表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
未来へ繋がる絆  作者: 香月 よつ葉
大学1年生
81/160

難しい曲、難しい恋

香月よう子side

「そこ! その「crescendo(クレツシェンド)」!」


遥人の声が響く。


「そこはもっとこう、感情を込めて、次第に強く!」


 その言葉に、お佳は再び同じパッセージを弾き直す。


「まだまだ! もっと「奏でる」ことを意識して」


 間近に迫った鳴治祭「ピアノ部定期演奏会」でのラストを飾る大曲、ショパンの「ピアノ協奏曲第一番」の二台のグランドピアノによる連弾。


 (ファー)(スト)ピアノが遥人。

 (セカ)(ンド)ピアノがお佳。


「音楽鑑賞室」での二人の練習が佳境に入っている。


「じゃあ、もう一回、その前の小節から合わせよう」


 そして、阿吽の呼吸で二人の演奏が再び始まる。


それは、そこらの音大生レベルを遥かに凌駕する競演だった。


最終楽章のラストの華麗な一音が鳴り響き、曲が終わると、

「いいね。なかなか良くなった。この調子なら、定演は大成功だ」

 向かい合わせのピアノの前のお佳に、遥人は笑んだ。


「ここらで、少し休憩しよう」

 そう言って遥人は自分のピアノから離れ、お佳の(ピアノ)へ歩み寄った。


 遥人がお佳の弾くグランドピアノにもたれかかると、

「遥人先輩は、第二部大トリで弾かれる「イスラメイ」。調子は如何ですか?」

そう、お佳は問うた。


「ああ。最初はさすがに手こずったけどね。でもなんとか、定演当日までには完成できそうだよ」

「すごいですね! よりによってあの「イスラメイ」を選曲なさると伺った時には、正直驚きました。譜読みだけでもかなり大変な、非常に難解な曲ですのに」


 バラキレフ作曲『東洋風幻想曲〈イスラメイ〉』


 かの「ロシア五人組」のまとめ役と位置付けられている「バラキレフ」が作曲した、“世界一難しい”とも言われるピアノ曲。 

 それを遥人は、少なくとも素人目には完璧に弾きこなす。それは、かなり卓越した実力だ。


「岡田さん。君の「バラ一」も素晴らしいよ」

お佳は結局、ショパンの「バラード第一番」を選曲した。

「バラード第一番」も、 難度Fの超上級者向けの大曲である。


 そんな会話を交わしていた、その時。


「君。ここに何の用だい?」

と、遥人が突然言った。


 その遥人の言葉にお佳がハッと振り向くと、そこには、


「うのっち」


 ドアのところにうのっちが、無言で立っていた。


「あ…、練習中すみません……」


 そう言いながらうのっちは歩み寄り、

「お佳。これ、借りていたレポート。ありがとよ」

と、それだけ言うとうのっちは踵を返し、足早に部屋から出て行った。


「この前の「サティア」の彼だね」

「え、ええ……」


 うのっち……

 何か、難しい、複雑な表情(かお)をしていた。


 でも。

 それが何を意味するのかわからない。


でも。


 何か心にひっかかる。

 何故かズキンとお佳の胸は痛んだ。


そんなお佳の美しい愁いの横顔を、やはり何か思惑をのある顔で、遥人は黙って見つめていた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ