。



うのっちが、改めて竣と話す機会を設けると言ったからだった。



何もなかったように席に戻るうのっち。敢えて何も聞かない仲間に信頼を感じた。


うのっちは竣にだけこっそり耳打ちした。それに了解の意味を込めて頷いた竣。



鳴治巻きを前にテンション高いうのっち。


「鳴治祭名物の鳴治巻き。贅沢だね」

「具だくさんがウリだからね」

「作るの大変そうだね」

「旨いな」


すっかり鳴治巻きの虜になっている、うのっち。


普段頼り無さそうなうのっちだけど、いざと言う時に頼りになるうのっちのおかげで、これからの学祭は心置きなく楽しめそうだ。


楽しいランチタイムは終わり、お佳は定期演奏会のため会場の方へ向かっていった。


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