お佳・秋の「ピアノ部定演」に向けて
香月よう子side
教育学部三年の先輩で、「鳴治館大学ピアノ部」部長・中井遥人の誘いで、「ピアノ部」に中途入部したお佳。
その後、何回か「アセンブリー」でのクラブ活動を体験し、少し慣れてきた秋のひとときのことだった。
その日、アセンブリーで遥人は全部員を招集し、皆の前で話をした。
「皆も知っての通り、今年も秋の学祭に、恒例「鳴治館大学ピアノクラブ定期演奏会」を催すことになった。来週のアセンブリーで出欠確認をとりたいと思う。できるだけ全部員出演でお願いしたい。それまでに出演予定部員は演奏曲目を決めてきて欲しい」
「ああ、今年はどうしよう」
「何弾こうかなあ」
「ドレス新調しなきゃ」
部員が口々に話をする。
しかし、お佳にはまだ話がよくわからない。
それで、いつものアセンブリーの時と同じように、長テーブル前の椅子に座って、遥人に説明してもらった。
「ああ。ピアノ部定演はね。秋の学祭の時、ここ音楽鑑賞室で、去年の例では、第一部10人、第二部8人。いわば、ピアノ教室発表会形式で、演奏披露するコンサートだよ。衣装もいわゆるピアノ教室の発表会と同じような感じでね」
遥人は言った。
「それで、岡田さんに話があるんだけど」
「何でしょう?」
「君には、第一部トリを務めて欲しいんだ」
「え?」
「多分、今年も去年と同じような感じになると思うから」
遥人は軽くそう言ったが、お佳にはすぐには話が呑み込めない。
それで、遥人が更に説明する。
「今年はピアノ部部長として、第二部大トリを僕が弾くことになると思う。それはともかく。演奏会的に言って、第一部トリも重要だ。それで、君の腕を見込んでお願いするよ」
「で、でも……」
「君なら適任だと思ってのお願いだよ」
遥人は言った。
「何でも相談には乗るから」
お佳は迷ったが、暫し考えて言った。
「では……。もっと詳しいお話を伺えますか?」
「勿論だよ!」
遥人は、テーブルに前のめりになるようにして、話を続ける。
「ピアノ教室の発表会と同じように考えてくれればいい。それなら君は何を弾く?」
「私なら……ショパンの「バラード一番」か「スケルツォ第二番」あたり。それか、ドビュッシーの「ベルガマスク組曲」から一曲とか」
「ああ、大体わかるよ。君らしい選曲だね。その線で弾きたい曲を決めてもらって構わない」
しかし、遥人は更に意外なことを言い出した。
「それで話がまだあるんだ」
「何でしょう?」
「演奏会の本当のラストに、ここの二台のグランドピアノで、何か「ピアノ協奏曲」を一曲連弾することになっている。それがピアノ部定演の最大の目玉、定石でね」
ここ音楽鑑賞室には、「YAMAHA」のグランドピアノ二台が向かい合わせで設置されている。それを最大限に有効活用しようというわけだ。
「二台のピアノ連弾用に編曲された楽譜で、ファーストピアノとセカンドピアノに分かれて連弾する。今年は僕がファーストを演ることになると思う。それで、セカンドを君にお願いしたい」
「そ、それは……」
絶句するお佳に、遥人は更に話し続ける。
「また、次のアセンブリーで部員達と話をすることになるけれど、僕の本心ではそう考えている。そして恐らく、他のみんなも承諾すると思ってのことだよ。だから、この話を今からもう少し詳しく詰めたい」
遥人は真剣に言った。
「ここ数年で言えば、チャイコの一番、ラフマニノフの二番。モーツァルトの二十一番を演ってるよ。それで今年は、ベト「皇帝」か、ショパンの一番あたりを考えているんだけど、岡田さんの率直な意見が聞きたい」
「私は……」
お佳はまた暫し迷ったが、よく考えた末に言った。
「ショパンの「ピアノ協奏曲第一番」なら……弾いてみたいです」
「よく言ってくれたね!」
遥人は感激したように、そう言った。
「話が早くて嬉しいよ。ところで、君の家のピアノ環境はどうなの?」
「私はマンションに一人暮らしなんですけど。ピアノ部に入部して、実家から「クラビノーバ」を取り寄せたんです。だから、普通に練習できます」
「それは良かった!」
遥人は嬉しそうに言った。
「じゃあ、今度楽譜を渡すよ。それで自主練してもらいながら、今後ここ音楽鑑賞室で、適宜二人で練習していこう」
遥人はすっかり乗り気になっている。
そうして学祭でのお佳のポジションが決まった。




