「ピアノ部」でのひととき
香月よう子side
一方その頃、お佳はピアノ部の「音楽鑑賞室」を訪れていた。
「こんにちわ~! 遅くなりました」
お佳が挨拶すると、
「お佳ちゃん、いらっしゃーい!」
「待ってたよー」
「よっ! マドンナ登場!」
部員たちが、それぞれ賑やかにお佳を迎え入れる。
中途入部で最初は不安だったお佳も、最近ではすっかりクラブに馴染んできた。
「今日はまだ誰も弾かれてないんですか?」
いつもは大抵、誰かが何かを弾いているのだが、今日は二台のグランドピアノ共に席が空いている。
「今までモーツァルトとショパンについて、ディベートしてたのよ」
二年女子の先輩がそう言った。
そう言えば、今日は約十数人近いメンバーが皆、長テーブルの前に座っている。しかし、テーブルにはスナック菓子、チョコレート、クッキーなどが置かれていて、いつものように、皆好きに食べながら喋っていたようだ。
「モーツァルトとショパンで……?」
「「どちらが真に、より天才か?!」ていうね」
別の部員がお佳に言った。
「お佳ちゃんは、どう思う?」
「私は……」
お佳は少し考えたが、口を開いた。
「一般的には、モーツァルトは「音楽の天才」と言われていますよね。でも……ピアノだけに関して言えば、ショパンはモーツァルトより更に十倍天才だと思います」
お佳が、オリジナルと言える意見を言った。
「ほら、やっぱり! お佳ちゃんは深いわ~」
「でも、ピアノ限定だろ? ショパンは交響曲もオペラも書いてないし、ピアノ協奏曲ですら二曲だけじゃないか」
「でもそれらを補ってあまりある才能がショパンにはあるわよ」
「結局、良くも悪くもショパンは「ピアノの詩人」てわけね」
部員たちが音楽に関して好き勝手に喋る。
それも、ピアノ部の良い所だ。
「ところでさ~、今度の定演、みんな何弾くか決めた?」
「私は決めた」
「うーん、俺はまだ迷い中」
「お佳ちゃんは?」
お佳に話が振られた。
「私もまだ迷っているんです」
「何の曲で?」
「ショパンの「バラード一番」か、ドビュッシー「ベルガマスク組曲」のいずれかで……」
「ああ、それは悩ましいわねー」
「お佳ちゃんの「バラ一」すごいもの!」
「それを言うなら、ピアノ部初日に披露してくれた「月の光」も神がかってたわよ」
「俺、個人的には、「ベルガマスク」の「パスピエ」聴きたいなあ」
「あ、それはいいわね!」
「今から弾いてもらいましょうよ!」
「賛成!!」
「そ、そんな、先輩……!」
しかし結局、お佳は一台のグランドピアノの前に座り、ドビュッシーの組曲「ベルガマスク」から「パスピエ」を皆の前で弾き始めた。
お佳を取り囲むようにして、或いは、長テーブルの前の椅子に座って、部員がお佳の演奏に聴き惚れる。
そうして、いつものように賑やかに「ピアノ部」のひとときが過ぎて行った。




