うのっちの嫉妬
香月よう子side
午後三時限目、お佳は、学内のカフェテラス「サティア」に居た。
空きコマの時間なので、お茶をしながら勉強しているところだった。
「君」
その時、声をかけられた。
読んでいた本から顔を上げると、
「ああ、やっぱり君だ!」
身長175㎝くらい、程よい中肉中背でさらさらの黒い髪。なかなか整った顔立ちの男性がそこに立っていた。
「今朝は悪かったね」
それは、午前の授業前に廊下でぶつかり、落とした物を拾うのを手伝った相手だった。
「今朝は本当に助かったよ」
「いえ。あなたは……?」
「ああ、僕は教育学部三年の中井遥人。君は?」
「私も教育学部生です。一年の岡田佳と言います」
すると、
「君があの岡田さんか。なるほど! 噂に聞くわけだ」
遥人は、大仰にリアクションした。
「あの、噂…てどういう?」
「今年の新入生で一番綺麗なミス・キャン、て君の名前は有名だよ」
お佳は少し困った。
そう言う言われ方は正直、慣れている。
しかし、そんなことをおくびにも出すわけにはいかない。曖昧にお佳は微笑んだ。
「珈琲くらいなら奢るから、同席してもいいかな?」
空のコーヒーカップを確認して、遥人はそう言った。
「え、ええ」
「じゃあ、待ってて。珈琲買ってくる」
そう言うと、遥人は券売機へと向かっていった。
しかし、
「そんなケーキまで。申し訳ないです!」
「サティアのケーキの値段は知ってるだろ? 遠慮しないで」
彼は、ホット珈琲だけでなく、チーズケーキも買ってきてくれてお佳の前に差し出したのだ。
「どうしたの? 食べないの?」
遥人は早速、自分の分のケーキにぱくついている。
それで、お佳もようやく珈琲に口をつけた。
「研究社の「教育心理学」か。一年生でこの本に目をつけるとは、君も真面目に勉強してるね」
お佳の前にある本を見て、彼は言った。
「親友が教えてくれたんです。彼女も教育学部の三年の先輩に教えてもらった、て」
「へえ、名前わかる?」
「小仲?…紘子、先輩」
「ああ、小仲さんか。わかるよ。彼女も勉強熱心だからね」
それから、お佳は遥人と小一時間程、話し込んだ。
遥人も優等生らしく、講義でわかりづらい所を質問したらすらすらと解説してくれて、つい熱心に話を聞いてしまった。
その時、
「お佳!」
「うのっち」
うのっちがそこに立っていた。
「四時限目に遅れるぞ」
「やだ。もうこんな時間?!」
「そう言えば、四コマまで後十分か」
遥人は手元のスマホで時間を確認した。
「すみません。こんな時間まで。珈琲とケーキもごちそうさまでした」
お佳が軽く頭を下げる。
「こちらこそ、楽しかったよ。……ところで、彼は岡田さんの彼氏?」
うのっちを見ながら、遥人は言った。
「え?! 違います! 単なるクラスメートです」
お佳はきっぱりと否定した。
「お佳。講義室、急がないと!」
「ええ、沖田教授、遅れると欠席扱いだものね」
うのっちに相槌をうちながら、
「では、中井先輩。これで失礼します」
そう言って、お佳は席を立った。
「あ、岡田さん!」
その時、遥人が言った。
「はい?」
「また今度、一緒にお茶しよう。君の児童心理論は、とても興味深いよ」
「あ、ありがとうございます」
「お佳」
「わかってる。……失礼します」
そうして、お佳はその場を辞した。
お佳と二人並んで講義室へと向かいながら、
”なんだよ、あいつ?!あいつとどういう関係だよ!”
そうお佳に問い詰めたい想いを、うのっちは必死に抑えていた。




